えもの(適当)



「いいか。逃げるときは…」
「振り返らない!」
「集合場所には迂回して移動する!」
「逃げ切れないと思ったら、無理して移動しないで隠れる!」
「よし!じゃあ演習開始だ!」
「「「はーい!」」」
この演習の目的はただ一つ。
敵に扮したアカデミー教師から逃げ切って、目的地に巻物を届けること。
高学年の補習授業なんだが、例年トラップにひっかかったり、逆に恐慌状態に陥って教師に大技かましすぎて演習場が破壊されたりと、色々とあるのが困りものだ。
実戦さながらってのが売りだから、当然それほど手加減しない。そしてそのグループごとに鬼…つまりは敵に扮した教師は決められている。
正直言って当たりはずれがあるわけだ。
追尾の仕方にも相性ってもんがある。
幻術系が得意な教師が苦手な生徒に当たればそれで終わりになることもあるし、逆に苦手な教師が得意な子に当たればそれなりに効果がある。
くじ引きだから泣いても笑っても担当が替わることはない。追っ手の教師一覧は開示されてるから、推理力もある程度必要になる。
捕まったら即失格。わかりやすいが、おかげで子どもたちの緊張もすごいらしい。
逃げ切れば勝ち。そしてもちろん教師を倒すという手もある。
隙を突いて指定の札を貼るだけなんだが、当然のことながらアカデミー生にそう簡単にできることじゃないし、自分の担当じゃないのに貼ったら意味がない。要は結構頭も体も使わなきゃいけない訳だ。
何組にも分かれたグループはお互いの追っ手が誰かしらないから、追いかけてくる教師の招待を探りながら振り切るのに必死になる。
…ちなみに毎年俺はゴール担当だ。
トラップが本気すぎて危ないってどういう評価なんだと思うが、確かにちょっとやりすぎ…なのか?
殺傷能力が低くても、アレじゃ誰も残らないとか言われると少しばかり寂しい。
全体に仕掛けるトラップは俺がやってるけどな!誤って教師までひっかかったけど。
…でも俺のせいじゃないぞ!ちゃんと複合トラップだからふんじゃダメな石とか教えといたんだ!
カモフラージュ真剣すぎるって泣かれたから、流石に最近はちょっと分かりやすいのにした。
だからゴールに急いでいる途中でまんまと引っかかっている大きな生き物を見ておどろいたのなんの。
山間部に良く仕掛けられるいのしし用の罠を模したトラップ。
トラップの上を走ったときに網が持ち上がって吊り上げられるタイプなんだが、そこにすっぽりと人間が収まっていたのだ。
「え、ええええ!?」
闇夜に目立つよなぁっていつも密かに突っ込みを入れていた純白のプロテクター。抜けるように白い二の腕には血の様な赤で刻まれた永久化粧…木の葉の印が刻まれている。
ケモノの面は幸い外れていないが、網の中で丸まった人間はどこからどうみても木の葉の暗部だった。
「…これ、アンタ?」
「は、いぃ…!」
やっちまった!っていうかなんでこんな子供だましなトラップにひっかかるんだよ!
「そ?」
…の割りに怒ってはいない…のか?表情が読めないからいまいち何を考えているのか分からない。
とりあえず泣いて謝るべきだろうか。まだ死にたくないしゴールにいかなきゃ子どもたちを待たせちまうし、トラップに引っかかったのを回収していかなきゃいけないし!
まあこの人も引っかかってたんだけど!
「…アカデミーの演習なんです。ご迷惑をおかけしました」
とりあえず網を外す。解放しやすいように一箇所だけ緩いところをつくってあるから、そこからなら子どもたちだって内側から簡単に破れる。
なのに、この人はどうして大人しくぶらーんぶらーんと間抜けな姿でぶら下がって…。
「んー。楽しかったよ。おもしろい仕掛けがあるなぁって思ったら、バチーンって」
…興味本位で態とひっかかったんだろうか。変わった人だ。
「あのう。俺、山の上で子どもたちが待ってるんです…!」
網をとくのが恐い。多分怒ってなくてもそれなりの仕返しがありそうな気がする。暗部への偏見かもしれないが、まことしやかに囁かれる噂の数々からすると、俺の命は風前。
逃げたい。どうにかして。
「んー。じゃ、それ終わった後でいっか。…じゃ、また」
ダメージ覚悟で逃げ出そうとした途端、男の姿が消えた。
「なんだったんだ…!」
逃げそこなったというかなんというか…一体なんだったんだ?
「…ま、まあいいか」
深く考えると恐いからな。そういうことはほっとくに限る。
そう考えることにして、さくさく山を登って子どもを鈴なりになる位拾って、今年も大量だとため息をつきながら頂上で弁当を食い始めた頃にはすっかり忘れかけていた。
「おかえりー」
「わー!?」
「いただきまーす」
「え?え?あっあぁん!」
…で、うっかり何も考えずに帰宅したのが夕方で、飯を食う前から俺が食われるという憂き目にあったのだった。
*****
「ううぅ?」
「トラップの腕いいよねぇ?」
「い、だ、め…だって!さわんな…!」
「あとかわいー」
「頭おかしいんじゃないのか!」
「体もだけど中身が最高。おもしろいし!」
「…ほ、褒めたって何にもでねぇぞ!」
「えー?一杯出たじゃない」
「やっ!だ、だからさわんなって…!そこのことじゃねぇし!」
「がんばりやさんだし?」
「う、うぅ…!」
褒められなれてない俺にとって、手放しで褒めてくれる上になんだか知らないがやたら触れてくるこの人は、非常に扱いづらかった。
父ちゃんと母ちゃんがいなくなってから、人肌ってものに飢えていた。
それに俺が捕まえちまったっていう負い目もあって、どうにも抵抗がし辛い。
突き放していいのか怒鳴りつけていいのか迷っているうちに、傍若無人な振る舞いを許し、 痛いのに気持ちイイという更なる混乱の局地へと追いやられたのだ。
「捕まえられちゃったし、恩返し?」
「なんか違う気がするのに上手く言い返せねぇ…!」
なにもかもがまちがっている。…そんな気がしてならないのだが。
「いいじゃない。幸せにするよー?」
「ううううう!」
…落とされた。
なんかもうこの人なら大丈夫な気がしたんだ。いっそ本能ってやつなのかもしれない。

