願い事、ひとつ(適当)

笹の葉が揺れている。
色とりどりの飾りの下がったそれがなんなのか、最初は理解できなかった。
ゆらゆらと揺れているその根元に、顔見知りの上忍の姿を見るまでは。
「アンタまた勝手に人んちに上がりこんでるんですか…」
呆れきってるって態度を隠そうともせずに言ってやったものの、本人は人のベッドに腰掛けて、笹を弄びながらご満悦だ。
「願い事、書いて?」
…そうだよなぁ。この人はこういう人だ。
人の話は聞かないわ、勝手に人んちに上がりこむわ、飯も食うわ時々は勝手に作るか買ってきて待っていたりもする。
のんびりとくつろぐ姿に、一瞬他人の家に上がりこんでしまったのかと焦ったことだってある。家主より態度がでかいってのはどういうことなんだ。
上忍の、それもとびっきりのと頭につくような人だから、ストレスでその手の病気になったのかと心配したこともあったが、すぐに違うと確信した。
コイツはただひたすらに傍若無人なだけだ。
「もうアカデミーで書きました。今日中に渡してくれたら飾ってきてあげますから、家の中で笹振り回さんで下さい」
小ぶりの枝だが笹は笹だ。笹の香りは嫌いじゃないが、寝床でお祓いよろしく振り回されて嬉しいもんでもない。
第一短冊下げたって家の中じゃ意味がないだろうに。
空の上から年に一度の逢瀬を向かえる恋人たちが、幸せのおすそ分けをしてくれるってのが七夕のいわれだったはずだ。
家の中でぶら下げてたって、願い事を叶えてくれると言う恋人たちの目に届くわけもない。
まあそもそも一年ぶりに会う恋人が目の前にいたら、願い事なんて見てる暇もないだろうけどな。そこはそれだ。
天辺に飾るんだと騒いで頑張っていた子どもたちの事を思うと、心が温かくなるのを感じる。短冊自体は一般常識を身につける一環としてってのと、子どもたちの考え方を探るっていう現実的な目的もある。イベントごとがあると、それに搦めて教えたことを忘れにくいし、なにより喜んでくれるからな。今日の授業でも七夕の話をするつもりだ。
…その前にコイツを追い出さなくては。
「イルカ先生の願い事ってなーに?」
「…秘密です。短冊は書き終わったら俺が出勤するまでにポストにいれといてくだされば結構ですから。お引取り下さい」
絶対、碌なことを考えていないだろうと踏んで、さっさと追い出しにかかった。
甘い顔や隙をみせたら駄目なんだ。
この男は上忍で…とびっきりタチの悪いイキモノだから。それはもはや予感ではなく確信だった。
「一楽のラーメンを沢山食べられますようにーって。子どもに見せるからってこれはないでしょうよ」
「…ッ!アンタ勝手に外してきたのか!戻して来い!」
風で飛ばされたりしても、先生のがないって泣いてくれる子もいるんだ。もちろん子どもたちのも飛ばされたりしないようにしっかり管理する。皆意外と見てるからな…。誰のがてっぺんにあるかって取っ組み合いの喧嘩する子もいるくらいだ。願い事は腹立たしいが男の言うとおり当たり障りのないことしか書いてはいないが、もしないことに気付かれたらどうすんだ。
「本当の願い事はなんですか?」
「…アンタに今すぐ俺の家から出て行ってもらうことです!」
「んー?そうじゃなくて、あるでしょ?ちゃんと」
ああ鬱陶しい。俺の願い事?そんなの父ちゃんと母ちゃんを生き返らせてくれとか、あの子の中の化物を滅ぼして欲しいとか、誰も戦わないでいい世界になって欲しいとか、いくらでもあるさ。それこそ自分じゃどう努力したって叶わない願い事が山ほどな。
だがそれをどうしてこんなヤツに言わなきゃならないんだ?
「出て行ってください」
「…願い事、何でもかなえてあげるよ?」
「そうですか。結構です。自力でなんとかしますから」
「じゃあ俺のお願い事は、叶えてくれる?」
「さあ?笹にぶら下げるくらいはしてさしあげますけどね」
ああイライラする。さっさと出て行ってくれよ。こんな日は、なくしてしまった大きな手を思い出して辛いから、今すぐにでも眠ってしまいたいのに。こいつに邪魔されなければ朝まで何も考えずにいられた。
こいつのせいだ。イライラするのも睡眠時間が減るのも、それからこんな日に他人の心配なんかしなきゃいけないのも、全部。
任務開けに何してんだよ。家に帰れよ。笹なんか持ってないで。
「ま、それでもいいんだけど」
こうして引き際が早いのも上忍らしいというかなんというか。俺の苛立ちに気づいているのかいないのか、笹を弄びながらご丁寧にも用意してきたらしい短冊を懐から取り出してみせた。
このつかみどころのなさが俺を苛立たせ、このどことなく漂う危うさのせいで完全に無視することもできないでいる。
「空でいちゃついてる連中なんかより、俺の方が頼りになりますって、言いたかったんだけどなー?」
「空でいちゃついてるかどうかは知りませんが、夫婦仲睦まじく過ごしてるんならなによりでしょう。…俺は別に誰かに助けてもらわなくても生きていけます」
雲のない闇色の空に輝く星は美しいが、それに何かを願いたいとはもう思わない。叶わないことを知ってしまっているし、そもそも願いは自力で叶え、勝ち取るものだ。
こんな危なっかしい男に願うようなことはない。出て行って欲しいと言う願いの他は。
「そ?俺は無理かなぁ。欲しい人ができちゃったから。おかげで他はいらなくなっちゃったけど、その人がいないとしんじゃうかも」
「そうですか。じゃあその方のところへ行ったらいいんじゃないですか?」
「うん。だから来たの。ここに」
…何をへらへら暢気に笑っているのかと思えば言うにこと欠いてそんな世迷いごとを。
距離を詰めてくるからその分下がって、閉ざされたドアに背が当たった段階で、男がふわりと微笑んだ。…唇が見える。なんで、こんな時に素顔なんだ。
「なに、いってんですか…?」
顔が近い。吐息が唇に感じられるほど側に、怪しいだけだと思い込んでいたイキモノが立っている。
「願い事、今のとこはこれかな」
ひらひらと振られた短冊には“イルカ先生からいい返事がもらえますように”とそれからでかでかと“はたけカカシ”という名前まで書き込まれている。
「あんた、正気か」
「正気です。ずっとイルカ先生が好きで好きで。でもどれだけアプローチしても気付いてくれないから、ちょーっとトチ狂いそうかなーって。だからお返事早めにくださいね?」
返事をくれという割には、その言動は脅迫そのものだ。返事が否ならトチ狂うと宣言してるようなもんじゃないか。
ああくそ…!コイツが今にも泣くんじゃないかと思うくらい不安そうな面してなきゃ、ぶん殴って終わりにしてやれるのに。
「返事はそのうちしてやってもいいですよ。っつーかアンタは寝ろ」
「寝てくれるの?」
「変な意味じゃねぇならな。任務明けでへろへろのくせに馬鹿だろ」
「あれ?ばれてました?」
「…受付ナメてんのか?いいから寝なさい」
「うん」
ぺたりと張り付かれて、それでなくとも似たような体型のデカブツだってのに、この所の湿度と気温の高さのおかげで鬱陶しさも倍増だ。
…でも、まあいいか。願うことなどしそうにない男が、多少トチ狂ってるとはいえ、自ら望んだんだ。それについては喜んでやれるさ。…相手が俺ってのがいただけないとしても。
ベッドに放り込んで、俺も布団をひっかぶった。
風呂も飯も後だ。後。
暢気で我侭な上忍様が剥がれ落ちてくれそうにないから、今日はしっかり寝ることだけを考えればいい。
…逢瀬の真っ最中のはずの空の上の夫婦も、ここまでみてはいないだろう。
木っ端ずかしくも、告白なんかに取り乱してるくせに、引っ付きあってる俺たちのことなんて、少しも。
「とんだ七夕もあったもんだ」
文句の言葉にも反応しない男は、それでも俺から剥がれる気はなさそうだ。
鼓動と、惜しみなく晒されたままの素顔と、それから必死さを表すかのようにはなれない手を感じながら、起きたらどうやってぎゃふんと言わせてやろうかとほくそ笑んでおいた。

 

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適当。
アンタ何でも叶えてくれるんですよね?ってことで無茶振りしたら全部叶えちゃえる上に無駄に後ろ向きで危険なので、じゃあ火影になるって書いたら何年越しかで(だがしかし願い事書いた人じゃないほうに)実行されちゃって戸惑うイルカてんてーとかとかとか。次あれのつづきがんばれたら。

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