「ね、だめ?」 おねだりに弱い自覚はある。 それにこの人がそれを良く知った上でやってるってことも。 にもかかわらず、俺はいつだって嫌といえないんだ。 「…ちょ、ちょっとだけですからね!」 「いいの?やった!…ありがと。イルカせんせ」 この顔がいけない。 多少なりとも演技も入ってるのかもしれないのに、ぱぁっと顔を輝かせてきゃいきゃい喜んでいるのを見たら、何度だってなんだって聞いてやろうって気になるじゃないか。 それにまあ、ちょっと困るけどまあいいかってことにしか、流石の俺も頷かないしな。 時々とんでもない中身も混ざるおねだりには、警戒が必要不可欠だ。 油断すると想像したこともないような行為をしかけてこられない。 …主に閨関係のことで。 流石に今回はそれもむりだろうけどな。歩くのだってだるそうにしてるくらいだし。 「本当にちょっとですからね?洗濯ものも終わってないし、第一あんたずっと寝てて飯食ってないでしょうが」 「んー?じゃ、イルカせんせ食べるから…」 「だーめーでーす!第一俺は食いもんじゃないでしょうが!ほら、飯も味噌汁もあるからとっとと食べてきなさい」 任務帰りに俺の家に帰ってきてくれたのはすごく嬉しい。 チャクラ切れ寸前で倒れるように転がり込んできたんだとしても、だ。 風呂に入れて綺麗に洗って、ついでに飯を食わそうとしたらしがみ付いたまま寝ちまうし、心配ばっかりかけて…。 まあ愚痴はいい。とにかくこの人には休んでもらいたい。 任務帰りだから休暇はたしか3日はもらえるはずだ。…だが俺のほうはというとそこそこ忙しい。 今日は休みだが、明日にはまた受付が午後から入っているのだ。 こうなったら洗濯だけでも何とかして片付けてしまおう。 ちょっと恨めしそうに上目遣いでこっちを見てはいたが、並べてある飯を一口食べると空腹であることを理解したらしい。 もそもそ食べていたのが途中からかなりの速度に変わっていた。 そういうところもかわいいなぁ…なんて思っている余裕は俺になかったんだった! しばし観察してしまったが、大慌てで洗濯機にスイッチを入れに行った。 汚れ物の一番上に、昨日引っぺがしたカカシさんの忍服を放り込んだらあとは待つだけ。 分不相応に高機能な洗濯機のおかげで、あとは乾燥まで全自動でなんとかしてくれる。 …そういえば、コレを買ってきたのはカカシさんだった。先代が壊れた翌日には、コイツがすでに俺の家に設置されていた。 勝手に買うなと喧嘩もしたが、うちにあったから持ってきただけなんですーなんてしょぼくれた顔でいうからそれ以上何もいえなかったんだ。 もう家に帰らないから、ここが俺の居場所だから。だから…ねぇ。ここにおいて?なんて言われたら、そりゃもう…! …かわいい顔してケダモノなんだけどな…。思わず抱きしめたらそのままベッドに移動してたもんな…。 とにかくこれで後はたたむだけだ。その間は…しょうがないから付き合ってやらないとな。 「ご飯。おかわりいりますか?」 居間に戻ると、すでにおかずはなくなっていて、ついでに飯も炊飯器から姿を消していた。 短時間で…覆面効果だろうか。 「んーん。もういいです。歯も磨きました!」 期待に満ちた視線に、後の用事は諦めることにした。飯は最悪店屋物だってかまいやしない。 「じゃ、洗濯物が乾くまでですからね!」 「はーい!」 俺の手を引くカカシさんに抵抗する気も失せた。 ベッドにつくやいなや抱きしめられて、そのままシーツの海に飛び込まれても、怒ったりできない。ある意味予想通りだからっていうのと、ふわふわ笑うカカシさんがあんまりにも嬉しそうだからだ。 「イルカせんせの添い寝ー!堪能しなきゃですね!」 耳元でくすくす笑われるとくすぐったい。それにこう…こっちは健康だし留守中一人だったし、ちょっとした欲求まで感じてしまいそうだ。 だがそこは押さえ込む。…調子にのったカカシさんに煽られ倒した挙句、上に乗ってなんて言われるのは一度だけで十分だ。 「ちゃんと休んで、早く元気になってくださいね?」 無理をするところを心配しても、この性格はきっと直らないだろう。自分を犠牲にするなといったって、庇えるものは全力で庇って帰ってくるんだ。この人は。 「ん。イルカせんせのためにもね!」 能天気な振りして股間を擦り付けてくるのを拳骨でいなし、同じ布団に包まってくっついてやった。 暑苦しかろうがしるもんか! 「いいから寝ろ」 「…ん。寝ます…イルカせんせが側にいてくれれば…ちゃんとねむ、く…」 あっという間にすーすー寝息を立て始めたカカシさんのおかげで、不埒な欲は散ってくれそうだ。拍子抜けしすぎたとも言う。 「おやすみなさい。…起きたら…また色々…」 襲い来る眠気に逆らわずに目を閉じた。 帰ってきたぬくもりをしっかりと抱きしめながら。 ********************************************************************************* 適当。 ふんわりふわふわ。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |