年の初めの(適当)

「あけましておめでとうございます」
新年の受付で繰り返されるお決まりの挨拶に、なぜかその上忍は硬直した。
「イルカせんせ?」
かろうじて聞き取れた言葉はそれだけ。何がまずいのか検討もつかない。
「あ、はい。あの。新年ですので三箇日はこの挨拶なんですよ」
毎年この決まり文句は替わっていないはずなんだが、どうしてこんなに驚いてるんだろう。
「そ、ですか。えーっとその」
そう言ったっきり、黙り込んだ。
何なんだよこの人。火影様は今挨拶回りに飛び回ってて里にいないし、この人の知り合いっぽい人も多分任務だよな?
…そういえば、この人…っていうか上忍がここにいるのは珍しいな。
毎年毎年火影外遊警備とか、大名の宴席だなんだと面子のために上忍が必要になる任務が多くて、里にいることは珍しいのに。
勿論戦力として必要になる任務が優先だが、基本的には慰安もかねてるらしいし、見栄えもして腕もいいこの人がこの時期にここにいるのはめったにないことなのかもしれない。
わざわざ季節の挨拶なんてしてることを知らなかったのかもな。
バレンタインのときなんてチョコくばったりしてるんだが。
ホワイトデーにくノ一の皆さんからささやかなお礼とやらで怪しげな薬だの飴玉だのをもらうのもご愛嬌だ。
この間のクリスマスは…散々だったけどな。
そういえば誰だったんだよサンタ帽かぶれば言いなんて言い出した奴!おかげで延々と来る忍に笑われつづけたんだぞ!ツリーだけでいいよな普通!
…ってまあそれはおいといて。
この人からしたらゆるい中忍がふざけてるくらいに思われてもおかしくない。
あいまいな笑みを浮かべてここは穏便にすませようとした。
「その格好」
「え?ああ、今年からその、季節感を出すことで依頼を増やすという試みの一環で一応。お見苦しかったら申し訳ありません」
そう、今日の俺の格好は羽織袴ってやつで、着替えるのに相当面倒な代物だ。
変化で誤魔化すという案もあったのに、備品管理も掛け持ちでやってる連中がわざわざ調達してきたんだよな…。
潜入時に不審に思われないようにそれなりに着付けの技術なんかは身につけてあるが、まさに借り物。違和感があるのが当然だ。
「似合って、ます」
「は、はあ。そうですか。ありがとうございます」
礼を言うのもおかしい気がしつつ、とりあえずは刺激しないことを選んだ。
これ以上受付所で粘られると、緊張感で俺が倒れそうだもんな。
「…ヤバイ」
「え?なんですか?」
今この人なんか言ったような気が。…気のせいか?
それにしてもなんだか顔が赤い。外が相当寒かったんだろうか。受付書は雪下ろしの依頼に来るお年寄りが多いから結構暖房利かせてあるんだよな。のぼせちまったのか?
「いーえ。…イルカせんせ。今日はこれからお暇ですか?」
うっすら赤いままの上忍に聞かれたので、つい正直に答えてしまった。
「あ、いえ。三箇日に出勤したので、火影様から宴席に呼ばれてます」
そのための仮装なんじゃないかと実はちょっと疑っている。
まあいまさらだけどな。ただ酒を飲めるならその程度のことには目をつぶれる。
もしかして何か用事があったのかもしれないと思ったのは、へにょりと眉を下げる上忍を見てからだった。
「そうですか。そりゃ残念」
「そ、その。えーっと。ちょっとだけなら…!」
「…今日は止めておきます。また今度」
ああやっぱり何かあるんじゃないか。ただ酒なんかよりそっちの方が重要だろう。
「いえ!その、気になりますし。できれば今…」
ん?あれ?顔近い。なんだ?え?
おもむろに顔の半分を覆っている布を引き下げた上忍がにっこり笑ったのを確かに見た。
「こーいう用事です」
「んむ!?」
一瞬とはいえ確かに唇が重なった。それはつまり。
「ななななな!?なんてことするんですか!」
「あんまり色っぽかったからですよー?…今度はちゃんとしましょうね?」
言いたいことだけ言って、上忍は姿を消した。
「なんなんだよ…!」
驚愕と怒りとそれからほんの少しだけ胸に残ったこのもやもやする思いはなんだろう。
…今度とやらのときに聞いてみようか。
「…とりあえず。ただ酒飲んでから考えよう」
年の初めに始まったばかりのこの思いとは、どうやら長い付き合いになりそうな予感がした。


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適当。
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