よりそうひと(適当)



だって好きなんだもん。でも立場から考えても早々簡単に好きだなんて言えない。
狙われてばかりの闇の住人の分際で太陽の光そのものみたいな人に惚れた報いだろうか。
触れるどころか見ることすらままならない。
だからさ、ちょっとくらいイイと思わない?
そんな言い訳をしながら今日も天井裏に忍び込む。
最初は流石にほこりっぽくて苦労したけど早い段階で掃除もして最低限の荷物も持ち込んだから、居心地はそこそこいい。
「ねっみー…」
あ、帰って来た!今日も疲れてるみたいなのに晩御飯にコンビニ弁当なんて買って!しかもアレうどん?野菜はどうしたのよ野菜は!全くもう!
「麦茶麦茶…ビールでも…お?あれ?」
あ、驚いてる驚いてる。
そりゃそっか。知らない間に冷蔵庫に惣菜つまってたらそりゃ驚くよねー?
普通なら食わない。そう、普通なら。
でも俺もその辺はきっちり抜かりなく考えてある。
「イルカちゃん。最近顔色悪いからちゃんと食べなさい…って。大家のおばちゃんの字だよなぁ…最近そういや怒られたっけ…」
しょぼんとしちゃったのはかわいそうだけど、涙を拭いながら嬉しそうにしてたからソコは素直に喜んでおいた。
大家のおばちゃんにも差し入れしといたことは教えてあるから、ちゃんと口裏くらいは合わせてくれる。
何せ元暗部だし?っていうか引退したと思ったら、堂々と暗号で式なんか送ってくるしなにやってるのかと思ったら賃貸アパートの大家始めましたって…まあ旦那さんは普通の忍だったから丁度いいのかもね。
ビールと少し迷って結局麦茶を取り出し、ボトルごと勢い良く煽った。
美味そうにプハーっと息を吐くと、それを出しっぱなしのちゃぶ台の上において、ばたばたと洗面所に向かう。
手を洗いベストを脱ぎ捨て、アンダーもぽいぽいと洗濯機に放り込んでいる。
無防備な姿を堪能できる至福の瞬間だ。
パンツ一丁になったイルカって最高。
仕上げとばかりに顔も洗って、それからさっさと戻ってきたイルカは冷蔵庫の惣菜とにらめっこをし始めた。
迷うのはわかるけど冷蔵庫あったまっちゃうから早くしなさいよ?
しばし迷った末に青菜の炒め物と白和えを選んで冷蔵庫を閉め、忘れていたらしいクーラーのスイッチを入れた。ついでにおんぼろの扇風機もだ。
どちらもぶーぶーと音を立てて涼しい空気を吐き出し始めると、にかっと笑って買い込んできたコンビニ弁当を開く。
あ。アイスまで買ってる!この間駄菓子屋のおばちゃんの勧誘に負けてお買い得6個セットの買ってきてたくせに!
「いっただきまーす!」
…笑顔がかわいいから許してあげよう。
よっぽどおなかが空いていたらしい。もりもり食べる姿は壮観の一言で、あっというまに綺麗さっぱり片付いた惣菜とついでにからっぽになった麦茶も流し台でざあざあと洗われている。
麦茶は洗い終わるなり次のパックを放り込まれてまた冷蔵庫に逆戻りだ。
…さて、今日はどうするんだろう。シャワーかな。風呂迷ってたもんね。
俺としては風呂もじっくり覗きたいし疲れも取ってほしいからシャワーよりは湯船につかって欲しいんだけど。
「…今日はシャワーでいいな」
ちぇっ。
パンツいっちょうでのしのし居間を横切り、ちょっと立て付けの悪いたんすから新しいパンツを取り出す。
「冷蔵庫…いや、惣菜入ってるしやめとくか」
そうそう。止めときなさい。冷やしパンツはそろそろ封印すべきでしょ?将来教師になったら子どもが真似したらまずいか持って悩んでたんだしいい機会だよ。
「っし!汗流して…寝るか!」
のっしのっしと風呂場に向かう。
第二の至福タイムの到来に胸が落ち着かない。
今日もいい汗かいてきてて、きっとそのうなじに顔を埋めたらたまらなくいい香りがするはずだ。イルカの、汗まじりの体臭。想像するだけでもうそこら中にキスして舐めて突っ込みたくなる。
「…火の意思をー♪ こーのーはーあかでみー♪」
今日も校歌を歌っている。いい声してるよね。ちょっとリズムはあやしいけど。
耳の後ろまで綺麗に洗って、それから暢気な鼻歌を歌いながらシャワータイムを満喫している。
眺めは最高だ。つんとたった乳首まではっきり見える。
髪の毛はしっとり肩口にまとわりついて…かじりつきたいくらいそそられた。
「ふー!いい湯だった!おやすみ」
風呂から上がるなりコップ一杯の麦茶を飲み干し、それからベッドに転がって目を閉じたと思ったらすぐに眠り込んでしまった。
数分待って、すっかり寝入っていることを確認してからそっと降り立つ。
このときだけは間近でこの人を見られる。
かわいい顔して寝ちゃって。
腹にタオルケットをかけたら、さらにふにゃっと笑うからこっちまで頬が緩んだ。
あー癒される。このまま食っちゃいたい。…うん。駄目なのはわかってますとも。
「おやすみイルカ。良い夢を」
頬に触れるその指先が溶けてしまいそうだと思った。
*****
「えーっと。その、つまりですね。…ストーカー」
「申し開きもできません」
土下座する頭はふさふさでさわり心地も抜群だが、後から抱きこまれてねむるときはうなじにふれてくすぐったい。
こんな関係になったのは、最近だ。
教え子を通じて接点が出来て、なんか妙に懐っこい上忍をついつい受け入れてしまって、気付いたら…っていうな。
押し倒されてなんで男なのに抵抗しなかったのか、自分でもわからん。
ただ中忍になってからいつも感じていた俺を見守っている何かの気配にすごく似ていて…ってまあその理由はこの人の情けなくも恐ろしい告白でわかっちまったんだけどな。
そうか…変な人だと思ってたら10、いやもっとか?随分長いこと俺のことを付回していたとは。
「俺のこと詳しいですよね」
不思議に思ってさりげなく聞いてみたら、いつもみたいに恋人だから何でも分かるんですとか言い出すだろうと思ったのにこれだ。
嘘付けないんだよな。近しい人には特に。
そう考えると誰よりも近くにいるってことだから喜ぶべきか。
なにせストーカーやってたと聞いても、落ち込む所かただひたすら納得しただけだからな。
「まあ、いいです。他の人にやっちゃだめですよ?」
「興味がないのでそれは大丈夫です。任務ならやらなきゃだめかなぁ」
「任務は別です」
「よかった」
なんかずれてるんだよなー。好きですって押し倒してきたときも、押し返したら謝るし泣きそうな顔するしかわいいし。
母ちゃんみたいなのに子どもっぽくもあって、庇護欲もそそられる。あれだ。理想の恋人ってこんな感じなんだろうな。
「末永く一緒にいないとだめですよ。責任とって」
「はぁい!」
くふくふと笑いながらしがみついてくる男を抱きしめて、何がどうしてそうなったのかは今度ゆっくり聞き出そうと思ったのだった。


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適当。
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