「どうでもいいでしょ。そんなの」 なんて言い草だといってみたくもなるが、要は断られたということだろう。 同性に告白なんてするのも初めてだが、こんな返事を貰うのも初めてだ。 どうでもいい。そうだな。この上忍に惚れている人間は山ほどいるし、この手の告白は面倒なものでしかないのだろう。 断られる覚悟は決めていた。…というかむしろ、受け入れらるとは露ほども思っていなかった。 だが、思いの外堪える。情けないことに、少しばかり顔が歪んだのがわかった。 …この人を困らせたくはないのに。 「ご迷惑をおかけしてすみませんでした。受付以外ではもう二度とお声をおかけすることは…」 なんと言うかは告白する前から決めていた。 気まずくなるのが嫌で告白するのに二の足を踏み続けてきたものの、今は春。 せわしなく愛を請う獣たちの声に、いっそのこと玉砕するのも悪くないかと思えたのが切っ掛けだ。 後ろ向きと笑うなら笑ってくれていい。 同性でしかも浮名を流してきた相手の全てが美しい女性ばかりの男。この思いが成就することなどありえないとしか思えなかった。 半ば諦めていた恋だ。散っても諦めがつくだろうと思ったのに、足元が急に抜けたようだ。苦しい。…いつか忘れられると分かっていても、今は。 「はい。いいからこっち見て」 「は?」 涙を拭うはずだった腕を引き寄せられて、なぜだか男の腕のなかに閉じ込められている。 なんだこれ。 「あのね。そんなに苦しそうに言わないでもいいから」 何故か笑っている。それもこの表情には見覚えがある。 さんまが好きなんだと、一緒に飯を食ったと気に…まあ俺はさんまじゃないし、不躾に告白してきた無骨な男だ。 もっというなら女性にもとんと縁が…だからって男が好きなわけじゃないが。今までだって一度として男相手に欲情したこともない。…この人を除いては。 「すみません」 告白を決意した理由はもう一つある。 男である以上、それなりにその、溜まれば出したいという欲求があって、そうなると処理しなくちゃならない。 その手の店に行くのはどうにも女性を虐げているような気分になっていたたまれないし、ふいに肌を露にされると鼻血を吹いたりするのでもっぱら自己処理ですませていた。 で、まあその。…気づいたらおかずがこの人ばかりになっていて、もうこれ以上こじらせるよりは終わらせないといけない思ったんだ。 つまりこんな状況にいると素直で押さえの利かない下半身がだな…! 「あらまあ元気。じゃ、いいかなー?」 「へ?あの!お願いですから離れて…!」 「ん。それは無理。これから全部きっちり少しも残さず俺のモノになってもらうから」 「は?」 ああなんだろうな。やっぱり思いつめすぎて眠れなかったのがわるかったんだろうか。 この人の言っていることが理解できない。 あまりにも自分に都合がよすぎる言葉たちは、ひょっとして幻聴だろうか。 「はいあーん」 「あーん?」 一緒に飯を食うとよくこうして気に入ったおかずを口に放り込んでくるのはこの人の癖だ。最初は面食らったが、まるでひな鳥にでもなったようで…大事にされているようで嬉しかったんだよなぁ…。 だが口の中に放り込まれるおかずはここにはなくて、代わりにぬるりと入り込んできたのは見たことがない顔で笑う男の舌で。 「ふぐ!?ん!?ん…っ!ふぁ…!」 「はいはい。いいから。…ね?」 「ん、んん…っぁ…!」 ヤバイ。何がってそんなもの…人様に言えないような所の切羽詰った事情に決まってる。 「あー…もうやっとだもんね。よかった…!でもそんな苦しそうな顔させるくらいなら俺から言えばよかった!」 「ん、あの…?」 「ん。ちょっとだけ我慢してね?ここでは流石に嫌でしょ?」 なんだろう。なにがどうなった?とりあえず疼き続ける下半身をどうしようか。トイレに駆け込むにも腰が言うことを聞きそうにない。 「す、みませ…」 「好きです。やっと言えた!我慢してつきあってもらってるのかもって不安で…ごめんなさい」 ああなんだよもう。そんなしょぼくれた顔しないでくれ。アンタの笑顔が好きなんだ。 頭の中で思っていただけのつもりだった言葉たちは、どうやら全部口にしていたらしい。 「熱烈…!もー無理。帰ろう?シよう?だから明日はお休みしてね?」 矢継ぎ早に告げられた言葉を理解する前に浚われて、そうして全部奪われてしまった。 男が提出した俺の分の休暇願について、真っ赤になりながら言い訳しようとしたときに、もうとっくに付き合ってると思ってたと言われるとは思わなかったが。 「鈍いのはお互い様ですし。春様様ですね」 告白の理由と共に事情を説明したら、そう言われた。 そうだな。春が来てよかった。この人を手に入れられて良かった。 …春先に実った恋は、どうやら終わりそうにない。 ********************************************************************************* 適当。 はるー ご意見ご感想お気軽にどうぞー |