草原(適当)


身を切るような寒さに耐えて、眼下に広がる草原を見つめた。
白眼でも写輪眼でもないこの瞳で見える範囲には、敵は見えない。敵があからさまにうろついてるとか、戦闘が始まって術が発動してるとか、とりあえず俺が見ることができるのはそれくらいだ。
適任じゃねぇよなぁとしみじみ思う。
俺は検知タイプじゃない。どっちかっていうと罠を仕掛けたり変化の術を使って化けたりする方が得意だ。つまりどっちかっつーど警戒より迎撃が向いてる。検知タイプと組むことはよくあるが、自分から検知するのはとことん不向きなんだよ。
下っ端の仕事ではあるから、下忍のときとか、中忍になりたてのときにはよく担当したもんだ。要するに意味はないんだが、一人で静かに気配を殺し続ける練習にはなる。もちろんそういうときは同行している年嵩の連中から、さんざっぱら脅されているから、全力で警戒するし、集中もする。
おかげで確かに修羅場には強くなったと思うんだが、色々身をもって学んで、これ自体はさほど意味のある行為じゃないってことも知ってしまっている。
要は実地で演習やってるようなもんだ。のんびりやりすぎるのは流石に本気で有事のときに問題だし、そもそもいきなり敵前に放り込めるような忍は、回されてこない。本気で警戒するなら検知タイプの配属は欠かせないからな。
この年になってまさかこの手の任務がまわってくるとは。
「イルカせんせ。敵いました?」
「え。あ、いえ。今のところは」
まあ俺が見るよりこの人の左目でぎゅいーんと見ちゃう方がずっと早いはずなんだけどな。
「そ?」
なんでにこにこしてんだかなー。こういう任務を振ってくるくせに無邪気っつーか。
そもそも二人しかいないのに、こんなことをする意味はあるだろうか?
襲撃に気づいて味方全員で素早く迎え撃つとか、そういう状況ならわかるが、二人だと敵がきたらぶちのめすか逃げるかしかないんだよな。
「…あのー。帰還はいつになるんでしょうか?」
「んー?ま、未定ですかねー」
ため息をつきたくなったが、何とか堪えた。
そう、俺はこの任務の詳細を伝えられていない。
この上忍に捕まって、任務だからと連れ出されただけだ。
美しい草原と森との境目に天幕を張り、ぼんやり草原を眺める生活…。
今日一日だけでもうんざりしてるってのに、終わりがわからないなんて耐えられるだろうか?
目的の分からない任務がこれほどまでに人を消耗させるものだと思わなかった。
いや、いままでだって教えてもらえなかったことなんていくらでもあるが、この人と一緒だからってのもあるんだよな…。
つかみどころのない人だ。喧嘩っつーか派手に言い合いをした翌日に、わざわざ家に来て謝るべきか迷ってる俺に、面白い人ですねときたもんだ。わざわざそんなこと言いに着やがったのかと怒るには、その笑顔があまりにも自然で…。
結果的にはあそうですかと返した途端に、気に入りましたじゃあまたねと言いおいて姿を消したから、今でもこの微妙な緊張感のある関係は続いている。
向こうはなにもかんがえてないんだろうけどな!ちくしょう。上忍様め…!
「いーい天気ですね」
「そ、そうですね?」
「ごはんにしましょうか」
「へ?いやでも」
「ま、いーからいーから」
「…はぁ」
上司の命令だ。逆らっても目的もわからない見張りよりはずっとましだろう。
妙に気合の入ったサンドイッチと、それからなぜか梅昆布茶といういまいちつかめないが非常に美味い飯を片付けた俺が、今度は二人そろって見張りだと言われて樹上の人になることしばし。
妙にくっついてくるから温かいのはありがたいが、野郎二人で木の上でぎっちぎちにくっついてぼんやりしてるって絵面辛いよなーなんて思っていたわけだが。
「ぴくにっくたのしかったですね」
「は?」
「じゃ、また」
「え?え?え?」
またじゃねぇよどういうことだよ!そんな叫びはニコニコ顔で俺の手を取って歩き出した男には通じそうもない。
ぴくにっくって、なにもしてねぇけどまさかこれ任務じゃないんじゃないだろうな?これで依頼料振り込まれてなかったらぶん殴ろう。
怒っていいのか迷いつつ歩き出した俺の手は、よくわからん上忍のおかげで暖かい。
色々諦めよう。里に帰ったらできるだけ近寄らないようにしよう。
そう決意した俺は知らなかった。
男がでーと称する任務を、たっぷり用意していたことを。



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適当。

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