飯も食って風呂も入って、さて寝るかと立ち上がったとき、こんな時間だってのに玄関のドアに何かがぶつかる音がした。 昨日任務だった奴から回覧板でも回ってきたかと外に出てみれば見覚えのあるようなないような白っぽい髪の毛のが…えーっと。顔が見えてるんだが、これはその、もしかしなくても? 心臓が普段の倍以上の早さで脈打つのを押さえ込み、どう取り繕うかと考える暇もなくドアから入ってきて、つっかかるものがなくなったそれがガチャリと閉まる音を聞いた。 「疲れちゃった」 そう言って倒れこむようにのしかかってきた男は、そのまま意識を手放した。 「え!ちょっと!大丈夫なんですか!」 揺さぶっても頬をたたいてもピクリともしない。 声からしてもカカシさんなのは間違いないが、そういえばこの人はよくチャクラ切れを起こすんだったか。 どっちにしろ玄関じゃどうしようもない。逆に外じゃなくて良かったかもしれんが。俺と同じくらいの体格のイキモノを担ぐのは骨が折れるもんな。 「よいしょっと。えーっと。怪我はなさそうか。これどうやって脱がすんだ?」 せめて体を拭くくらいはした方がいいだろう。これじゃ相手に聞きようもないし、どっかに怪我でもしてたらコトだ。 「…不可抗力ってことにさせてもらっていいよな?」 邪な思いには気づかれていないと思っていたのに、こうして自分から、しかも動けなくなるくらい弱っているときにホイホイ上がり込んじまうなんて、なに考えてるんだ。 しかも顔を半分隠しているときから容姿が整っているのは見て取れたが、素顔は綺麗なんてもんじゃない。 この状態でこれじゃ、いつなにをされるかわからないじゃないか。 「これは、据え膳…?」 混乱のあまりとんでもない言葉が頭をよぎってついこぼしてしまったが、つまりその、俺は今晩盛大に我慢大会を開かなきゃいけないってことだ。 決意を新たに洗面所に向かうまでの俺の逡巡を知ったら、この人だって裸足で逃げ出すんじゃないだろうか。まあ無害だと思い込んでいるから、こんなことしたんだろうけどな。 とにかく極力見ないように気をつけながら四苦八苦して服を脱がし、だが怪我がないかは見なきゃいけないから、結局は生殺しだよなと一人毒づきながら風呂場に放り込んだ。 肌、白いよなー。触り心地もいい。 余計なコトをしないように、洗うコトを優先した結果、こうして洗いたてで無防備な上忍が俺のベッドで寝ることになるわけで…。 ああもう!考えない考えない! 念のため今日は床に寝よう。 いろいろ諦めて抱えあげたはずの体は、だがしかし腕の中から逃げていった。 驚くまもなく、放り込んだばかりのベッドに縫いとめられる。 おいおい。なんだよ!動けるんじゃないか!心配して損した! 「据え膳ですよ?」 「わー!ちょっと聞いてたんですか!あ、あれはただあんまりアンタが無防備だから危ないじゃないかってその!」 「…結構捨て身なんです。これでも」 そんなことを言われて、我慢できる男がいるんなら、そいつの顔を拝んでみたい。 「す、据え膳なら、く、食わなきゃ男が廃ります」 そういった瞬間引っくり返されて、食われたのは俺の方だったんだけどな…。 ドロドロにされて、動けなくなるまでやられて、残さず食べてって、一欠けらも残さず食われちまったのは俺の方なのに。 それ以来、恋人を自称し、周囲を徹底的に牽制するようになった恋人は、今日もベッドの上に寝転んで笑っている。 「イルカせんせ。据え膳ですよー?」 そんな誘い文句で俺の腕を引きながら。 ******************************************************************************** 適当。 据え膳風狼。 |