梅雨の過ごし方(適当)


朝っぱらからこんなことしているのは、雨が降ってるから外に出たくないなんて言い出した男のせいだ。
久々の休みなのだから、好きに過ごせばいいと言った途端に俺の視界は反転した。
俺を見下ろす満面の笑みを浮かべた男に押し倒されたのだと理解する前に、その熱心な愛撫のおかげで服も自制心もどこかへ行ってしまった。
「ん、ぁ…!」
「もっと腰上げて?」
興奮に上ずった声は甘い。いつもこれにそそのかされるように、今までの常識すらかなぐりすてるような行為を受け入れてきた。
だが今は無理だ。
煮えきった頭は吹き込まれる吐息すらも快感と捕らえるのに、過ぎたそれに身もだえすることはできても、繰り返された絶頂に体中の力は抜け切ってしまっている。今がいつなのかも曖昧だ。
こういうときに男が上忍なのだと思い知らされる。
どこまでも狩る側のイキモノなのだ。この男は。
獲物である俺を逃がすことなどありえない。それこそ全身余すことなく味わって、欠片も残さず綺麗に食い尽くされてしまうだろう。
最初は確かに拒むことしか考えていなかったはずなのに、俺の生活はあっという間に男に塗りつぶされ、少しずつ、だが確実に侵食されて…気づけばこんなことまで許す仲になっていた。
食われる喜びなんて知りたくなかったはずが、自分の体は同じ雄の肉を身の内でを食むことを覚え、恐ろしいことだがそれに飢えることさえある。
…相手は、この男しかありえないと思う辺り、どこまでも男の手の内のようで悔しくもあるのだが。
思考はとろとろに蕩けて、快楽を散らす努力は激しさを増すばかりの行為の前では無力だった。
己の体さえ支えきれず、突き入れられるたびに体をひくつかせるだけの俺に焦れたのか、犬のように四つんばいにされて腰を抱え込まれてしまった。
後ろから激しく出入りする性器は、幾度も熱液を受け止めてぬかるんだそこをかき回し、ぐちゃぐちゃと卑猥な音を立てている。
思考などとっくの昔に手放した。
こんな状態で出来るのはせいぜい終わらぬ快楽に曖昧な恐怖を覚えて、男に懇願することくらいのものだ。
「もう、だめ。やめ…!」
数えるのもやめてしまった絶頂の波がすぐそこまで来ている。
こみ上げるものが快感なのか恐怖なのかそれすらも曖昧で、シーツの海の中でもがき、己の中を一杯に満たすモノを締め付けた。
かすれてはいても、俺の声が聞こえていないはずがない。
俺よりはるかに耳の良い男なら、ましてや俺の声なら、聞き逃すわけがない。
壁一枚所か、俺には到底聞き取れないほど遠くであっても易々と俺の声を拾ってみせる男なら、絶対に。
それでも元凶である男は、どろどろのそこを穿つことを止めなかった。
「もう潰れちゃうの?」
…もっとつながっていたいのに。
懇願に懇願で返してくるなんて、ずるいじゃないか。
離れたくないのも、失うことなんて考えたくもないのも、こうしている間だけは忘れられる。
まるでタチの悪い中毒だ。
互いに溺れあって、きっともう戻れない。
こうして食らい合うのを止めたら、きっと二人とも互いに飢えて滅びるしかないだろう。
「あ…っふぁ…!」
それでも、限界は来る。
真っ白に弾けて溶けて、内に注ぎ込まれる執着の証を受け止めた。
「…っは…ぁ…!どうしよ。止まれない」
止まれないのはこっちも一緒だ。
指一本動かせないほど、全身から力というものがすっかり抜け落ちてしまっているというのに、満たされる喜びが甘すぎるのだ。
受け止め続けた熱のせいで自制心も羞恥も…なにもかもが溶けてしまったに違いない。
「もっと。でも顔、みたい」
すぐさまその願いは叶えられた。
俺しか映さない瞳に、安堵と、それからぞくぞくするほどの快感への期待で身震いする。
「今日はずーっと好きなことだけして過ごすから」
それはきっと、俺の望みでもある。
「アンタの好きに」
獲物を食らう獣の笑みに応えるために、かき集めた力でどうにか差し伸べた指を男が食む。
うっとりと目を細めるのは、俺の、俺だけの獣。
満たせるのは自分だけだ。俺を満たすのが男だけであるように。
期待に湿った吐息を吐き出して、これから食らいつくされる喜びに酔った。


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適当。
しけっぽい季節なので。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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