「好きにして?」 そう言ってにこりと笑った上忍の意図が分からない。 とりあえず今は任務中で、それから俺はただのアカデミー教師の中忍で、もっと言うならこの上忍とはこの任務が初対面だ。 これが見目麗しい女性だったら、何らかの罠を疑いつつも、ちょっとした火遊びに少しは心がぐらついたかもしれない。 …残念ながらここしばらく女性には縁の無い生活をおくりすぎているから。 だがなぜ秀麗な顔立ちとはいえ男に、しかも面識もない相手にこんなコトを言われているんだろうか? その瞳が欲望にギラついているなら、受け入れるかどうかは別として、そういう性癖の相手なんだろうとわかりはするが、そんな気配は微塵もない。 穏やかに微笑んで…ただ愛おしげに俺を見つめている。 さて、どうしたもんだろうか? 「あの、えーっと」 夕飯…といっても携帯食だが、それがまだだったら言い訳のしようもあったのだが。今日は兵糧丸じゃなくて、干飯にしましょうか!とか。 …うっかり食後のお茶までキッチリ済ませてしまっている。しかも率先して俺が淹れた。温かいお茶は心が和むし、お茶って言ってもどっちかって言うと薬湯に近いから、疲労回復できるし! 結果的に失敗だったと思うけど…。 それから少しだけ終わった任務の話をして、さあ寝よう各々自分の天幕に散り散りになった。 そして…俺の天幕になぜかいたのだ。この人が。 状況からして…まあ目的はそっち方面だろう。 それでも言い訳を探して、ぐるぐると頭の中で言葉をめぐらせていたというのに、さっさと引導を渡された。 「好きです。アナタが」 うっとりと見つめられて、自分が何処かの姫君にでもなった気がしてきた。 おかしい。何かの術にでもかかっているんだろうか?薬湯に変な成分が混じり込んだとか。 …何がおかしいって、この状況で嫌だとか思えない自分がだ。 戦闘中のこの人は凄まじく強くて、自分との差に落ち込むと共に、あこがれた。 教師を辞める気はないが、もっと強くなりたいと改めて思わせてくれたこの人のことを、嫌いになれるはずがない。 だからってこの人をどうこうしようなんて…。 うぅ…!まずい!思えるかも…。 なにせ顔を隠す布を取り去ったこの人は、凄まじく美人だ。即物的といわれればそれまでだが、艶っぽいセリフまでおまけについてきたら…うっかりその気になってもしかたがないだろう?どうこうしようったって、男相手にどうしたらいいかわからないけど。 だれにともなく同意を求めてみた俺は、相当混乱していたらしい。 すっと距離をつめてきたのになんて、全然気がつけなかった。 「好き。好きです」 最初は顎を掬われて、それから啄ばむように俺の顔中にキスを落としてきただけだった。 それでなんかこう…どきどきするばっかりで呆然としてたら、あっという間に舌までしっかりつっこまれていた。 「…んっ!…ふっ…!?」 流石にびっくりして目を白黒させて闇雲に暴れる俺の手を、男はそっと握ってきた。 「お願い。俺を…拒まないで」 悪いことをしているのは俺なんじゃないかって思わされるほどに苦しそうな顔をされて。 …気付けば慰めるように抱きしめていた。 「えーっとですね。あの、とりあえず抱きしめたいんですがいいですか?」 良く考えたらすでに男を結構な力で抱きしめていたんだが、男にもぎゅうっと抱きしめられて嬉しそうに擦り寄られた。 「アナタが望むなら、なんでも」 その顔が余りにも満足げでとろけていたから、なんだかもう俺の方こそ好きにしてって気分になって。 …で、だ。どうなったかっていうと。 「ただいま」 男はいつのまにやら俺の家に住み着いて、それからこっちがどきっとするほどくっ付いてくるようになった。 キスはもはや挨拶で、それ以上のことも少しずつ…男の手際のよさに流されるようにして、色々されてしまっている。…あんなトコまで触られてなんか入れ…!いやその! 最初はいっそヤってしまおうかとか思ったこともあったんだが、男の行動からして、俺の方がヤラレルのは確実だと痛感した。 これ以上何かされたらどうするんだとか、そんな覚悟はしていないというのに、男を突き放せない辺り、俺もどうかしていると思う。 思うんだが。 「おかえりなさい」 そう言っただけでそれはもうこの世の春がいっぺんに来たみたいな顔で笑うと、俺の方までふわふわした気分になってしまうのだからもうどうしようもできないのだろう。 だから今度、また好きにしてと言われたら、答えるセリフも決めてしまった。 「なら…俺を好きにしてください」と。 ********************************************************************************* 適当。 ねむいので! |