「食い気ってさ、それも欲望な訳でしょ?」 先輩はよく訳のわからないことをいう。 まあ世話になったのは事実だし、嫌いでもないけど、世話になった分の倍はおちょくられたりしてるから多少警戒しちゃうのは仕方がないことだよね。 「はぁ。まあそうでしょうね。生きるために必要なものですが」 「すごいんだよね。よく食べるの。まあ俺の分とったりはしないけど」 何の話か良く分からない。 まあコレもよくあることだけど。 自分が分かっていること=他人も分かると思っちゃうんだろうね。任務中はそれでももうちょっと分かりやすいけど、プライベートとなるとさっぱりだ。 …忍犬?いやでもあの子達はむしろ礼儀正しすぎるくらいだよね。口は悪いけど、なんだかんだと食事は譲り合ってるし。 ってことは女か。入れ食いのくせにちゃんとした相手なんかつくったことないはずだけど、ひょっとするとやっと一人に決めたんだろうか。 「食いしん坊なんですね」 こうなると俄然興味が湧いてくる。 下世話だと笑ってくれてもいい。普段から感情の触れ幅の少ない先輩がわずかとは言え悩んでいるらしいことに、僕は確かに好奇心をそそられていた。 めんどくさいとか、しょうがないとか、気だるげな態度と言動で、いつもなんだかんだと先輩はきっちり任務をこなしてくれたけど…。 悩むって、何にだろう。慰霊碑に毎日行っているのは知ってたけど。 「食いしん坊…そうね。そうかも」 「じゃあ、お土産に食べ物でも買って帰りますか?」 お土産なんてものを買ったことはそんなにない。 目立たないようにわざとっていうのなら分かるけど、そもそもが任務中だ。何があるかわからないのに荷物なんて増やすわけがない。 でも、今回なら。僕もそこそこできる方だし、先輩は勿論トップレベルの忍なんだから、問題ない気がした。 「あ、もう買った。…なーんであんなに食うのは熱心なのに、一々拒むんだろうねぇ?気持ちイイのは好きみたいなのに」 「へ!?え、えーっと!?」 いきなり下の話題か。ホントにこの人先輩なのか? お土産もう買ってるってのも驚きだけどね…。 「最中は好きだのもっとだの言ってくれるのよ。でもそこまで行くのが大変でね。誘うときも相当あからさまじゃないとさわやかにお手つないで寝るコースにもってこうとすんの。同じベッドにいるのに信じられないでしょ?」 「随分晩生というか…純粋なお嬢さんなんですね」 むしろ天然か。先輩にしちゃ珍しい相手だ。こなれた相手の方が好きみたいだったのに。 一緒に暮らしてるっぽいけど、まさかどこかの金持ちの世間知らずでもかどわかしたんじゃないだろうね? まあそんなこと聞けないけど! 「ん?お嬢さんじゃないよ。中忍」 「はぁ。そうですか」 それなら…よかったのかな。まあお嬢さんじゃなくても一緒だけど。中忍のくノ一でその態度って問題ありすぎだけどね…。 「やりたいなー…まあ嫌がるのもかわいいんだけど。帰ったら縛っちゃおうかな。いっそのこと」 「それは…!?どうなんですか!?」 「止めろって怒鳴られた。最中はすっごくいい声でないてくれたんだけど、後ですっごく落ち込んでたんだよねぇ?やっぱり止めた方がいい?」 「止めた方がいいと思いますよ。そもそも恋人にそれは…」 「じゃ、薬?」 まるっきり悪気がないのがわかる反応だ。 …いい人なんだけどね。悪い意味で純粋培養されちゃってるから始末に負えない。 僕だってそれに近いものはあるけど、先輩の失敗でこりたのか、必死に常識教えようとしてくれた人がいるからまだましかな。 「薬もダメです。先輩がなんていうか…ちゃんと口説けば多分いけますよ。縛ったのに別れてないんでしょう?」 「なにすんだー!って怒ってたよ?でもきもちよかったでしょって言ったらさめざめと泣いてて、それにムラムラしてやっちゃって、そのまま出てきたんだけど」 「なにやってんですかー!?」 「そうそう。そんな感じ?声は掠れちゃってたけど。…そこがまたえろいんだもん」 「早く帰りますよ!それから…だめもとで土下座でもしてください!」 この際お土産買っておいてあるなら良かったよ!破局なんてしたら…先輩が荒れたとこなんてあんまり見たことないけど怖すぎる! 「そうねぇ…そういうのもあり、か。イイ顔してるの早くみたいだけだし」 「ホラ、いきますよ!」 なんだかダメそうな気もするけど…こんな調子じゃ。 まあやってみなくちゃわからないよね! 全速力で先輩を引きずるようにして駆け出した。 …恋人が中忍で、でも男でしかも帰るなり拳骨振りかざしてくるなんてことを、そのときの僕はまだ知らなかったんだけどね…。 ********************************************************************************* 適当。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |