深夜の落し物(適当)

桜は疾うにその花を散らし、代わりとばかりに若葉が生い茂り、淡く軟らかい葉で木々を薄緑色に染めている。
あの桃色に咲き誇っていた儚げな風情などどこにもなくて、そこにあるのは力強い命の気配だけ。
まだ少しだけ肌寒いが、季節はもうすっかり春だ。
だから、まあしょうがないかなぁと思ったんだ。
「春だからなぁ。…仕方ないか」
春というだけで浮き足立つのは俺にも良く分かる。
なんとなくふわふわと落ち着かない気分は自分にも覚えがあったから。
…だがだからと言って酔っ払いが玄関先に転がってるのは頂けない。
玄関先にわだかまる全体的に白っぽい塊に見えたそれが、実は人なんだと気付くのに、そう長くは掛からなかった。
肌も、その髪の色もまるで作り物のように白く、月明かりに照らされてふわりと浮き上がって見えた。
膝を抱えて顔を隠すように丸まった姿はまるで猫のようで、その表情も白銀の髪に隠されて読み取ることはできない。
…一瞬、任務で何かあって倒れてるんじゃないかとか思わないでもなかったが、側に寄ればあからさまな酒気が漂い、ここに倒れている理由もおのずとうかがい知れた。
「酔っ払いか」
酒に酔う忍なんてものは珍しい。
毒にも薬にも…少なからず耐性を持つために訓練をするから、大抵の忍は酒程度では酔えなくなっている。
…ただし常識的な量では、なのだが。
「これじゃあなぁ…」
全身から酒そのもののようなにおいを発している男は、きっと想像するのも恐ろしい量の酒を飲んでしまったのだろう。
忍としては失格といえるかもしれない。
だがしかし。
…自分もついこの間、満開の桜の下で浮かれ騒ぐ心のままに酒を酌み交わし、酔い潰れ、同じような状態の仲間と折り重なって目を覚ましたばかりだから、そう強くもでられない。
飲まないとやってられないことでもあったんだろうから。
理由は分からないが…こんな行動にでるなら何かあったんだろうってこと程度はなんとなくだが想像できた。あとはこの塊をどうするかってことだけだ。
「しまっとくか。うちに」
何せ春が来たとはいえ、夜はまだまだ肌寒く、酒に溺れてつぶれたこの見知らぬ男にはきっと寒すぎる。
体じゃなくて、心が。…夜の闇に冷えて固まってしまいそうだから。
それに、きっとこんな気分のときに一人で目覚めるのはいやなんじゃないだろうか。
…そう、たとえば。
巣立ちの季節に寂しさの尻尾が心にまだ居座っていて、ついつい飲んでしまった今の俺の様に。
「ようし!やるか!」
そうと決まれば、俺の行動は早かった。
ぐんにゃりと力の抜けた体を抱き上げ、ちょっと引きずるようになっちゃったのはご愛嬌だが…とにかく、俺の家に運び込んでぞんざいに敷いたままの万年床に横たえた所までは覚えている。
その後は…自分にも残っていた酔いのもたらす心地良い、だが抗い難いほどの眠気に負けて、見知らぬ男の隣で目蓋を閉じて…なんとなく満ちたりた気分になりながら意識を手放した。

良く考えるまでもなく、相手の階級は気配や服装からして想像できたはずなのに、放っておいても問題なんてなかった…むしろ里の警備を呼び出せばよかったはずなのに。
どうしても、その時の俺はこれを早く温めてやりたくなってしまったのだ。

…目覚めた男の目的が、俺だったんだと知って、自分がまだ酔っ払いだったんだと後悔する夜の話。

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てきとうー!
こんなんでましたけど!ねむい!←だめじゃん。

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