そもそもが大間違いだと思う。 なにがって、この人がこんな所にいること事態が。 「イルカせんせ?」 ああもう!かわいこぶりやがって! 小首なんて傾げてこっちみても…べ、別に…別にかわいくなんて…あるんだからな! 「…どうぞ。もう少しお待ち下さい」 家に上げてはみたものの、茶を入れるにも湯が沸くにはまだ時間が掛かる。 準備にかこつけて台所に逃げ込んでも、視線が追いかけて来すぎるんだよ。 茶菓子か…でもこの人甘いもの苦手なんだよなぁ。だから一緒に飯食いにいくと、サービスで甘いもの出たら全部俺にくれる。 それがまたかわいいんだ。俺、これ食べられないから…ってちらって上目遣いにだな…! じゃなくて! 落ち着け。うみのイルカ。どんなにかわいこぶってても、こいつは雄だ。上忍だ。つまりは普通じゃないんだ。 瑕疵のないようにおもてなしってやつを無難にこなさなきゃならない。 そもそも目的がさっぱりわからんのが恐ろしいのだが。 あぁ…お茶請けはなんかあっただろうか。 どっかでばれたんだろうか。 日々魅力を振りまくこの生き物に、ちょっとずつぐらぐらし続けている俺のことが。 必死で貰い物のせんべいでもはいっていやしないかと戸棚を漁る俺に、ふいに声がかけられた。 「イルカせんせのおうちは落ち着きますねぇ」 何で側に立ってんだ!?いつのまに! 座ってろ。頼むから座っててくれ。…おちつかないんだよ!あと、人んちの戸棚覗き込むんじゃねぇ!そこにはカップラーメン買った時についてきた割り箸しか…!自分ちで食うときは自分の箸で食うから溜まるんだよなぁ…。 じゃなくて!ああああもう!こいつのせいで俺のペースは崩されっぱなしだ! 「すみません。お茶が入るまでもう少しかかるので、座って…」 「イルカせんせの匂いがする…」 何故か鼻が触れ合いそうなほど近くに、うっとりと目を細めた上忍がいる。 銀髪で器量よしで、ちょっとアホの子の顔が。 どうしてくれよう。この天然モノの無防備さときたら…! 「あ、あはは!それは失礼を。今日は演習だったものですから」 そもそも近づきすぎたんだ。この人に。ほこほこ寄って来るしかわいいからつい距離感を見誤った。 ちょっと距離を置かないと大変なことをしでかしそうな己を自覚してすぐ、この人の方から妙に近づいてくるようになった。 それまでもさりげなく側に寄ってきて袖なんかひくことはあったんだが、最近は本当にあからさまだ。 今日みたいに受付で上忍に、「今日はイルカ先生のおうちにお邪魔します」なんて許可を求めるでもなく一方的な宣言かまされたら…断れるわけないだろ! 「そーお?」 あぁ…掃き溜めに鶴ってのはこういうことなんだろうか。 つーか近い。うなじの匂いかぐな。アンタは犬か! 「ほ、ほらちょっと待っててくださいよ。湯が沸いたんで、粗茶ですが…」 とりあえず茶だ。なんかあれば多少は気が散るだろう。 なんかくっつかれてるというか、しがみつかれてる気がするが、全部を気のせいにしたかった。 「もうめろめろにしたと思ったのに、どうして逃げるの?」 「は?」 めろめろ…って、なんだ?とりあえず俺は茶をいれたい。視線から逃げたいのもあるが、茶の一杯も飲んでおちつきたいんだ。早急に。 「うーん。もういいかなぁ。我慢したもん。ちゃんと普通のデートっていうのもしたような気がするし」 「なななな、なんの話です!?」 普通のデート…デートっつーのは好きあった男女がだな…。何の話が始まったんだ?この一方的な家庭訪問の理由は何なんだ? 「いいや。もう。食べちゃいますね?だってうかうかしてたらもっていかれちゃいそうなんだもん」 三十路すぎがもんとかいうなといつものようにいえたら良かったんだが、普段とはあまりにも違いすぎる鋭い視線に言葉は封じられ…ついでに物理的に唇をふさがれることでダメ押しされた。 「…っ!ん!ぁう!ん!」 キス…か。久しぶりだ。こんなことしたのはいつぶりだ?ナルトを受け持つ前だから…じゃなくて! 何でこの人とキスをしてるんだ。俺は。 「どうしよ。手加減できないけどいいよね?」 言い訳あるかという前に再び口をふさがれ、涙目で抗う俺をいとも簡単に組み敷いた男は、結局朝になるまで俺を離してくれなかった。 ***** 「いてぇ…」 「かわいい」 「し、しごと…」 「おやすみになってますよ?」 「ええ!?」 「あとごはんたべたらもっかいね?」 「できるかー!」 かわいいかわいいと一方的に楽しんできたバチが当たったんだろうか。 下忍たちが卒業して巣立っていった寂しさを、この人で埋めようとしたから。 …なんでこの人男なのにかわいいとかおもっちまったんだろう。お陰で尻が。腰が! 「イルカ先生はこれで俺のモノになったので、うかつに浮気なんかしたら相手も滅ぼしますね?」 相手も…ってことは、俺も含まれるんだろうか。 浮気って!浮気ってなんだ!そもそも!この人俺の…なんなんだ。 「浮気って…アンタなにかんがえてんだ…!」 ジワリとケツからあふれ出る何かの感触がして、体が震えるほど気持ち悪い。それがなにか分かりすぎるだけに、恐ろしい状況に叫びだしてしまいそうだ。 あんなところにあんなものつっこんでだ、だしまくって…うわああああ! 「イルカせんせは俺のモノですよってお話をしてましたよー?ああ出てきちゃった?もったいないからまた入れますね?」 「いやだ…!」 これ以上なんかされたらおかしくなる。されてたときだっておかしくなりそうだったのに。散々鳴いて喘いで、無理だと訴えても許してくれなかった。 何度も何度も腰を押し付けて、好き放題に蹂躙した。 かわいい生き物だったはずなのに! 生い立ちが複雑だと漏れ聞いていたから、どこか成長しきっていないんだろうとか、成人男子だがなついてきてるんだからちょっとくらいならいいだろうと距離を詰めすぎた。 かわいかったんだよ。今はとてもじゃないが口が避けてもいえないが。 「やだっていわないで?だってイルカ先生が最近俺のこと捨てようとするから。…もうこれで俺のこと捨てられないでしょ?」 うなじに顔を埋めてしきりにこすり付けてくる。手なんて動かせないくらい強く握られて、まるで逃がさないとでも言うように…。 ちょっとまて。捨てる?捨てるなんて…そりゃちょっと距離を置こうと思ってお誘いを断ろうと…しても結局強引に誘われるから失敗の連続だったが。 「え、えーっと?」 「もういいから黙って?どこにも言っちゃダメですよ?皆に俺のモノだって言いふらしておくから。俺もイルカせんせのだからちゃんともっと大事にして」 それは恐ろしいんですが。命をいろんな意味で狙われそうで。 …でも、その。そうか。この人俺のなのか。 このかわいい生き物が全部まるごと。 「大事にします!」 湧き上がる歓喜に唆されて、うっかり。ついうっかりそう口にしていた。 にやりと笑ったのが見えた気がしなくはないんだが、それから飛び掛ってきた男にまたも蹂躙されるはめになったので、そこら辺の記憶は定かじゃない。 ***** 「おー無事か」 「おはようイルカ」 「…おは、よ、う」 腰が痛い。なんかこう骨でもずれてるんじゃないかと思う。 アカデミーにすらいかせたくないのか、ごねてごねてしきりにやりたがり、抱き潰すのに失敗したと毒まで吐かれた。 やっぱり態とかと怒鳴り散らす余裕すらなくやっとの思いで出勤したら…これだ。 なんかこれ…ば、ばれてたりしないよな!? 「長かったもんなあ。よくもったほうだよ。はたけ上忍」 「まあお前も満更じゃなさそうだったし、よかったじゃないか!でもくノ一のお姉さま方が着たら俺は逃げるからよろしく!」 「はたけ上忍の犬でも借りとけよー」 ばれてるじゃねーか! 「ううううう!その!だな!俺は!」 「このひと俺のものなんで、余計なちょっかいかけてるのいたらちゃーんとおしえてね?」 「「「「ははっはは!はい!」」」」 殺気に驚いたとはいえ、なんで俺まで返事してるんだ…。 しかもいきなりキスなんかするから落ち込む暇もない。 「往来で何しやがる!」 「じゃ、帰りに迎えに来ますから」 スルーだ。全力でスルーされた。でもなんかふわふわ歩いててかわいいじゃないか!くっそう!かわいいからって何しても許されるわけなんて…あるんだからな! 「ベタぼれだなぁ」 「そ、そうか?」 そういやそうだなぁ…!あんなに嬉しそうで…! 恥ずかしさのあまり鼻傷を掻いてみたりしたんだが。 「お前もだろ?」 「え?」 振り返るとそこには、全力で頷く同僚たちが…。 …ああ、うん。そうか。気づかなかったけど、そうか…。 「まあがんばれよ!」 「お願いされたから助けは呼びに行ってやるよ!そのあと俺は逃げるけど!」 「ふぁいとだイルカ!」 助けになってるんだかなってないんだかわからない声援を受けながら、自分の机に懐いておいた。 えーっとその。…気づかないうちにほれていて、ついでにむこうも実力行使に出るくらい惚れてくれてるんだからその…両思いってやつだな。これは。 じわじわと嬉しいのとはずかしいので取り乱し始めた俺に、同僚たちはあっさり止めをさしてくれた。 「「「バカップルが片付いてくれて助かった」」」 ********************************************************************************* 適当。 ご意見ご感想お気軽にどうぞー |