ねがいごと(適当)


星に願いをなんて、ガキだったころでも信じちゃいなかった。
父さんが生きてた頃はそんな行事さえ知らなかったし、先生に教わってからも言われるがままに当たり障りのない願い事を書いただけで、何かを願うことすら無駄だと思っていたから。
「ほら!悩んでないでさっさと書きなさい!」
「はぁい!」
それが今は、こうして何を願うかを悩むほどに、この行事を楽しんでいる。
「そんなに悩んでるなら、いっぱい書いてもいいですけど、本当に願った願い事しか叶えてくれないらしいですよ?」
呆れ顔もかわいい俺の恋人の今年の願い事は、「大切な人が無事でありますように」だ。
その中に自分を入れてくれていることも知っている。
もちろんそれは自分も祈りたい。
…祈ったところで叶わないと知っていても。
「ホントのお願い、一回だけ叶えてもらったことあるもんねぇ?」
単なる偶然かもしれない。いや、むしろ願わなくても叶ったのかもしれない。
それでも、この恋が実ったのはあの日必死になって願ったからじゃないかと信じてしまいそうなほど、去年の七夕の出来事は自分にとって奇跡に近かった。
「うらやましいなぁ!どんな願い事だったんですか?」
「ふふ。ないしょ」
一人じゃなく、大事な人全ての無事を祈る、それはある意味俺よりずっと無自覚に強欲なのかもしれない。自分でもどうしようもできないことだから。
…だからこそこの日に祈りをこめるのだろう。
願っても叶わないと誰よりも分かっている願いを、それでも祈るしかないからと、短冊に書いたこの人にはとても言えない。
優しいこの人らしい願いと違って、俺の願いは単純でもっと我欲にまみれたものだから。
だが、叶うはずもないからこそ祈ると言う意味では、あの日の俺の願いは誰よりも切実だった。
「気になる…。アンタなんでも手に入るじゃないですか。その気になったら」
心底不思議そうに言う人に、俺の願いは一生気づかれないはずだ。
「手に入らないものばっかりだったよ。でもね?一個だけかなえてもらったからもういいの」
誰でも願い事ができるようにとアカデミーの校庭に突き立てられた笹のてっぺんに、あの日俺が願ったものは…。
「欲がないですねぇ…。そりゃ、ナルトみたいに火影になるってのとらーめん食べ放題並べてぶら下げるようなのはどうかと思いますけど、あんたもっと欲張ったらいいんです!」
その優しさに欲が出た。
わしわしと乱暴に頭を撫でる人が欲しいと、自分のものにしたいと願ったと知ったら、この人はどう思うだろう?
「ホントに?」
だがそれを凌駕するのはいつだって無自覚に俺を誘うこの人への欲望だ。
告げて、軽蔑されようが呆れられようが構わない。俺から離れないでいてくれるのなら。
だが、リスクの高い行動をわざわざ取る必要もないだろう。
…頑固でまっすぐなこの人をわざわざ不愉快にさせたくなどない。
「…いいからとっとと書け!」
飛んできた座布団を受け止めて、その影でほくそ笑んだ。
去年の今頃はこんな関係になれるなんて思っても見なかったはずだ。
*****
その日の数日前から受付所に備え付けられた色とりどりの紙切れを押し付けられたときは、何かを願おうなどとは思っていなかった。 受付に報告書とともに手渡せば、受付職員たちがその短冊をぶら下げてくれる。
…サスケは周りに騒ぎ立てられて仕方なくだったようだが、それなりに楽しそうにこぞって願い事を書いた子供たちの短冊は、報告書とともにいつも通り思い人に提出された。
恥ずかしくてかけないなら持って帰れと騒ぐ少女のおかげで持ち帰ることにはなったが、
その笑顔を見ることができただけで十分だ。
…いや、それで十分だと思い込もうとしていた。
だが、全ての提出を終えて別れの挨拶を交わしたとき、ついでのように言ってくれたのだ。
「願い事、ぜひ書いてくださいね!今日なら、叶うかもしれませんよ!」
だから、俺は。
途中までは言われたから仕方なくだと自分に言い聞かせ、笹の葉のまとう願いの数に圧倒されてからは、ばかばかしいほど必死になってわざわざ天辺に願い事を吊り下げたのだ。
雨ばかりだった空は、その日だけはうそのように晴れ渡り、星が降るように輝いていたのを覚えている。
飲み込まれそうなに夜空。
…こんな日なら、俺の欲にまみれた願いすらも聞き届けてくれそうな気がした。
*****
「ホントに叶っちゃったもんね」
その帰り道、偶然行き会って勢いのまま告白して…その願いは拍子抜けするほどあっさり叶ってしまった。
互いに最初の一言が「好きです」だったのは、今になっては笑い話だ。
「よかったじゃないですか。…俺も去年のお願いは叶えてもらったので、今年もちゃんと祈りをこめて書きましたよ!」
だから書けとばかりに短冊を目の前でひらひらと振って笑っている。
「うーん?何お願いしたの?去年」
願い事など放り出して抱きしめてしまいたい位だが、この人の厚意を無にするわけにもいかないだろう。
自分の欲望を押さえ込むために、話題を変えたつもりだったのだが。
「ないしょ、です」
…我慢できないでしょ?そんなかわいい顔で笑われたら!
「もうなんなの!誘ってるの?」
「…そうですね。今夜は大切な人と過ごすための日ですから」
降って来たのはぎこちないキスで、この人の精一杯の誘いを断るなんてもったいないことができるわけもなくて。
…結局、書き終わらなかった短冊の願い事は、二人一緒でってことにしてもらった。
睦言交じりに情事の最中に聞いた願い事は最後まで教えてもらえなかったけれど、意地になって抵抗するこの人がかわいかったからいいことにしよう。
「おやすみなさい」
大事な人を抱きこんでゆっくりと眠りの世界に落ちていく寸前に、愛しい人の囁きが聞こえた気がした。
「アンタと同じ願い事ですよ」


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適当。
なんかこう中途半端でしたがこんな感じで七夕ー!おめー!!!
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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