たまご

「はたけ上忍。」
「…これを。イルカが残した卵です。」
「……あなたに、渡すのが一番いいと思って。」
「だってアイツは…。」
喪服姿の忍に取り囲まれて、わけの分からないことを言われた。どうやらイルカ先生の同僚らしい。
「そんな…。ウソでしょ……。」
手のひらに乗せられた卵は、暖かく、かすかに鼓動と熱が伝わってくる。
「ウソだ!イルカ先生!」
だって昨日も一緒に晩飯食べたし、いちゃいちゃしたはずなのに。どうして!
「大事に、育ててやってください…。もうすぐ孵るって、アイツ楽しみにしてたんです…。」
「それなのに…。」
「こんなことに…。」
「うぅっ…。」
すすり泣く声が辺りに響く。
「イルカせんせい!」
*****
「ハイなんですか?」
「イルカせんせー!」
イルカ先生だ!パジャマ着てて、髪下ろしてて、寝ぼけた目してるけど、間違いない。――思わず抱きついた。
「わぁっ!いったい何なんだ!」
「たまごなんて産まなくていいです。いりません。そんなものいらない。どこにも行かないで!」
「ハァ?たまご?????」
イルカ先生にしがみつくと、あんな卵よりずっと暖かくて、しっかりと鼓動が伝わってくる。 イルカ先生の匂いも。熱も。確かに感じられる。
「うー。」
思わず涙が出てきた。 「大丈夫。どこにもいきませんよ。…うちのよめさんは心配性だなぁ。」
イルカ先生が優しく背中をなでてくれる。昨日いやもう今日か。かなり無理をさせたから、腰痛くて動けないくせに。
「コワイ夢をみたんですね。さ。手ぇ握っててあげるから、もう寝ましょう。もう怖い夢は見ませんよ。」
イルカ先生は自信満々なのに俺の心にはまだ不安が張り付いてはがれない。しがみついたままの俺の額と髪を優しく イルカ先生がなでる。
「もしまた怖い夢をみても、すぐに俺が助けにいきます!」
「夢の中でも?」
「ゆめのなかでも!!!」
…どんな夢だったかなんて知らないくせに、力いっぱい肯定してくれるイルカ先生。 いつだってイルカ先生は自信満々で全力で俺を守ろうとしてくれる。
「ありがと。イルカ先生。あいしてる。」
イルカ先生に縋りつきながらささやく。
「ハイハイ。甘えんぼさんだなぁ。」
俺は優しいイルカ先生の手を握り締めて。もう一度眠りに付いた。
もうあの夢は見なかった。
*****
アレ以来卵の夢は見ないが、なぜか、いつかイルカ先生が卵を産むんじゃないかという恐怖が抜けなくなってしまったので、 こうなったらイルカ先生が俺に隠れて産んでしまう前に、むしろ俺が産んでしまうべきなんじゃないかと、最近こっそり 禁術を開発している。
未だに使うかどうか迷っているのだが。

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