その、答えを(適当)


なんとか尻の始末はつけた。
滴り落ちるモノに顔を青くしたのも事実だが、放っておくわけにも行かなかったからだ。
伽の経験などないが、戦場にでればイヤでもその手の話は耳に入る。
腹を下すとか、やり方次第じゃ突っ込まれた所だけじゃなく、腹の中まで傷つけるらしいとか…下手するとそのままクソまみれになって死ぬとか。
下世話であけすけでしかもうんざりするような話は、ある意味怪談めいたものばかりだった。
どこか他人事のように聞いていたそれを、まさか身をもって経験するはめになるとは思わなかったのだが。
「…ちっ!」
話に聞くほど酷さはない。あらぬ所がひりつくのはいかんともしがたいが、切れてはいなかった辺り流石は業師ということだろうか。
皮肉ってみても当の本人はいまだ夢の中だ。
好き勝手やってくれたくせに、如何にも幸せですといわんばかりにうっすらと笑みを刷いた顔で熟睡している。
こっちはあらぬ所の違和感に加えて、その原因が寝床にのさばっている状態で、とても眠れそうにないというのに。
油断していたといえばそうかもしれない。
自分のアパートに帰り着いて晩飯食って、じっくり風呂に入って、それから布団に潜り込んだ。
ここは憩いの我が家なんだから文句を言われる筋合いも、邪魔をされるいわれもないはずだった。
…眠りに落ちかけた途端、奇襲されるなんて思いも寄らなかったんだよ。
任務中は緩みがちだが、ここは里だ。規律を破ることは許されない。…はずなんだけどな。
「イルカせんせ」
どこか茫洋とした瞳で名を呼んだ男は、何してらっしゃるんですかなんて暢気に尋ねた俺のことなど気にも留めずに、そのまま覆いかぶさってきた。
負傷でもしたのかと慌てたのが馬鹿らしくなるほど手早く人の服を剥き、むき出しになった肌に顔を埋めた。
口づけというより獣がかじりつくような激しさで吸い上げて全身に痕を残し、舐る仕草は愛撫というには激しすぎた。
明らかに正気じゃない。
抵抗するにも身じろぎさえ許さないほどの拘束を前に、実力差を突きつけられて歯噛みした。
いっそ刺し違える覚悟でと、相手に向けた武器まであっさり取り上げられたのだ。
代わりによこされたのはあどけない笑顔。
「イルカせんせ…」
そんなに嬉しそうな顔をする理由を、俺は知らない。
普段は飄々としていてつかみどころがない男が、そんなときばかり甘えるように名を呼んだ意味も。
腰が砕けるんじゃないかと思うほど執拗に欲望を叩きつけ、全てを奪うように男は俺を抱いた。
わかるもんか。
…わかってなんかやらない。言葉もなしに体だけ欲しがるようなこんな馬鹿なんか。
「さっさと起きろ」
寝顔に毒づいて頬に触れると、躊躇いなくすりよってきた。
痛みより疼くような熱を残した体は重だるい。
起きて、答えを聞いて、せめて一発殴って、それから。
きっと全部それからだ。
「イルカせんせ」
とんでもない事をしでかしたくせにすやすやと眠る男がいとおしげに名前を呼ぶ訳を白状させるまでは、答えなど用意してやらない。
「クソ上忍」
散々喘がされたせいで掠れた声は、思いの他甘かったとしても。


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適当。
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