おいかけっこ4(適当)



匂いは覚えた。チャクラも、肌の柔らかさも声の甘さも。
だから犬たちを使えば簡単に居場所を探りだせると頭ではわかっていても、手を離すことがどうしてもできなくて、だからずっとイルカにくっついてたんだけど、商店街の店主たちにはイルカが不安そうな俺を守っているようにみえたらしい。
たくさん褒めてもらっておまけしてもらって、イルカが嬉しそうにしてるのが俺も嬉しくて、離れる素振りを見せない俺を、イルカは家につれて帰ることにしたらしい。
知らない家だ。でもこのチャクラは知っている。
昔父さんもそこにいた深い闇の中で感じたことのある、強いチャクラ。
自分の見た目の利用価値は理解しているつもりだ。
父さんに似て、作り物のように整っていると言われ続けられて、正直言って辟易していた。
ガキを相手にする変態にも大人気だったし、生き写しと言われるだけあって、女共にも目をつけられて集団に玩具にされかかったこともある。
任務でもそれを見越して、分かりやすい獲物として振舞わなきゃいけない事が多かった。
…ま、それに気付いてくれた先生のおかげで、その手の任務は激減したけどね。
その殆どを返り討ちにし、且つ二度とその気になれないように潰しておいたから大丈夫だったんだけど。
最初は驚いたけど、興奮しきった馬鹿にはその分隙が多いから大したことじゃないと割り切った。
だがそれがこういう時には役立つ。
使えるんなら使わないとね?
そう、どんな手段を使っても、俺はこの子が欲しいんだから。
「サクモさんちの子ね?」
…これは手強そうだ。
笑顔に薄ら寒い思いをしたのは、初めて先生に会ったとき以来だ。
あの時は圧倒的な力の差を感じ取って思わず体に力が入ってしまった。
害意がなかったからそれだけで済んだけど、戦場で本気になった先生は、笑いながら幾千もの命を切り捨てる人だ。
本当に大事な物以外は、あっさり天秤にかけて捨てられる。実力がありすぎて切り捨てるものが本当にごく少数だから目立たないだけだ。
イルカの母親だと言うこの女も同類なのは間違いない。
イルカに良く似ているのにまるで違う。油断したら瞬きする間に簡単に命を摘まれかねない。
「はじめまして」
にこっと子どもらしい笑みを浮かべたつもりだったけど、この女は上忍だ。それからイルカの母親。…どうしてこの人に似なかったのかな?
美しい花のような笑顔なのに、とろりとした闇を感じさせる。
今はまだ、勝負にもならない。
…切り札を使うべきなのかもしれない。
厄介だし、使い方を間違えると危険すぎるけど、使えそうな手段はそれしかないから、早めに手を回しておかないと。
「あの人も、色々困った人だったから…」
…読まれている。どこまでかわからないけど、父さんのことを知っているならありうる話だ。
強すぎて人であることを忘れた上忍が、とある女に狂ったと。そう語られているのを知っている。
追い掛け回されたその女が、浚われた挙句に子を孕まされ、死ぬまで、いや死してなお監禁されている。
それが父さんと母さんの関係の一般的な見方だ。
母さんはそれでも幸せそうに見えたし、母さんのことが絶対過ぎて、心を弄るどころかその身に触れることすら躊躇うほどだった父さんが、そんな事が出来るわけがないんだけどね。
お互い変わり者だったのは確かだ。
漏れ聞いた当時の状況からすると、確かに父さんの方がより酷かったんだと思う。
でも母さんもそんな風にしてどこまでも追ってきた男を、それも手を出さないくせに付きまとい、不安そうに触れてくるのに焦れて、強引にモノにしたのだと言っていた。
この女はどこまで知っているだろう?
肝心なことを言わないままでの応酬で、反対していると言うわけじゃなさそうなのは分かったけど。
…敵になるなら厄介だが、静観してくれているのは単に余裕の表れか。
「おやつにしましょう。あなたも甘いものが苦手なのかしら?」
「いえ」
好きじゃないけど食べられない訳じゃない。毒じゃないものなら大抵は口にする。
ただ美味いと思わないだけの話だ。
「ふふ!今日はね。晩御飯がお好み焼きなの。丁度良かったわ。早めにちょっとだけ焼いてくるから待ってて」
…母親っていうのは、普通はこんな感じなんだろうか。人の話を聞いちゃいないし…見透かされすぎる。
「あ、母ちゃん!ケーキじゃないの?」
イルカだ。…これ以上のやりとりはマズいか。
「イルカ。俺もおやつ貰っちゃっても大丈夫?」
食料なら家にもある。父さんのためにいつも作り置きしてるし、兵糧丸や保存食の類は切らしたことがない。
イルカは結構食いしん坊みたいだから、俺の分も食べてもらった方がいいと思ったんだけど。
「いいって!お前さ、ほっそいじゃん?ちゃんと食えよ!」
譲る事が出来るって、それだけ大事にされてきたってことだ。
奪うのは大変かもしれない。
「うん」
食ってしまいたいくらい欲しいのはイルカだけ。
でもそれを告げるのは多分まだ早いから。
…まだ、俺は弱すぎるから。
「一杯食わなきゃでっかくなれないって父ちゃんも言ってたしな!」
「一杯食べなきゃ。ね」
このイキモノを自分だけのものにするために。



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適当。
こまったひと=kks母だったりして。
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