けっ!あんなヤツ、いっそ死んじまえばいいのに。 恵まれた立場で、恵まれた容姿で、おまけに才能まで恵まれていやがる男。 おかげで任務は恐ろしく早く片付いて、まさに隊長様様だ。偉ぶるわけでもないのが却って癇に障る。 どこかに付け入るスキはないかと考えてはみたものの、こんな男にそんなものがあるわけがない。 里に帰ったらいっそ景気づけに女でも買って帰ろうと、野営中の天幕の中で腐っていたら、ざわめきが耳に障って寝付けない。 どんなにくだらない話をしてやがるんだと耳を傾けてみれば、意外や意外。 「俺の、恋人?」 「そうです!」 「かわいいっておっしゃってましたよね!」 「凛々しいって聞いたぞ?俺は」 「いやー!なにそれうそでしょ!」 「はたけ上忍の恋人さんって結局どんな人なんですか?」 喧しいのも納得だ。くノ一連中と、それから下忍がまとわりついているらしい。 くノ一といっても駆け出しの小便臭い小娘ばかりで、下忍たちも似たようなもんだ。いくら情勢が不安定だからって、ぞろぞろあんな役立たずのガキども引き連れてお使い任務かよ。 ガキでも女だ。折角だから一人くらい食っちまおうと思ったのに、あの隊長さんが子守よろしくはりついて離れなかったおかげでそれもやり損なった。全くついてない。 「えー?内緒。かな?恥ずかしがり屋さんだから」 声音からは動揺は感じ取れない。ってことは煙に巻いてごまかすつもりだろう。 海千山千の上忍連中ならいざしらず、山のようにとっついてるのはガキばかりだ。アカデミーを出たてみたいな連中に、そんな技はとてもじゃないが繰り出せないだろう。 筋は悪くないが、妙にあっけらかんとした素直なガキばかりで、扱いやすいような難い様な妙な感じの連中だ。怖いことなんざ何も知りませんって面で、雁首そろえていられてみろ?イライラするってもんだろうが。 「好きなんですねー?ホントに」 「嘘―。もうほんとショック!はたけ上忍はかっこいいってイルカ先生も言ってたし、ホントにかっこいいのに!」 「…そ?」 なんだ。今の間は。ガキどもは好き勝手わめいているせいで気づいちゃいないようだが、俺の耳には確かにわずかながらの感情の動きが感じられた。こうなると眠気なんて吹っ飛んじまう。さすがにあれだけガキどもにとっつかれてちゃ、こっちが聞き耳立ててることになんか気づいちゃいないだろう。 耳をそばだてて様子を伺っていると、あの癇に障る妙に響きのいいの隊長様の声が聞こえてきた。 「…ほんとに、イルカ先生が俺のことかっこいいって言ってたの?」 「うん!」 「だから安心してろって!」 「えっと、大船に乗ったつもりで行けって!」 ほうほう。そのイルカ先生とやらはどうもこの隊長様のことを随分と信頼しているらしい。それでか。ガキどもが張り付いてたのは。余計なこと言いやがって。 …にしても、この反応。やはり妙だ。なにかある。そう、イルカ先生とやらに含むところが確実に。 「まいったなぁ」 「なにが?降参?」 「ねー?耳赤いよ?焚火熱い?」 「こら!はたけ上忍は上忍なんだぞ!ちゃんとしないとイルカ先生に言いつけるからな!受付してるっていってたもん!」 「はぁい!」 ガキどもの騒がしさは相変わらずだが、あの隊長様の反応。 イルカ先生ってのがアレか。こいつの色か。こいつはいいことを聞いた。 どうせヤるなら、そいつがいい。先生ってことはアカデミーの内勤で、おそらくは下忍かせいぜい中忍どまりだ。 上忍相手にどれだけ抵抗できるか見物だよなぁ? この男が虜になるくらいだ。さぞやいい女なんだろう。期待とともに股間も膨らむってもんだ。所詮隠しただ。ちっとばかし脅せば黙らせることなんざ簡単だろう。 「ほーら。そろそろ寝なさいね。元気に帰らないとイルカ先生も心配するよ?」 「「「「「はーい!」」」」」 声をそろえてバタバタと片づけをする音がして、それからしばらくして、どうやら連中は素直に割り当てられた天幕に帰ったらしかった。 静寂が支配する森の中で、眠りに落ちるのはたやすい。だが。 「帰ったら、覚えてなさいよ」 つぶやくようなそのセリフが誰に向けられたものなのか、想像するだけで下卑た笑みがこみ上げてきて、穏やかな眠りはどうやら訪れそうもなかった。 ***** おいおい。これは一体何の冗談だ? 「お疲れさまでした!」 「これ、報告書」 「はい。今確認しますね?」 「ん」 男は確かにこの受付の男をイルカ先生と呼んだ。ってことはアレか。色ってのは勘違いか。紛らわしい真似しやがって。 支給品の補充を言い訳に、女を面拝みに受付所までわざわざ足を運んでやったってのに、とんだ無駄足だ。どっからどうみても男だ。凛々しいってのはまあガキどもなら言いそうだが、かわいいってのは目が腐ってるとしか思えない。 下忍にしちゃ隙がないから、おそらく中忍だろうが、体型を見る限りじゃそれなりに使える方だな。どこもかしこも硬そうで、男のくせにへらへら笑ってるのも気に食わねぇ。少なくとも俺はこれっぽっちも食指が動かない。ただの野郎じゃねぇか。無駄足踏ませやがって。 「みんな、頑張ったんですね」 「ねーえ。その件で、お話しません?」 「へ?」 「俺、かっこいい?」 「ふが!いや!その!…申し訳ありません」 なんのコントだこりゃ?ゆでだこみてぇになって狼狽えてる面は間抜けそのものだし、あの感情のコントロールの甘さをみると、中忍にしといて大丈夫か不安になる。 それに、隊長…いや、元隊長の方をみれば、いたずらっぽい口ぶりとは裏腹に、目つきがやけに剣呑だ。 そう、まるで獲物をみる肉食獣か猛禽のような…って、まさか、な。 思わず観察しちまったほど、その見世物は随分と目立っていた。 「ま、いーや。ってことで今日はおうちにお邪魔しますね?はい決まり」 「ええ!?あ、まあその、酒は実は買ってあるんですが。へへ!」 「かーわいいこといってんじゃないよ全く!気を付けてよね!」 かわいい…?なにがどこが。いや、まあそれは個人の好みか。好みって問題じゃない気もするんだが。 マジマジとごつくてどこまでも男臭い中忍を見ていたら、ついっと視線がこちらを向いた。微笑む中忍と、それから。 俺を射殺そうとでもいうように恐ろしい鋭さで睨み、殺気染みたチャクラをたたきつけてくる上忍。 だめだ。こいつはかかわるべきじゃねぇ。気に食わねぇ上忍様だが、プライベートまで底知れねぇとは。こういうのは関わっちまう方が馬鹿だ。そうじゃねぇとすぐに死んじまう。 予定は再度変更だ。女をひっかけるのもいいが、今日は飯を食ってさっさと寝よう。ろくでもないもんは寝て忘れるに限る。 受付所を後にしながら、いちゃつきとも挑発ともとれる言動を繰り返す隊長様と、間抜けな中忍のやり取りが追いかけてきて、焦りとも恐怖ともつかぬ物のおかげで鳥肌が立ったままだ。 飯を食って布団に入ればそれなりに気分も落ち着く。きっと何もかも忘れられるだろう。これまでずっとそうやってきた。手についた血も痛みを忘れてきたように、あんな訳の分からない男のことなんざ忘れてみせる。そう信じて実行した。 それもまあ夜明け前に元隊長様が枕元でクナイを突き付けてくるまでの平穏だったんだがな。 ******************************************************************************** 適当。 |