手土産(適当)

「イッルカせんせ!素敵なお土産見つけたんです!」
頭の中まで花でも咲いていそうな笑顔で、今日もまた同居人…まあ一方的に「同棲です!」と叫んではいるが、俺は認めた覚えはない
。とにかくその上忍がそれはそれは楽しそうにくるくる回りながら声を弾ませて紙袋を差し出してきた。
土産というからには食べ物かと思いきや、手にとって見るとそのサイズに反して随分と軽い。
それに食べ物ごときをこの頭の中から忍としての技を差っぴいたら色事しか残っていなそうな男が、こうも嬉々として俺に差し出したりしないはずだ。
嫌な予感を感じつつ、その中身を確認して…すぐさま床に投げ捨てた。
「おい。なんだこれは」
「え?あれ?かわいくなかったですか?」
「心底不思議そうにしてるが、そんなアンタの方が俺は不思議だ!」
ふわふわした耳のついたヘアバンド、それから広げてみたわけじゃないから分からないが、恐らくあれはメイド服とか呼ばれている類の服だ。ご丁寧に尻尾らしきものまで覗いていた。
この男が忍術以外は正真正銘のアホだと知ってはいるのだが、こうして日々繰り返される愚行には毎度毎度驚きと共に脱力を隠しえない。
「似合いますよ!イルカ先生のたくましい太腿にかわいいレースのガーター!」
「黙れ」
拳骨は見事にアホの頭に決まった。
「う、痛い…!痛いです先生…!」
「…まだ痛覚まではおかしくなっていなかったか」
涙目で見上げる顔はしょぼくれた迷子の子犬のように哀れだが、これで隙を見せればろくな目に会わないことは、これまで幾度も騙されてきたおかげですっかり思い知ってしまっている。
「チャームポイントはチョーカーの鈴と…!」
諦めきれないのか執拗に手土産である如何わしい服のアピールを続けるアホの頭に振り下ろしたのは、今度は俺の足だった。
「よし分かった。そんなにその服が気に入ってるなら…アンタが着ろ。命令だ」
ちなみにこのアホは何故か俺の足が好きだ。
確かに教師として、忍として恥ずかしくないように鍛えてはいるが、この男の方がよっぽどしなやかで綺麗な足をしていると思うんだが。暗部装束着てるときなんて、何でこいつはこんなに外見だけはいいんだと吐き捨てたくなったほどだ。
閨に持ち込まれれば、まず間違いなく「舐めさせて?」と強請るし、許可しなくても放っておけば指のまたの間まで舐める。
きっと病気だ。そうじゃなくても異常だ。…何が悲しくて野郎の足などしゃぶりたがるのか。
…とにかくなんだかしらんがやたらとお気に入りのそれで、ふさふさの頭を踏みつけてやると、何故かほわっと頬を緩ませて喜んでいる。
「そ、そんな先生も素敵…!」
「…あんたどうしてそんなに頭の中身が残念なんだろうな…」
いや、優秀ではあるんだがな…。天は二物も三物も与えたついでに余計なものまでこの男に詰め込んだらしい。
そもそも告白すっ飛ばして襲い掛かってくるわ、返り討ちにしたらしたで泣くわ喚くわ喜ぶわ…殴られてめそめそしてるのを撫でてやっただけなんだがなー…何でいつの間にか俺の家に上がりこんで当然!って顔して一緒に暮らしてるんだか。
「こ、これ、…着てきます!」
そう言ってふすまの向こうに駆け込んだ男を尻目に、俺は溜息交じりに熱い茶をすすったのだった。
******
「こ、これ恥ずかしいです…!」
「ホントに恥ずかしいなこれ、アンタやっぱりアホだろ」
「あ、あほじゃないですぅー!イルカ先生の足だったらすっごくすっごく似合うんですぅー!」
ムキになって言い返す女装姿の上忍が大変痛々しい姿を晒しているのがつぼに嵌った俺は、さらなる追求の手を伸ばすことにした。
「うわー…?下着まで?食い込んでるし。尻尾まで付けて…」
「う、うぅー…!」
「胸元…立派な胸が丸出しっつーかレース越しに鍛え上げられた大胸筋なんてみてもなぁ?乳首まで分かるって…あ、ブラジャーは流石につけなかったんですね。…しかもアンタ何勃ててんだ?」
「だ、だってだって!イルカ先生のせいだもん!俺悪くない!」
何で片言なのかとか、なんで罵られて辱められて勃ってんのかとか突っ込みたいところは一杯あったんだが。
「うわぁっ!何しやがる!」
「イルカ先生なんて…イルカ先生なんてもう大好き!」
…無駄に上忍のアホが理性をすっとばしたことにより、それら全ての言葉は嬌声に変えられたのだった。
*****
「あっ…!ごめんなさいごめんなさい…!」
「なんでも謝ればいいってもんじゃねぇぞ…!」
「うぅ…色っぽい…!」
「あんた…やっぱり反省してないだろ…?」
ベッドの下で土下座した上忍を、ベッドの中から足蹴にしながら、俺は今説教の真っ最中だ。
どうしてアホなんだろうか。この男はこんなにも。
酷使した体をさらに疲労させるぐすぐすと鼻を鳴らす音に、ぐちゃぐちゃの泣き顔。
全てを排除するならこのアホをとっとと見限って長期任務にでもつけばいい。
だが…やっと念願かなって就いた教職を辞めるのも嫌だし、なによりこの馬鹿が俺のいない間こうやってぐずぐずなき続けるかって思うと…そんなことには耐えられない。
「お土産…!だって似合うと思って…!」
いまだに土産と称した破廉恥な服に身を包み、しかもドロドロに互いの吐き出したもので汚れたままで、俺を見つめてさめざめと泣く男をどうしてくれよう。
「俺は土産は食い物がいいです。あんなわけのわからんもの買ってきたら、今度からその格好で外練り歩かせるからな!」
「はい!」
許されたと勘違いしたのか、ぱぁっと顔を輝かせて大喜びするアホ上忍に、最後の止めの蹴りを入れ。
…俺はうっかりほだされた自分の不幸に、深い深い溜息をついたのだった。
足元を擽るその頭の中身のようなふわふわの感触に、練り歩かせるってところに喜んでるんじゃないかっていう不安を誤魔化しながら。


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てきとー!ねむいので!
変態(しかもドMに調教されつつある)エロ上忍とドS中忍の話。
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