溺れる人(適当)


「きもちイイ?」
「…んなこときくな…!」
この行為に快楽を感じたかどうかなんて、知る必要はないはずだ。
ほぼ無理矢理この男の相手をしろと命じられて、それが任務だといわれれば従う他ないにしろ、そこまでサービスしていられるか。
やったことがあるかと言われれば、同い年の仲間と筆卸を済ませてから、多少なりともそういう行為に及んだ事がないとは言わない。好奇心もあったし、一度覚えた快感はそれなりに俺の中に根付き、誘われれば断らない程度に遊んだのは事実だ。
とはいえ、その全てが女相手だったから、こんな異常な行為など知るはずもない。
「生きがいいねぇ?ま、どこまでもつかわかんないけど、せいぜいがんばってみせてね?」
いっそ少女のようなといえるほどに美しい外見をして、だがこのイキモノはそんなん生易しい甘やかなモノでは決してない。
「っく…ぅあ!あ!」
「声、殺さないで」
どう言われようがこんな声、自分自身だって聞きたくないに決まってる。だが、穿たれるたびにみっともなく上がる悲鳴染みたモノに気を良くしてか、男の方は遠慮なく腰を使ってくる。
「…るせぇ…!はやく、おわ、れ」
「さぁね?それはどうかなー?」
密やかなくせに耳障りな笑い声と共に、勢い良く奥まで突っ込まれた。無駄に目立つ白いプロテクターをとっぱらえば、身に纏うのは闇に溶ける黒だけだ。猫背で生っ白く見えるくせに、その持ち物だけはご立派なのも腹立たしい。
指揮官として初めてみたときは畏怖を、それから子どもっぽく振舞う姿には微笑ましさすら感じたというのに、まるで別人だ。
呼び出された天幕に入ってすぐ、叩きつけられるように寝台に押し付けられてからのことは悪夢でしかない。まじまじと見たくもないモノを口で済むならと味わう羽目になったことも、結局は足らないという一言で押し倒されたことも、縛り上げられたことも、今すぐ記憶から消えればいいのに。
腹が裂けそうだと喚いたら萎えないだろうかとか、そんなことばかりを考えている。
「…っ!」
「抵抗はさ、すればするだけ相手を煽るって教わらなかった?」
確かに知っている。だがそれは拷問にあったときの心得としてだったが。
捕らえられたのが複数なら、ワザと一人だけ真実めかしたウソを吐き、残りは騒いで喚いて仲間割れを装って時間を稼ぐとか、一人だけで捕まった場合は下手な抵抗はせずに隙と状況を見て振舞えとか、習ったのは極最近な気がしているのに、そういえばもうあれから随分経った。 忍であることを選んだ以上、尊厳を踏みにじられる可能性はいくらでもあって、だからこそいつだって覚悟は決めていた。
…それを強いているのが味方からだということが酷く腹立たしいだけで。
「アンタ、最低だ」
「うん。かもね。…で、アンタ、そのサイテーなヤツにこれからたっぷり犯されて、ドロドロになるまでイっちゃっうんだけど、どう思う?」
そうだ何度も中に出された。何度目かなんて数えちゃいない。ただ不快なだけじゃないその感触に耐えるだけで精一杯だ。食いしばった歯がもたらす痛みが救いにすら感じている。俺の立場じゃ、何一つ自由にならない。望まない熱をやり過ごすことさえも。
容赦なく中の感じる場所を暴き立てられて、頭の奥がチカチカする。
それを見計らったかのように性器の先端に爪を立てられた。
「うあ…ッうう…!」
「ほら。もうイった」
笑っている。こんな行為のどこがおもしろいのか、俺には一生理解できないだろう。
強制的に味合わされた絶頂の余韻に全身が震え、倒れそうになっても、男が動きやすいように持ち上げられた腰のおかげでそれすらままならない。太腿を伝うねっとりとした液体をぬり広げ、勝手にそれに反応した皮膚が粟立った。…快感で。
「い、や、だ」
「そ?…ま、諦めてよ。俺はアンタに決めたから」
言い捨てるなり激しさを増した律動に翻弄されて、その意味を理解できるはずもなく。
溺れる人ように伸ばした手の先で男が笑っていた。
「俺には、アンタだけでいい」
毒のように甘い声で囁いて、涙を流しながら。



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適当。
春。
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