頂きます(適当)


「美味いですねぇ…幸せです」
今日のカカシさんは変だ。
…いや変といえばこの人はいつだってちょっと変というか、変わった人なんだが。
まず遅刻が凄い。俺との待ち合わせに遅れたことはないのに、子どもたちの任務には必ずといっていいほど遅れてくるらしいのだ。
教育方針かなにか理由があるのかもしれないと思いつつ、あまりの酷さに流石に小言をいったこともあるんだが、なぜか知らないが悲しそうな顔をされてしまった。
理由はあるけど言えませんなんていうから、それ以上聞けないまま、出来る限り改善してくださいとお願いするに留めた。 この人にはそういう理由は言えないけど変なことが多いのだ。
時々深夜に俺の家の窓辺にやってきて気配に気付いて視線を向けると、顔だけ見て帰っていくとか、一緒に飯を食ってるだけなのに唐突にこうして酷く幸せそうにしてみたり、風呂場の窓を開けてちょうしっぱずれな鼻歌でも歌おうものなら、なぜか無防備すぎると怒られる始末。
普通ならもっと怒るか距離をとるんだろう。
…だが不思議とこの人を嫌いになれないのだ。
中忍と上忍でこんなにしょっちゅう飲みに行ってるのも傍から見ればおかしいんだろうけど。
「飯、美味くてなによりです」
普段は飯の美味さなんて口にしない人だ。
好みは結構五月蝿いというか、特定の食べ物をさりげなく避けたりしているからはっきりしてるんだろうが、あまりどれが美味いのどれがマズイのって話はしない。
忍なんてやってれば毒が入ってなきゃなんでも食えるとはいえ、この人はどちらかというと淡々と食べる人だった。
ああでも、さんまと…あといつだったかの日替わり定食の味噌汁を食べていたときだけは、妙に必死に見えた覚えがあるな。
そして今回はそのどちらも並んではいない。
受付勤務が終わった後、泣きそうな顔で飯に誘われたから、何かあったのかもしれないと二つ返事で了承した。
だからてっきりなにがしか相談を持ちかけられるものと思っていたのだ。
…あてはすっかり外れた。
もりもり飯を食う男はしきりに美味い、幸せだと繰り返し、俺にも食うように勧めてくる。
確かにうまそうに飯を食う人を見るとついつい自分まで箸が進んでしまうのは確かだ。
酒も飲んではいるが、今回はいつもと違って本当に飯を食っているという感じがする。
このほそっこくみえる優男のどこに、これだけの飯が入るんだろうな…。まあ顔がいいからほそっこく見えるだけで、本当は鍛え抜かれているんだろうけどな。上忍なんだし。
「…イルカせんせ」
たらふく飯を平らげた男がふわりと笑った。
「はいなんですか?こっちの角煮も食べますか?」
幸せそうにもりもり飯を食う生き物をみていると、こっちまで幸せな気分になる。
この人なんだかしらないけど、ちょっと不幸そうにみえるんだもんな。いつもは。
だからついついこうして飯を…いや飯だけが幸せってわけじゃないんだが!
「今日。誕生日なんです」
「へー…って!言ってくださいよ!お祝い…っていってもたいしたこともできませんが…!そうだ!ここ奢りますよ!もっと食べてください!」
そうか。それでもりもり食ってた…のか?
よくわからないが、一度連れて行かれたわけの分からないほど高級そうな店ならいざ知らず、この店なら奢ることくらいはできる。
ついでに、あの時気後れしまくった俺に上忍までしょんぼりしていたのを思い出してしまった。今回はそんなことにならないようにしなくては。折角の誕生日なんだから。
「違うんです!お祝いは大切な人にして欲しくて。一緒に飯を食うだけでもよかったんですけど…」
それを聞いて激しいショックを受けた。
そうか。そりゃそうだよなぁ…。彼女の一人や二人や十人や百人はいてもおかしくないもてっぷりだもんな。最初の頃は呪わしくさえ思えたほどだ。
わざわざ俺なんかに祝われたくもないだろう。…暇つぶしの相手かなにかに選ばれたんだろうか。祝って欲しい人との約束までの。
妙に僻みっぽくなる自分にも少しだけ落ち込んだ。
なんだよ。俺だって祝いたいのに!祝わせろよこの野郎。
「あの、生まれてきて良かったって言ってくれるといいなぁなんて。贅沢、ですよね…」
何で泣きそうな顔するんだ。そんな顔されたら…言ってしまいたくなるじゃないか。
「俺は!カカシさんが生まれてきてくれて良かったです!嬉しいです!…お誕生日、おめでとうございます。俺なんかに祝われたんじゃ、その大切な人とやらに申し訳ないかもしれませんが…」
言い訳がましく言いつくろいながら、俺は自覚していた。ただこの人を祝いたかっただけじゃないんだということを。
友達を取られたみたいな気分に近いような、でもそうじゃないような。
なんだろう。この胸の痛みは。
頭を下げてぷるぷる震えている上忍は、もしかしてそんなに祝われるのが嫌だったんだろうか。
そう思うと息が止まりそうに苦しい。
「嬉しい…!」
自分まで泣くかと思った瞬間、いきなり抱きつかれた。
向かいで飯食ってたんじゃないのかあんたは!?どうやって移動した!?
「あの!え!?え!?」
「好きです。…あの、今日絶対言おうと思ってて…!」
好き。好きって…!
わけが分からない。…はっきりしているのは胸の痛みが失せた代わりに、鼓動が五月蝿すぎて苦しい。
「す、すすす、好き…」
「そうです。好きです。誕生日プレゼントはイルカ先生がいいです」
さりげなくとんでもないものまでねだった男は、これまた最近やっと直視できるようになったとんでもなく男前な素顔を晒しながら愛を囁いている。
だめだ。鈍いといわれる俺でも、流石に気づいた。
「俺、も。好きです。カカシさんが好きです」
告白には真摯に、正々堂々と答えたつもりだった。
…舞い上がった上忍が本気でもりもり俺まで食べるなんて予想もできなかったんだ。
おかげでその日、俺はやたらめったか美味そうに飯を食う男が、閨ではやたらめったかエロイ顔でとんでもないことをすることまで学んでしまった。
「誕生日プレゼントなので、絶対心変わりは許しません!」
俺を抱きこんで布団の中でみっちりくっついてくる男は、大事なモノを埋めてしまいこむ犬のように必死だ。
そうか。絶対…なら。それなら。
「じゃあ…5月には俺もお願いします…」
肉体と精神の疲労に耐えかねて眠りに落ちる前にそう告げると、上忍がきゃあきゃあ言いながらそこら中にキスをくれた。
翌日から愛のプレゼントとしての技術を磨くと称して、いつでもどこでも愛を囁き、頻繁に押し倒してくるようになった男との生活が始まった。
あまりの激しさに耐えかねて、「五月まで待たなくていいです。前借させて下さい」と俺が言ったのは三日後だったか。
「貰ってくれるんですね」と叫んだ男のおかげでその日も腰ががたがたになったが、それからは少しだけ落ち着いた。
…記念日にはプレゼント交換という名の激しい夜が待ってはいるのだが。
そんな訳で。なんだかんだと俺たちは今日も一緒に飯を食っている。


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適当。
おいしいお祝い。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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