で、その獲物が上忍で暗部で恐ろしいことに手配帖にも載っているなんてことを知ったのは、深刻そうな顔の里長に呼び出されてからだったんだが。
そのときにはとっくにこのイキモノの振る舞いにも慣れ、手放せなくなっていた。
「よいのか…!こ、このようなやつで!お前には良い嫁を…!」
「う、その!この人、いい人なんです!」
「うぬぅううううう!」
「じゃ、そういうわけなんで」
いつの間にかいるし、三代目がものすごい勢いで迷ってるのはわかったけど、そのまま男を連れて一礼してから逃げた。
「やーこれでご両親に挨拶って終了?」
「え?え?ええ!?」
「名実共に俺のモノってことで」
「え?あの!」
「言いふらしておきます」
「待て待て待て!」
「幸せになりましょうね?」
この、笑顔に弱いんだ。何もかも何とかなりそうな気がしちまうんだよ!くっそう!
「幸せに、しまくってやるからな!俺だって!覚悟しろ!」
勢いで啖呵を切ってみたものの、その返事が振るっていた。
「ああ、それならへーき。だって一緒にいれば俺は幸せだから」
しれっというんじゃねえ!と叫ぶ前にキスされて、なんか俺まで盛り上がって家に帰っていちゃいちゃして…まあこういうのもありだなぁなんて思ったのは…三代目には秘密だ。

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適当。
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