とける(適当)


団扇が運んでくる空気はねっとりと湿って蒸し暑い。
扇がないよりはましだが、まるで自分が溶け出していってるんじゃないかと思うほど止めどなく汗が流れていく。
「あっちぃ…」
そりゃそうだ。だって夏だ。暑くない夏なんてのは、まあたまにはあるかもしれないが、それはそれで農作物が採れなくて困ったりするからやっぱり夏は暑いから夏なんだ。
自分だってソレは分かってるが、分かってるからって暑くなくなるわけでもない。
思わず口をついたのは、ただひたすらに本当に――暑いからだ。
この所の暑さは歩いているだけで体力を奪う。忍以外の一般人には熱中症だの熱射病だので倒れる人々が後を立たない程で、忍である俺や同僚たちも大分ぐったりしてきている。
今日は久しぶりの休みだってのに、また殊更暑いし、運の悪いコトにちょっとした面倒ごとも抱え込んでしまった。
ソレがなければおんぼろのクーラーと壊れかけの扇風機しかないとはいえ、涼むことが出来たはずだ。
分かっているのはこの暑さに耐えるしかないってことだけ。そう、ただそれだけだったのに。
「暑いっていっても涼しくはならないよー?」
そう言ったのは、くすくす笑いながら伸びきって猫みたいに床に転がっている男。
同じ部屋で過してるっていうのに汗の一つもかかずに涼しい顔だ。
見ている。俺を。…この顔は絶対に何か企んでる。
「そりゃそーですね。はいはい。上忍様の言う通りー」
暑さにうんざりしているってのを見せ付けつつ、俺は男を警戒した。
あんまりにも汗が凄いから水風呂にでも入ってしまいたいが、こういう顔をしている時に無防備な姿を晒すのは抵抗がある。
板張りの床に滴る汗が水溜りを作りながら、何でこんなコトになってるんだろうと考えてみたが、答えは出なかった。
「あ…」
ふっと顔を上げたのは、小さな気配を感じたから。
開け放った窓からふわりと舞い降りた白い鳥は、先ほどから人の神経をすり減らしてくる男の指先に留まると、すぐに紙切れに変わった。
「停電、もうちょっと掛かるってさ」
やはりか。予想はしていたが、やはり落ち込むモノは落ち込む。
そもそもが湿度と熱気でぐったりしていた身体が、余計に重くなったように感じた。
クーラーも扇風機も動かない。暑さは最悪チャクラでなんとかするとして、後は…冷蔵庫の中身位だろうか?
この所の暑さで買い物に出るのも億劫になったお陰で、あまりものが入っていないのが唯一の救いかもしれない。
「あつ…」
汗が滲み、滴る。
まるで俺自身が溶け出しているかのように。
「暑い、ね?」
するりと気配もなく近寄ってきた男の手が溶けかけた俺に触れて、その手を俺の汗が伝って汚した。
…どうして。
俺はこの男をこんな風に…こんな形で欲しいと告げたことなどなかったのに。
「だめ、ですよ」
聡い男は分かっていてとぼけているんだろうか?
「なんで?」
男が笑う。こっちの躊躇いなんてどうでもいいとばかりに楽しそうに。
「それでいいんですか?後で後悔するってわかってて…」
「そんなの、わかんないでしょ?」
近すぎる。口布なんて疾うに下ろしてしまった顔と俺との距離は紙切れ一枚分もない。
…唇が触れてしまう。
それがどうしてもずっとずっと欲しかったものだというのに、暑さのせいにして理性をかなぐり捨てたいのも我慢して耐えている。
男は、ソレを哂っているのに。
「頑なでさ、真っ直ぐだよね?いつ折れちゃうのか心配になる」
触れられないそれの代わりに吐息が俺の唇を撫でる。
背筋が震えそうになるのを堪えた。
手を伸ばしたらおしまいだ。我慢なんて出来ないに決まってる。
「ねぇ。だから貰うよ。ぜーんぶ、欠片も残さないから」
だから、安心して?
その誘惑は甘くて、甘すぎて耐え難い。いっそ突き放してくれた方が苦しくないだろう。
身の程知らずの己を笑って、忘れさせてくれることすらしてくれないなんて。
なんて酷い男だ。
「溶けそう…」
触れる肌がこんなにも切ない。
理性もしがらみも己を抑えるための楔が全てとかされてしまう。
男の、俺の、二人の熱に。
「ん。溶けちゃえ。…そうしたら、もう離れられないでしょ」
そう言って、男は見たことがないほど美しい笑顔で俺を抱きしめた。
俺の全てを融かしてしまう熱を篭めて。


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てきとうー!
いいかげんすずしくなってほしいです。外に出る→表面から溶解(大量発汗)→出勤時には軽く液状化。
この流れをいい加減なんとかしたい…!
ではではー!なにかしらつっこみだのご感想だの御気軽にどうぞー!

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