愛ってなぁに(適当)


滴る汗が握り締めたシーツに歪な円を残していく。
閉ざされた部屋の中でこうして背後から貫かれて、揺さぶられて…もうどのくらいたっただろう?
「ふっ…ぁ…!」
「なーに考えてるの?」
耳をくすぐる掠れた声が、身の内から熱に焼かれた脳を炙る。
我が物顔で居座る他人の肉におびえるばかりだった粘膜は、行為が執拗になるに連れて支配者の欲望に媚びるかのように口を開き、今はその蹂躙を悦ぶかのように締め付けて離さない。
やめてくれと叫んでいたはずの口からこぼれるのは嬌声ばかりで、自己嫌悪より圧倒的な快感に、まともな意識を手放して久しい。

この上忍は、何も欲しがらない人なのだと思っていた。

持ち歩いている本にはそれなりに執着を見せているらしいが、上忍らしい豪遊も、色がらみの醜聞も聞こえてこなかった。
教え子を通じて関わるようになってから、多少は噂話にも耳を傾けるようになったが、女にもましてや男になど執着したなどという話は聞いたことがない。
女の方からひっかかりに行っても、するりと受け流されるばかりでまともに付き合えたものなどいないのだと、男と同じ上忍師であるくノ一からため息混じりに語られて、同じ男としてうらやましいとももったいないとも思ったものだ。
「あいつには、欲しいものなんてないのよきっと。…全部なくしてしまったからね」
そう言われてみれば、時折瞳の奥に見え隠れする影は深く淀んで、干からびた悲しみの残滓がこびりついているように見えた。
自分にも覚えのある感情。失ったものの大きさにぽっかりと穴が空いてしまったことにすら気づけなくて…全てが色あせて、何もかもが曖昧で、何かを欲しいなんて思えはしなかった。
元々情の深い人なのだろう。失ったものを思い続け、その痛みに耐えてなお忍であろうとしているのだから。
強い人なのだと思う。
一度任務にでれば、仲間をかばい、確実に任務を成し遂げる。つまりはそれだけの力があるということだろう。
受け取る報告書に残されるのは淡々とした事実だけだが、それを目にするだけでも男がどんな戦い方をするのかは想像できた。
己に妥協せず、戦い続ける男は暑苦しいまでに努力を愛する自称ライバルの上忍と、ある意味とても似ているかもしれない。
どこか歪だと感じずにはいられなかったが、それでも男は賞賛に値するだけの実力がある。
年齢の割りに老成した雰囲気の男を、もう少し人間らしく生きればいいのになどとのんきに考えていた自分が甘かったのだろう。
本当に何がきっかけか分からない。
ただ男はふらりと俺の部屋に現れて、あっさりと俺をねじ伏せた。
おざなりに慣らされただけで強引に突っ込まれた時には、痛みと羞恥で言葉でも体でも抵抗した。
それを簡単にいなされて気が付けば拒んでいるのか強請っているのか自分でも曖昧だ。
「ぁっはぁっ…んっ、も、ぅ…!」
「ん、もうイっちゃう?いくらでもどーぞ?…俺が満足するまで止めるつもりもないけどね」
「ひぅっ…!」
揺さぶられるたびにとろりと溢れるそれが、内側から溶け出した己の一部なのだと錯覚するほどに、暴れまわるものの熱に溶かされてしまっている。
「なにもいらなかったのに欲しいって思わせたんだから、責任取ってね?」
その台詞すら俺の頭からはとろとろと溶けて流れてしまうばかりで。
「ッ…あぁっ…!」
真っ白にはじけた瞬間に、だからきっと一緒に手放してしまったのだ。
理性も、それから…なぜこんなことをしているのかってことすらも全て。

「ねぇ。もう全部俺のだから、どこにも行ったりしないでね?」

傍らで笑う男の瞳からこぼれる美しい水すらも蒸発させてしまいそうなほど熱気のこもった部屋で、二人を隔てる境界すらも溶けてしまえばいいのにと願った。


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適当。
二人とも溶けちゃえばいいのに的なノリでひとつ。
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