彼がスーツを着替えたら(適当)



家に帰ったら、カカシさんがスーツを着て待っていた。
「どうしたんですかそれ?」
木の葉の里ではあまり見かけない服装だ。
忍里だから忍服の人間が多いってだけじゃなく、あまり機能的じゃない上に気候の変動にも対応しづらいこの服は、木の葉の里に根付かなかった。
任務だろうか。それにしちゃ妙にキラキラした目でこっちを見てる気がする。
…こういう時は大抵ろくでもないことを考えてるんだよなぁ。
警戒しつつも返事を待ってみると、妙に業とらしくネクタイの位置を直したカカシさんが、滔滔とまくし立ててきた。
「いやー。貰い物なんですけど、有名店のオーダーメイドだそうですよー?どうです?気に入ってもらえます?こういうのもたまにはいいですよね?ちょっと新鮮じゃないですか?ほら、俺たちっていつも忍服一辺倒ですし、刺激になればいいなぁって!」
よくわからないが大体分かった。
要はまたそっち方面でよからぬことを企んでいるんだろう。
期待に満ちた瞳に焦りを覚えながら、それでも笑顔はキープした。
怒ると混乱して慰めると称していきなり押し倒してきたりするからな。
謝りながら突っ込まれるのも、そのまま朝までやり倒されるのも、起きたら抱きこまれてるわ入ったままだわで悲惨な目に合うのもごめんだ。
さて、どうしてくれようか?
「スーツは、似合っていると思います」
相手の出方を見るために慎重に。
それからあまり余計な情報を相手に与えないのも重要だ。
…まあ何言ったってやられるのはほぼ確定だろうが、できるだけ軽度の被害に止めたい。
加減って物を知らないからな。この人は。
「イルカ先生も着てくださいね?」
さっと取り出されたハンガーにかかった物は、男とそろいの生地のスーツだった。
高そうなこれを男が嬉々として仕立てたであろうことは予想が付く。
大金を手にする生活に幼い頃からどっぷり浸ってきたせいか、金銭感覚がおかしいからな。
俺は、物なんかいらないのに。
「着る前に飯です。風呂です。それから寝ろ」
「えー!」
不満げな顔にはくっきりとクマが浮かんでいる。
それがまた色っぽい憂い顔のようにみせるのだから、顔のいい人間は得だ。
だがしかし…こんなもん着て遊んでる場合か!とっとと寝るべきだろうがクソ上忍が!
「明日ならつきあってあげますから。色々。背中流してあげるからまずは風呂です!」
「はーい!」
一瞬でスーツを脱ぎ捨てた男は、いそいそと着替え片手に戻ってきた。
くしゃくしゃになったスーツは一応ハンガーに掛けなおしておく。
明日にはどうせぐちゃぐちゃになるんだとしても、それはそれだ。物は大切にしないとな。
風呂はどうせこの男が沸かしてるはずだし。…色々やった後風呂に入れないと俺が怒って以来、きちんと準備してから襲うようになったっていうのが情けないというかなんと言うか。
まあこの際便利なんだから使わないと損だ。
「ほら行きますよ!」
往生際悪くうなじに頬を寄せて懐いてくる男が重くて仕方がない。
きっちり洗い上げて布団に突っ込んで、問答無用で寝かしつけてやる。
「はぁい」
俺の決意を知ってか知らずか、ちょっとどころでなく心配な上忍は期待に満ち満ちた声で返事をしていた。
優しくてかわいくて、甘え上手な恋人って意味ではそこそこ理想だ。男だが。色々強引だし、割とアホだし、ついでに理性を吹っ飛ばされると酷い目に合わされるけどな。
「おかえりなさい」
ぎゅうぎゅうしがみついてきた男が、できれば明日には貰い物の服のことなど忘れていればいいと、無駄と知りつつ祈っておいた。


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適当。
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