ぬくもり(適当)

温かいものが側にある。この所の冷え込みで眠りが浅かったせいもあって、そのぬくもりに包まれていると沈み込むような眠気に襲われてしまう。
でも、なんでこんなにあったかいんだ?
緩やかに巻きつく温かいものは…。
「あー…?」
なんだここ。どこだここ。というか…だれだこの人!?
「え!?え!?」
「うー…?」
驚いて体を起こそうとしたものの、それはあっさりと妨害された。
温かいもの…つまり隣で寝ている全裸の男の腕が、当然のように俺の体を抱き包んだからだ。
間近でみる顔は瞳が閉ざされたままでもわかるほどに整っている。
いっそ作り物めいて見えるほどだ。
左の瞳を跨ぐ傷が妙に生々しく、だがだからこそそれすらも造形の一部であるかのように見える。
問題はそこじゃなくて、動けないことにあるんだけどな。
記憶はさっぱりない。どうしてこうなったんだか予想すらつかない。
最後の記憶は…。
「ああくそ!」
酒を飲んでいたような気がする。
この所の冷え込みで眠りが浅くて、それを何とかするためにと言い訳して、寝酒にするしては多少飲みすぎたかもしれない。
一人酒で杯を重ねた理由は、多分寂しさもあった。
巣立った子どもたちをみるにつけ、誇らしさと同時に湧き上がる孤独感をやり過ごしてきたんだが、この所どうもそれが酷くなっていた。
ひときわ手のかかった子どもを引き取った上忍が子どもたちを大事にしてくれるのはありがたいことだ。
そしてそれを宝物でも見せるように教えてくれた元教え子は、明らかにぐんぐん伸びている。
それを寂しいなどと、泣き言を言えるわけもない。
だから、一人酒に逃げた。…こんな気持ちになるのも今晩だけで終わらせるつもりで。
それでどうしてこうなっているんだか見当がつかない。
「イルカせんせ?寝よう?寒くないでしょ?」
「へ?」
俺の名前を呼んだ。…ということは少なくとも相手は俺の事を知っている。
必死で記憶をつなぎ合わせた。
まず銀色の髪がふわふわで…って、おいおいおい。まさかそんな!
「もう寒くないですよ…」
寝ぼけ眼で囁きながら抱きしめてくれたが、その瞳の色彩に驚愕した。
確定だ。こんな赤くて模様のある目なんてこの人だけのはずだから。
「カカシせんせい」
間抜けな声は我ながら驚くほど生気が抜けていたが、男はなぜかふわふわと笑った。
「ん。もうずーっと寒い思いなんてさせませんから」
絶対寝ぼけてる。それは顔をみればわかる。
それなのに、その言葉が…涙がでるほど嬉しかった。
「…いいか、まあ」
今日くらいはこの腕に甘えさせてもらおう。
酔って絡んだんじゃないかという不安はあるが、とりあえずそんなのも後だ。後でいい。
ここはあったかいから、もう少しだけでいいから、ぬくもりを分けてもらうことにした。
「おやすみイルカ先生」
蕩けるように甘い声にまで温められながら、もう一度ゆっくりと眠りに落ちていった。


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適当。
実はひとさらい。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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