シャワーの前に(適当)



「こんにちは!カカシさん!」
珍しい所で会うよな。相変わらず。
普通の忍はこんな所に入ってくることは珍しいのに、この人はなぜかよくアカデミー校舎に出没する。
不思議に思って聞いてみたら、殆ど通った事がないから珍しいってのと、下忍がどういう勉強をしてきたかに興味があるかららしい。
その向上心には頭が下がる。
…それからまあちょっとばかり嫉妬した。アカデミーにいく必要がないほど強かったんだよな。この人は。
それだけの力があれば、俺だって父ちゃんと母ちゃんを救えたかもしれない。
今更そんなことを思っても仕方がないのに、なぜかこの人を見ていると劣等感を刺激される。
それに…ちょっと落ち着かない気分になるんだよなぁ。時々。なんだか分からないんだが。
本人がいい人だから、そんなこと口が裂けても言わないけどな。
「プールですか」
「ええ。水遁の練習もかねて」
水着でうろうろしてる所を見られるのはなんとなく恥ずかしいものがある。
何でこんなに今日は天気がいいんだろう。…筋肉のたるみとか、色々が白日の下にさらされて…いや!でも見ても楽しいもんじゃないし!きっと見なかったことにしてくれる!はずだ!
「ぬれてる」
すっと伸ばされた手が、濡れて降ろしたままの髪を掬い取った。
これからシャワー室で適当に洗った後、しばらくほっとくつもりだった。
…やっぱりだらしなかっただろうか。
「これからシャワー浴びるんで、失礼します!」
なんだか突然恥ずかしくなって、校舎に駆け込んだ。
普通に飯食って酒飲んでる分にはいいんだけどなぁ。あの人と一緒にいるとなんでもない事がみっともなく思えてくる事があるから不思議だ。
妙に恥ずかしいというかなんというか。
ちょっと不自然だったかもしれないが、コレまでも何度か似た様なことをしでかして何も言われてないから平気だよな?
生徒用のシャワー室はプールの脇にあるのに、教員用は仮眠室の隣なんだよなー。不便だ。
前もって着替えも放り込んできたから、さっさとシャワー浴びてこよう。
ぺたぺたと素足で歩いていると、廊下のリノリウムがひんやりして気持ちイイ。
少し冷えてしまったかもしれない。そう思いながらシャワー室の扉に手をかけた。
「いた」
「わぁ!」
「だって逃げるから」
「は?」
「どうしましょう?」
「なんの話ですか!?」
肩を掴む手には手甲がはめられている。…間違いなくカカシさんだ。
さっき分かれたばかりの人が、どうしてここにいるんだろう。逃げるって一体何のことだ?
「イルカ先生」
「は、はい?なんですか?」
「あのね。濡れてたでしょ。さっき」
「はぁ。そうですね」
水練の授業で濡れないってのは無理な話だ。というかそもそも今だって濡れ鼠のままだ。そりゃ多少は外をうろついてる間に乾いたかもしれないけど、殆ど直行したんだからそう大して変わらないだろう。
それがどうしたっていうんだ?
「もう我慢できないんです」
「何を?」
口布が引き下げられる。
頬がピンク色だ。この人色白だから目立つなぁ。酒飲んでもこんな風にならないのに。
なんかちょっとかわいい。
でも、近い。近いって言うかだな。これじゃくっつくというか。
くっついた。口が。口に。
「むぐっ!?んー!ん!」
「…ん。こういうこと」
「へ?」
キスされた。多分、いや間違いなく。
「好きです。これ以上ここにいたら酷いことしちゃいそうだから帰りますけど」
「は、はい」
そうだ。この扉の向こうはシャワー室で、ここなら声も届かないし誰も来ない。
酷いことって、何する気なんだこの人は。アカデミーで。いや帰ってくれるのか?この状況で?
「お返事下さい。後で」
そういって上忍は煙一つ残さず消えた。
「なんだよもう…!」
へたり込んだ床は相変わらずひんやりと冷たくて、火照った体を冷やしてくれる。
キスは、嫌じゃなかった。一緒にいるのは楽しいが、恥ずかしくて落ち着かない。
もしかしたらこれが恋ってやつなんだろうか。
「シャワー浴びよう」
着替えてしゃっきりしたら、それから考えよう。
よたよたとシャワー室に入り込んだ俺は、授業が終わるなり男が浚いに来ることなんて考えもしなかったのだった。


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適当。
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