すきだけじゃ(適当)



「イラナイなら言ってよ」
ちょっと涙ぐんでいたかもしれない。
でもさぁ。ほら、俺って男だし、イルカ先生も男だし、いつかは捨てられるかもって覚悟はしてたのよ。これでも。
好きになってなんていうちょっと脅迫染みた告白に頷いてくれただけでも信じられないのに、驚くほど大事にしてくれたし、まあまあ普通に怒ったり笑ったりして過ごしてきた。
ま、どうせ諦めきれないから、いらないって言われたら絶対に帰ってこられないような任務もらって、どさくさにまぎれて自分も消しちゃおうかなんて思ってもいたんだけど。
だから幸せで幸せで、それこそ毎日目が眩むほどで、だからこそすぐに我慢できなくなった。
でもね。でもさ。
こんなに態度が変わっちゃうと辛い。
最初から断ってくれたらよかったのにとか、そんなことまで思ってしまう。
一瞬だけ夢を見られたと思えば…うん。でもやっぱり無理かな。
好きなら欲しくなるし、欲しくなったらお互いそう思ってるなら、それだけでいいじゃないか。
性別がいっしょとか、どうでもいいでしょ?ねぇ。
「泣かないでくださいよ…」
困ったように眉を下げるくせに、俺をなでる手はどこかぎこちない。
そりゃそうだ。やりたいって言い出した相手に早々簡単に触れられないよね?恐いもんね?
好きって言った。でもそこから先のことはきっとこの人はよく分かってなかったんだろう。
だから同性からのそれに簡単に頷いて、そうして今こうして悩んでいる。
考えなし!馬鹿馬鹿!好きならシたいに決まってるでしょうが!
…なーんてね。そんなこといえるはずがないんだけど。
あーあ。ずっと見てるだけでいればよかったんだろうか。我ながらこの人に関しては我慢が聞かないから、もっと酷いことになってた気もするけど。
「だって好きなの。一生触れないでいろっていうならさ、去勢でもされてくる」
この人相手だと我慢できなくなるのは確実だ。
他のどんな女も、もちろん男も、誰を連れてこられてもきっと我慢できる。
一服盛られたときだって、その気になれば押さえ込めた。
今は、薬も酒も飲んでない。術だってかかっていないのに、今はそばに寄られるだけで押し倒したくなる。
どうせこの人以外に使うことなんてないんだし、色事方面なら幻術で事足りる。いっそホントにそうされてこようか。
…こうやって存在丸ごと拒まれるくらいなら。
「なっ!にいってんですか!そんなの駄目に決まってんだろうが!」
「なんで?いいじゃない。これがなきゃ一緒にいてくれるんでしょ?」
他に女も男も作ったら殺すけど、それだけでいいなら安いものだ。
俺はそれくらいもうとっくにアンタに骨抜きなの。それをもっとちゃんと考えてよ。
「そういうことじゃない!そうじゃなくて…!」
「じゃ、なんなの?俺がイヤになった?いらないの?」
それならやっぱり任務貰ってこないと。
…泣きそう。でもだめ。泣きながらこの人が壊れるまで相手をさせる自信があるもん。
泣いても喚いても閉じ込めて、誰にも気付かれないように隠すことだってきっと出来る。
でもさぁ。そういうのは駄目でしょ。
それがわかるから急ごうと思った。
ここにいたら駄目だ。きっとこの人を壊してしまう。
ゆらりと立ち上がると長いことしゃがみこんでいた体がきしんだ気がした。
体っていうか、きっとこれはここを離れたくなさ過ぎて無意識に動くのを拒んでいるのかもしれない。
「いらねぇなんて!いってねぇんだよ!」
殴ってくれるかな。理性が跳ばない程度にして欲しいなぁ。いっそ最後にやり倒すって選択肢がさっきからちらついてしかたない。
ぎゅっと目を瞑って歯も食いしばって、怒りに震える拳が振り下ろされるのを待ってみたんだけど。
いつまでたってもやってこない衝撃の代わりに、痛いくらいの抱擁が待っていた。
「イルカせんせ。駄目だよ。これ。離して?わかってるでしょ?」
素直な体は欲しい物が近くにあることに大喜びで涎をたらしている。
腕ごとぎゅうぎゅうに抱きしめられていて良かった。振り払えるけど、そうして押さえていてもらえればもう少しだけ我慢できるかもしれない。
「だ、だから!ナニをどうするか知らなかったし!アンタを!そ、その!痛い思いさせたくないんで!色々調べてきましたから!」
モソモソ動かないで欲しい。くっつかれて我慢するだけでも大変なのに、こすり付けられてるようなもんじゃないもう! でも、ポケットから出てきた液体には驚いた。
この人が普段絶対に持ち歩かない物。…支給品だけど、ローションだ。それも弱いながらもその手の薬入りの。
「えーっと。これ?なんですか?」
「あああああ!もう!アンタそういうこと言うな!すれてんだかすれてないんだか!」
あー真っ赤。…えーっとよくわかんないけど、これをくれるってことはいいってことだよね?
いや、もうよかろうが悪かろうがもうどうでもいいんだけど。
理性が千切れるというか、一瞬で木っ端微塵になったから。ついさっき。
「いただきます」
「へ?ああ。それはですね…え?」
「痛くしないようにします。俺の用意したのじゃめろめろになりすぎるかもしれないから、こっちで」
痛いからしたくないなんて言われたくなくて、ちょっと強めに薬を入れといたのがあったんだけど、ご希望とあらばこっちを使うし、その分たっぷり慣らして気持ちよくなってもらおう。
「え?え?」
口半開きでかわいい。見開かれた黒い瞳にどきどきする。
もうなんでもいい。ごちゃごちゃ考えていられる余裕はさっきこの人が全部持って行ってしまった。だからきっと俺は悪くない。
「好き」
まずはキスから。見開かれていた瞳がゆっくりと閉じられたから、多分拒まれてはいないことに安堵して、そこからさきはもうイヤだと喚かれてもしっかりたっぷり喘がせて、それからお互いにたっぷり気持ちよくなってもらった。
*****
「幸せー…!」
駄目だ。なんていわれても離せないし、どうしようか。
これまでたっぷりその手の経験をつんできたのに、気持ちよすぎて腰が溶けそうなんて体験初めてなんだけど。
「うぅぅうう…」
「ごめんね?いっぱいしちゃったから、痛い?でもあんな顔してくっついてこられたら無理だし!それにアレどこでもらってきたの!」
後れ毛もかすれた声もいいなぁ。もういっそこのままもっかいしたいんだけど、流石にマズイだろう。それは。
「あー…なんかはい。わかりました。色々誤解があったみたいですが、もう済んだことというか、手遅れというか、腹括ったんでもういいです」
「えっと?もっかいしていいの?」
「今日は駄目です!腰が壊れる!」
きっと睨まれても潤んだ瞳じゃまるで怖くない。
それに、今日はってことは、これから先があるってことでしょ?頬が緩んで仕方がない。
「うん!じゃ、体拭いたけどお風呂入りましょ?ごはんも食べて?一緒にいて?」
たくさんのおねだりにしょうがないなぁって顔をして、それから。
…キスなんかしてくれたもんだから、その予定はたっぷり一刻ほどずれ込んだのだった。


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適当。
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