「そんなに欲しい?」 「ええもちろん。」 射るような視線にこの人の本気を悟った。 いつだってまじめな人だけど、こんな風に狩る側の視線を向けてきたことなんてなかった。 ぞくぞくする。…この人も俺と同じケダモノだったんだと教えてくれるから。 「でもこれはそう簡単に渡せないんだけど」 「そうですか。…では力づくでも」 正気じゃないのがわかっていても、その魅力的な誘いに頷いてしまいたくなる。 瞳にほの暗い炎を宿して、静かに笑う姿は、普段とはまるで違っている。 快活な人だと思っていたのに、どうやら根っこはそうでもないらしい。 そういえば火影お墨付きの悪戯小僧で、今でもとんでもない戦略を立てさせたらぴか一だと気に入られていると聞いている。 長引くと不味い。正攻法だけでやりあうなら負ける気はしないけど、この人が本気で戦略を立て始めたら危険だ。こっちには怪我をさせられないなんていう厄介なハンデもあるしね。 「あーあ。でもたのし」 恋人と喧嘩なんてしたことがなかった。 気は短いけど、この人はすごく優しいし、割と穏やかだったから。 怒らせると滅茶苦茶怖いんだってばよっていってたっけなぁ。あいつも。 今の皮膚があわ立つような殺気と容赦なく叩きつけられるチャクラから考えるとソレも不思議じゃない。 おまけにすごく楽しそうだし! 「そうですか。俺もです」 クナイを構えた恋人が、にこやかにケダモノの気配を撒き散らす。 …これは威嚇か。それとも。 「次なにがくるのかわかんなくてぞくぞくしちゃう」 「随分余裕みたいですね」 背後から聞こえた声にとっさに距離をとった。 恐らくモノはクナイだ。 空を切る音からして、躊躇なんてまるでしていない。 戦うためだけに研ぎ澄まされたチャクラを隠そうともせず、ターゲットを、俺だけを見つめているその姿はぞっとするほど美しい。 …いつまでもじゃれていたくなるくらいには。 ダメダメ。これもある意味任務なんだから。 何とか自制心を奮い立たせた。 自分は楽しくても、この人に後で落ち込んで欲しくないしね。 「そうでもないんですけど…本気で遊んでくれそうな人ってのはなかなかいないんでね?」 修行なら暑苦しい男がまとわりついてくることもある。 だが真剣に、それこそ命がけで楽しんで戦える相手など早々いるわけもない。 ある程度実力があって、里の誉れなんて余計な呼び名つきと遣り合おうと思う程度には無鉄砲で、ついでに…遣り合って楽しいと思える人。 そんなのこの人以外いないに決まってる。 「俺もです。ああこれが任務じゃなかったらなぁ…」 残念がる所を見ると、暗示は完璧に施されているようだ。 自分が瞳術使いでなければ、相当やりずらかっただろう。 「俺も、です。あなたが正気でやりあってくれたらいいのになぁ…」 距離を詰めた。これ以上遊んでたら、きっとやめられなくなる。 「あ…?」 このタチの悪い幻術も、この赤い瞳ならあっさり打ち砕くことができる。 「ごめーんね」 ぱりんとガラスが割れるような音がして、くず折れる恋人を抱きしめた。 「あーくそ…!…カカシさんごめんなさい」 一瞬不思議そうに揺らいだ瞳は、あっという間に怒りに染まった。 ま、そりゃそうだ。勝手に頭の中弄られてたんだもんね。 相当不本意な役割だと思い込まされていたはずだ。多分写輪眼を狙う抜け忍辺りだろう。 意思が強い人だから、相当腹立たしく思っているはずだ。 「いーえ。楽しかったです」 「コレ、定例試験…?」 熱血一辺倒のようでいて、この人はなかなか頭の回転が速い。そういうとこも好きなんだけど。 上忍にはごとにその資質の向上と、能力の確認のためにこうしてたちの悪い試験が課せられることがある。 といってもそれは完全にランダムにふりあてられ、いつ誰に当たるか誰も知らない。 やっかみでもあるのか、自分が受けたのはもう5回にもなるけど。 …ソレも全部この人を恋人にしてからだってのは秘密だけどね。 今回みたいに直接この人をぶつけてくるようなまねをされるのは初めてだ。 「そ。今回はお付き合いいただきありがとうございます。かな?」 「…あいかわらずクソみたいなことしやがって…!」 毒づく人も相当酷い目に遭ったことがあるらしい。 …大事な人や部下を使うことが多い任務だ。誰にでも好かれるこの人ならありえないことじゃない。 「えーっと。でも俺は楽しかったですよ?」 全力で遣り合えた。この人にも幻術がかかってなきゃできなかっただろう。 相手が誰であるかって辺りを暗示でゆがめていたみたいだから、そうじゃなければこんなにあっさり解術することはできなかったと思う。 相手が写輪眼なら、きっとこの人はもっとうまくやるはずだ。その辺は残念だった。 「俺も…いやでもだからってこんな手ばっかりしかけてくるのはおかしいでしょうが!」 「そりゃそうだけど。…って!イルカせんせ、俺と戦いたかったの?」 「…身の程知らずは承知の上です。ソレでも俺よりずっと強い相手が身近にいたら…そのう、ちょっとは戦ってみたくなるじゃないですか」 負けん気が強いっていうか、ああこの人も男なんだなぁ。 忍には不向きな人だと思っていたけど、この人のこの闘争心はきっとそういう意味では向いている。 「いーえ。だって俺も幻術なしならやばかったと思うし?」 「そういうこというのはよしてください。…遊びたくなるでしょうが」 しかめつらしい顔でいうにしては物騒な内容だ。 そっか。これからも遊んでもらえるかもしれないのか。 「今度は、こんな風に誰かにちょっかいかけられてじゃなく、やりましょーね?」 「…!誘うな馬鹿!もう帰りますよ!試験終了の書類出してきてください!」 荒々しい足取りで去っていく恋人を見送りながら、とりあえずまた遊んでもらえそうだってことには素直に大喜びしておいた。 …ま、その前に今夜はコレをネタにいっぱいさせてもらうつもりだけどね? とりあえず、前の試験で何があったかだけはしっかり白状させよう。 勝手に決め込んで、手渡されていた忌々しい紙切れを式で飛ばした。 怒りと、それからほんのわずかな感謝をこめて。 ********************************************************************************* 適当。 男に襲われたネタだったらきっと大変なことになるだろうなぁ。などと呟いておきます。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |