おいかけっこ23(適当)



「やーめーろーよー!」
「ははは!ぷにぷにだね!カカシ君はさー。ちっちゃい頃はすっごくかわいくてね!今も可愛いんだけど!とにかくさわり心地がよかったんだよ!でもね…最近もう触らせてくれないんだよね…。ひどいと思わない?こんなにぷにぷになのにね!」
「離せって!修行って言ったのに!なにすんだよ!カカシがかわいそうだろ!大人はしっかりしなきゃだめなんだぞ!」
不穏な気配に気付いて大慌てで飛び出してみれば、先生がイルカを抱き上げてほっぺたをつついていた。
一瞬で湧き上がる衝動のままに、気付けば飛び掛っていた。
「おわ!カカシが二人!わ、わわ!」
影分身のうち、一体はイルカを確保し、もう一体は迎撃に回る。当然先生相手にそう簡単に一撃だって入れられないけど、牽制できれば十分だ。
家に帰ってからイルカが閉じ込められていないかとか、どうやって取り返そうとか、それに父さんが不穏なことを考えてそうだったから、座敷牢のメンテナンスに勤しむのを止めたりとか色々してるうちに、一睡もせずに朝が来ていた。
イルカのことばっかりだ。ずっとずっと一緒にいるって決意は変らないけど、少しの間だけだってわかってても離れるのは辛かった。すごくすごく辛かった。
先生が絡んでるってことは、確実にあの子は俺のモノになる。それも父さんみたいに波風立てずに、さりげなくあの人たちを追い込んで、己の手の内で躍らせるだろうことは想像できた。
ついでにこうやって俺とイルカで遊びたがるだろうってことも。
普通の人よりずっと頭の回転がいいせいか、先生は退屈が嫌いだ。
どんなに難しい古文書でも一瞬で読んでしまうし、術だって一回見れば応用しちゃうしカウンターだってできちゃうしで、瞳術も血継限界でもないみたいなのに先見もできるんじゃないかってくらい、敵の手の内も未来も予想できる。
でも驚くほど飽きっぽい。

…すっごくすっごく気に入った物以外は。

イルカのことは…多分気に入ってしまった。俺が欲しがって俺のモノにしたからってのもあるけど、それだけじゃない。
イルカの存在そのものがすごいってことに、先生も気付いてしまったせいだ。
そうじゃなきゃ、こんな風にしない。
先生は綺麗っていうか、人を懐柔するのに向いた容姿をしている。誰もが目を奪われる整った容貌に、体型も忍としても男としても悔しくなるくらい綺麗だ。
ま、父さんの方がすごいと密かに思ってはいるけど、先生の方が愛想がいいし、話術がとんでもなくそれこそ詐欺師レベルで上手いもんね。
その上腕までいいから、寄ってくる連中は一緒に修行していてうんざりするほどみてきた。
だから気付いた。先生は気に食わない人間には触れさせもしない。
言葉で、笑顔で、さりげなく相手を満足させながら遠ざける。
自分から触りに行くってことは、確実に気に入られてしまった。この厄介な人に。
俺が先に手を出しといてよかったかもしれない。下手をしたらイルカはこの人に気に入られて、何か酷いことになっていたかも。
先生は色々屈折してて、素直に可愛がるとかそういうのはあんまり得意じゃない。唯一、お嫁さんだよーって紹介してくれたあと思いっきりぶん殴られてたあのくノ一だけだ。全身全霊を持って甘やかし、尊重し、…隠さずにぶつかっていくのは。
厄介な人に目をつけられてしまったってことだよね。
もう一体潜ませておいた陰分身に囲まれても、涼しい顔で喜んでいる。
威嚇だけできれば十分だ。それ以上は、今後の課題。そんなことで落ち込むよりも、やるべきことはここにある。
「イルカ。大丈夫?」
「お、おう!なんかさ、この人と修行っていうからカカシの家に迎えに行こうとしたんだけど、捕まったからさ…助かった!ありがとな!」
かわいい。照れくさそうに鼻傷掻いて、ついでに密着した体温にぞくぞくする。
取り戻した。これは、やっぱり俺のモノ。
捕まえたら、きっと二度と離したくなくなる。…だからあともうちょっとだけ。もう少しの間だけ、我慢しなきゃ。父さんのような失敗は、絶対に出来ないんだから。
「さ!修行しようね!ほーらたくさんお弁当もあるよ!」
「おおおお!うっまそう!」
さっきまで警戒してたのに…。イルカは食いしん坊って覚えとかなきゃ。
「…先生…ピクニックとかじゃないですよね…?」
不安だ。すごく不安だ。勝手にデートとか考えてそうで恐い。しかも先生は躊躇いなくやる。余計なちょっかいを掛け捲るだろうし、無駄に色々気遣って、盛り上げようとして盛り下げる。それはもう間違いなく。
「ん!ちゃーんと修行だよ!」
…親指立ててさわやかににこっと笑われても、何度もこの笑顔を見ているせいか胡散臭くしか感じない。
「すっげぇな!カカシの先生!大分…いやちょっと変だけどな…」
騙されやすいっていうか…!それに途中から哀れみの視線に変わった気がするんだけど、気のせいじゃないよね…。
ま、いいか。だってイルカがこんなに近くにいるんだから。知らなかったことを、ほんの少しの間でたくさん知る事ができた。くるくる変わる表情を誰よりも近くでみていることができるし、触れることも触れてもらうことも出来る。
それにイルカに向けられるものなら、なんだって心地いい。だからいいんだ。
少なくとも、奪われる可能性は減ったんだから。
「がんばろうね!」
「おう!」
決意を胸に両手を握ったら、イルカもにこっと笑ってくれた。
まるで、太陽みたいに。


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適当。
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