やくそくとうそつきと罠(適当)



好きだったからこそ裏切りって許せないものじゃない?
「ええと。一体何の話でしょう?」
しらばっくれた態度がまた苛立ちを誘う。
うそつき。約束したのに。
「ねぇ、この任務、どうするの?」
依頼書を見せると目に見えて動揺した。
そりゃそうだ。普通は担当の忍か受付くらいしか持ち出せない。
その意味に、今更になって気付いたってとこだろうか。
「…それは、その」
別のこの人が引き受けなきゃ無理って訳じゃない。それは周りも言ってた。だって休みとってたんだもんね。前もって。それも俺が言わなきゃやらなかっただろうけど。休日出勤大好きだもんね。
それをわざわざ引き受けたってことは、そういうことでしょ?
最初から、俺との約束なんてどうでもよかったってことだ。
「ね、どうして?」
「…この依頼人の方にはお世話になっていて…」
そうだよね。それも聞いた。
下忍のときに世話を焼いてくれた人なんだって。できればうみのイルカでって…ま、指名料のつかない単なる希望だ。でもこの人はそれに気がついた。
「だから、俺との約束はなにも言わずに破ろうと思ったんだ」
「そんなことは…!」
多分ウソだ。俺に相談もしなかった。言ってくれれば少しは考えたかもしれない、かな?ま、それでもどうにかして一緒にいようとしただろうけど。
脊髄反射で、俺とこの依頼人を天秤にかけて、依頼人の方が傾いた。結局はそれだけのことだ。
それでも、少しは悩んでくれたんだろうか。
「ねぇ。これ、何度目?」
「…」
ぐっと唇を引き結んで、今度はだんまりを決め込むつもりらしい。
そりゃ、なにも言えないだろう。だって俺なんかどうでもいいと思ってるんだもんね。
恋人ができかけてもいつの間にか疎遠になるっていうのは、飲み友達から距離を詰めようとしていたときに聞いていた。
晩生すぎるからなんじゃないかと思ってたけど、ちょっとずつ親しくなっていくうちにすぐに分かった。
この人は、近しい人のことを考えなくなる人なんだ。
一度なら許せたかもしれない。でも、何もしなくても側にいてくれると判断した途端、あっという間に俺をどうでもい鋳物みたいに扱うようになった。約束の優先順位は常に低い。子どもに対しても苛立ちを感じるのに、以前ならまだしも、さほど親しくも無かったはずの相手に対してまで。挙句、都合が悪くなるとだんまり。
もう、限界だ。
「もう、いいや。疲れちゃった」
それでも今までの女たちのように何も言わずにいなくなったわけじゃないから、マシなほうでしょ?
そもそも好きだと言っても返してくれたことはない。面倒な相手に纏わりつかれた程度のことだったのかも?それで股開いちゃうってのもどうなの。
好きじゃ、なかった。
それだけが胸に刺さる。せめて一言でいいから言葉が欲しかった。この人の不器用な優しさに惚れた俺が言うべきじゃないってわかってるけど。
ああ、女みたい。抱いているのは俺だったってだけで、俺ばっかりが好きで、好きで。
今こうして別れを切り出してるのに、きっといつまでも馬鹿みたいに好きなのは俺の方なんだろう。
「カカシさん」
硬い声が震えている。でも、もうアンタがどんな顔してるのかなんて見えないよ。みっともなくボロボロ零れる涙のおかげで、自分のことを上手く言えないアンタがなにを思ってるか察し続けることなんて、もうできない。
「さよなら」
誕生日は最低の思い出になるだろう。
…なにせ、この任務の同行者は俺になるんだから。
最後の未練。気付かれないように変化したっていいから、側にいたいなんて、ね。
ああもう、なんて報われない恋をしちゃったんだかね。それでも、まだ好きだ。
だからもう近づかない。闇の中に戻れば、きっとそれは簡単だ。
「イヤだ」
「…そ。俺もイヤだったよ」
アンタが俺の約束を何度も反故するのも、俺以外の相手に笑うのも、他の奴らと話していて、俺のことを無視するのも全部。
「うー…!」
袖口を掴む指先が食い込んで痛い。手加減しなさいよ。アンタ一応中忍なんだから、その気になったら俺の腕砕けるんだけど。
ああもう。アンタの涙を拭ってやったりなんかしたらオシマイだって、わかってるんだから、できないよ?
「離して?俺がいなくても一緒でしょ?なにも変わらないじゃない。いらないって、態度でたっぷり教えてくれたじゃない?」
保護者も友達ももうおしまい。恋人だってきっと始まってもいなかった。
だから、もういい。
未練たらしく片恋を引きずって生きていくのが、きっと俺にはお似合いだ。
「いやだ」
「離しなさいって。アンタを殴りたくない」
今だって本当なら罵りたい。殴り飛ばしてやりたい。できないのは…情けなくもたっぷりこじらせた片恋のせいだ。
上忍として培った冷静さがこんなときはいやになる。
許せないのに、俺がやったらこの人が死ぬかもしれないと思ったら、手が動かない。
「殴っていいです。だって俺は最低だから。でも駄目です。いかないで」
縋られて胸がドクンと跳ね上がった。
やめてよ。アンタ今まで一度も…一度だってそんな目でみなかったじゃない。なくしかけてから今更縋られて、なんで受け入れなきゃいけないの。
「触るな。離せ!」
「いやです。だって側にいてくれるから甘えた俺が最低だったから。誕生日だって知ってて、だから相談したくて」
「は?」
相談って。誰によ。まさか俺に?休み取らせた理由なんて、今までも具合が悪そうだったら強制的に取らせてたから、気付かれてないと思ってた。
「いやです。絶対に駄目です。死んだってはなさねぇ」
ぐずぐず鼻を鳴らしてすがり付いてきた男を、俺は結局の所愛してるんだ。

…泣き喚いて縋りつく男から事情を聞きだすのに半刻、最終的にはいきなり服を脱ぎ出して押し倒されて、なにもかもわからなくされる行為への抵抗が本当はあったとか、俺に喜ばされてばかりで俺のことを知らないからなにをあげたら喜ぶかわからなくて、依頼人に相談しようとたくらんでたこととか、依頼人におねだりして任務日変えてもらおうとしてたとか、そりゃもうたっぷり色々白状してもらって、ついでに出す物もたっぷり出させてもらった。

すっきりしたような、煙に巻かれたような。変な感じ。

「好きです。もっとちゃんと言います。でも俺を甘やかしすぎるんです。アンタに何もかも依存しすぎちまうから」
それは本当は望むところなんだけど、繰り返しキスを強請り、涙を流して抱きついてくるこの人に免じて、ほんの少しだけ黙っていることにした。
だって、ばれたらこの人をもっとだめにしちゃう計画が破綻しちゃうかもしれないんだもん。
腹立ちまぎれに決意した、俺の持ちうるすべての権力をもってして、恋人を縛り付ける計画については、もっと後戻りできなくなってから教えてあげなきゃ、ね?

ちなみに、依頼人とは密かに文通を重ねていて、恋人だと紹介されるっていうオチがついたのは流石の俺にも予想外だった。



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適当。どろどろどろどろした感じのものを一つ。
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