天気がいいから玉にはいいかとふらっと散歩にでたつもりだったんだけど。 「は、早まるなー!」 何故かいきなり羽交い絞めにされた挙句に、その勢いで山道を転がり落ちる羽目になった。 「ちょっと、あんたなにすんのよ…」 当然無傷だ。コレでも上忍だし、いきなり飛びついてきた相手を庇う余裕くらいあった。 でも、なんでこいつ泣いてるわけ? 「里抜けなんてしたらだめだ…!」 「…一体何の話よそれ」 何を勘違いしたのやら。 確かにこの先をずっと進めば、里の境に差しかかる。 そう、ずっと進めば。だ。 つまりここからなら里の中心の方がずっと近い上に、追い忍になったことはあっても逆はありえない。 そんな誇りを捨てるようなマネをしたら、先だった友にも顔向けできなくなる。 「え?あれ?」 俺の不審げな視線を受けて、どうやらやっと己の勘違いを自覚したらしい。 泣き顔が驚愕に変わり、それからまた泣き顔に変わるまでは一瞬だった。 「…泣く前に、俺の上から降りて頂戴よ」 俺の些細なお願いに、人の上にのったままの男は答えの代わりに盛大に泣きじゃくってくれた。 ***** もさっとした外見から年齢を勘違いしていたかもしれない。 俺とそう年は変わらないように見えた男は、どうやら年下というか…随分幼い様だ。 少なくとも中身は。 「だって、友達だったんです」 「あ。そ」 「散歩だって、その日も」 「はいはい」 「…でも、抜けたんです。その日に」 「あー…そーなの」 勘違いした理由のようなものは分かった。 迷惑なことはなはだしいが、素直に里の犬でいられなかった馬鹿が、少なくとも一人はいたってコトだろう。 どうせならこの男ごと抜けていてくれれば、俺は今頃久しぶりの里の空気を堪能し、平穏な眠りにでもついていたかもしれないのに。 「…だから、俺は」 「ぴーぴーないて俺に縋りついたって?」 「ごめんなさい…」 泣き虫の中忍ならありそうなことだ。 友達だかなんだか知らないが、それだけ相手のことを理解していなかったってことだろう。 苛立ちを覚えたのは過去の自分に似ているからだろうか。 取り返しがつかなくなってから悩むなんてところが特に。 「俺は散歩なの。里抜けなんて意味のないことをする予定はないよ。…あんたも帰りな」 子どもにするように頭にぽんと手を載せただけで、男は体を大げさすぎるほどに跳ね上げた。 「俺、おれは、ころしたんです」 この言葉の意味が分からないほど馬鹿じゃない。 だが意外だったのも事実だ。 どうも鈍くて子どもっぽく見えるこの男が、抜けようと考える程度には腕の立つ人間を消したのか。 それも、最後の最後まで説得等言う名の無駄な努力を繰り返しそうなこの男が。 「で?そんなの当たり前でしょ」 「そう、ですね。何度も帰れといったのに」 「…そ」 この性格ならそうだろう。 真面目一辺倒の顔だ。 「任務以外で里を出ようとしたら、俺はころさなきゃいけなかった。…いつもみたいに」 「へぇ?」 これはまたさらに意外な話だ。この口振りからすると、この男は里の境界を守る特務を与えられた忍だろう。 腕が立ち、頭のできもよくなければできないはずの任務だ。情報も技術も流出し、里の根幹を揺るがしうる里抜けは、それなりに適正も能力も求められる。 この男は第一印象よりずっと優秀だってことだ。 「あなたは、違いますよね?…逃げたりしない」 空ろな瞳に俺を映して、縋るように手を伸ばす。 …男はきっと俺を見ていない。 それがどうしてこんなにも腹立たしいのか。 「逃げないよ。あんたのおもちゃになってやる気もない」 「あ…」 振り払った手を不思議そうに見つめている。 切欠は痛みか驚きか…だが、男はやっと俺を見た。 「で、どうすんの?帰らないの?帰らないなら…痛い目見た分、それなりに責任取ってもらいたいんだけど?」 いっそ押し倒してしまおうか。無骨な男相手なのにこの危うさのせいだろうか。 自分でも不思議に思うほど欲を煽られる。 「かえらないっていったら、そばにいてくれるんですか?ずっと」 黒く潤んだ瞳は霞を纏ったように濁り、夢見るような口調でそういった。 そうか。そういう手もあったか。 「いいよ。おいで。…今日からアンタ、俺のね?」 その言葉に酷く安堵した顔で笑った男は、それからずっと俺の側にいる。 …血を流すたびにそれがあなたでないことが嬉しくてたまらないと言う男は、きっとどこか壊れたままなのだろう。 忍としての能力に見合わない精神を守るために。 それを嬉しいと思う自分よりは、よっぽど健全だが。 この男がみるのは俺だけだからそれだけで十分だ。 月夜の散歩道で刃を構え、うっとりと俺の後をつける男が、いつか…俺に終わりを与える日が来るんだとしても。 ********************************************************************************* 適当。 若干ヤンデレら。。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |