小春日和の縁側でゆっくりと団子を食いながら三代目と将棋を刺していた。 「して、どうじゃ?アレとは」 「アレって…その言い方はないでしょう?」 歯切れが悪いことよりも、あの人に対して未だにわだかまる何かを持っているらしい親代わりに、少しばかり厳しい言葉を口にした。かわいがってるのも知ってるんだが、こうなっちまってからどうしても当たりがきついんだよなぁ。 孫を楽しみにしていたのにって言われるとこっちも耳が痛いが、その前にもういるじゃねぇかって思わなくもない訳で。木の葉丸のことを目に入れてもいたくないほどかわいがってるのも知ってるけどな。表現が下手過ぎてどうにもこじれてるのも。 まるっきりカカシさん相手と一緒じゃないかという毒は、幸いまだ口にしないで堪えることに成功している。 「しかしじゃな。あやつは手がかかるじゃろう?」 「そりゃまあ。それを言うなら俺もでしょう?頑固とかわからずやとか無鉄砲とか言いたい放題言われりゃ腹も立ちますが。その、あの人拗ねてるときもかわいいですし」 任務がなければ寝起きが悪い。挙句ベッドから出るなと駄々をこねる。さんざっぱら好き放題に人を抱き潰しておいて、一緒にご飯食べてくれないのなどとのたまいもする。 風呂で長湯をすれば寂しいと文句を言い、かといってのぼせちまうんだから一緒に入れるわけもなくて、おかげさまでこのところあの人が任務中以外は長湯ができないでいる。 湯治はいつか一緒に行く時まで禁止された。他の男にその体、見せる気なの?って正気を疑うセリフと共に千鳥のなく甲高い声がつましく暮らしている賃貸アパートの一室に響き渡ったせいで、納得はしていないが頷かざるを得なかった。 強硬に暴れるだけならこっちも負ける気はしなかったが、イルカまで俺を置いて行くのなんて泣かれたらなぁ…。 まあ譲らないところは譲らないが。あんたの食べ方がエロいからと言い渡されたラーメン禁止令は却下したし、プール授業で水着禁止も却下した。せめてと手縫いらしきパーカーを押し付けられたのは、意外と日差しを遮れて便利だったから使ってはいる。 というかそもそも言いがかりだろうと思うことが多いから、割と却下してるよなぁ。あの人頭がいいのにどうしてこういうことになると残念になるんだろう。 「…世話好きが仇になったか…」 腹の底から無理矢理押し出したような低い声で呻くじいちゃん…もとい、里長に、多少の申し訳なさがない訳でもない。 でもそれは、育ててもらった恩を返しきれなかったってところだけだ。 「余計なお世話ですって。はい詰み」 「なっ!なんじゃと!お、おお…」 「っし。じゃ、そろそろ戻りましょう」 そうだ。戻らないと。だってカカシさんが帰ってくる。 「…そうじゃのう…。口惜しいが、アレもお主を案じておるじゃろうからな」 「はは!まああの人確かに心配性ですよね!」 迎えに…ああ、でもまて。俺、なんでここにいるんだっけ?受付は…アカデミーは…? 「これに懲りたら無鉄砲な真似は…と言っても無駄じゃろうしな。せいぜい泣きわめくあやつを宥めてやるがいい」 溜息を一つついて、深く吸い込んだ煙管から、一泊おいてふわりと煙が漂った。 世界が白く白く染まって、それから。 「イルカ先生ッ!」 「ふが?お、おお?かかしさん…?あれ?さんだいめ…?」 「ちょっと!しっかりして!ねぇこの人本当に大丈夫なの!?」 揺さぶらないで欲しいし息が詰まるほど抱き着かないで欲しいし、それにしてもこんなに間近で見ても粗がないってホンットこの人美人だよなぁ。 「子供を庇って被った薬物が主因の意識障害だけです。中和されておりますので、もう退院していただいて大丈夫です」 慣れた反応だよなー。実はこの人より俺の方がちょこちょこ怪我して、その度にこの人がこうなっちまうからしょうがないのかもしれないが。 医療忍の皆様からの視線が生ぬるいのが、目覚めたての鈍った頭でもしみじみと辛い。 「じゃ、かえろ?三代目なんて縁起でもない。三途の川であの爺にナンパされても、絶対川渡っちゃダメですからね!」 「あ」 涙目で詰め寄られてようやっと思い出した。そうだよ。もう、じいちゃんはとっくの昔に。 「もう大丈夫。ね、だから。帰ろう?」 大丈夫だと言いながら不安でいっぱいの目をした子どもみたいな恋人を抱きしめて、俺は方々に心配ばっかりかけてるなぁなんて、少しばかり反省したのだった。 ******************************************************************************** 反省するけどすぐまたやらかす。 リハビリ。 |