告白と、罠(適当)


「馬鹿ですか」
 分かりにくく言っても通じないだろうし、ヤらせろなんていったら即刻殴られて終わりだろうなぁって思って、だから正直に且つ誤解しようもないように、あなたが欲しいんですって言ってみたんだけどね。
 本気で意味が分からないって顔でされちゃうとねぇ。困る。だからってあきらめるつもりなんてないんだけど。
 ま、この人は頭で理解する前に体を動かす人だからしょうがないか。常識もガッチガチで古臭いとも思えるような価値観で生きてる人だ。育ての親が三代目なんだから、もうちょっとゆるくてもいいようなもんなのに、馬鹿正直でクソ真面目だもんね。
 縁側で月を眺めて酒を舐めながら、「嫁さんができたらこうやって、たまには一緒にゆっくりきれいなもの眺めて過ごしたいんですよ」とか真顔で言っちゃうような意外とロマンチストなところもあるくせに、俺がそれに反応してちょっと下半身が元気になったら、「おっ?カカシさん勃ってますよ?それじゃ歩けないでしょうが。抜いた方がいいですよ?ティッシュいります?」とかいっちゃうような即物的っていうか…ちょっと考えなしなところもある。流石に露骨に手を上下に動かされたときは、間に合ってますとかいっちゃったけどね…。
 状況的に自分がターゲットだってなんでわかんないの?食われたいの?って思うじゃない。そんなことされたら。
 多分どころか絶対分かっちゃいなくて、遠慮せずにとかいって、トイレに押し込まれたからな…。あの場で襲わなかった俺を誰かほめて欲しいくらいだ。しかも出てきたら出てきたで、シャワー使いますなんて朗らかに…小悪魔め…。
 でも、そういうところも好き。あの人に育てられたおかげうちの部下である意外性ナンバーワン忍者も、まずは行動先にありきだからそれはそれで困るんだけど。
 嘘偽りのない素の姿で接してくれるヤツはそういない。ここが忍の里だからってだけじゃなくて、俺があらゆる意味で特別な立場にあるから。
 あの人は、そういうの全然気にしないみたいね。上忍師なんだからしっかりしろって言われることはあるけど、喧嘩だって褒めてくれるときだっていつだって全力だ。
 欲しいんだけどなぁ。フラれたって諦めることは考えてないんだけど、逆にね。
 六代目に就任しろという命が下ったのはついさっき。
 …このまま権力を手に入れた自分が何をするかなんて、考えなくても分かる。欲しいものを前にして、俺はもう躊躇わない。事が起こってからどんなに手を伸ばしても、届かないんだって何度も何度も思い知らされてきた。血反吐を吐こうが泣き叫ぼうが、失ったものが戻ることはない。
 既に見合いだなんだと騒がれ始めている。余計なちょっかいをかけられる前に、火影の名を以ってこの人を手に入れることができるなら、迷う理由なんてどこにもない。
 でも、嫌われたくない。だってこの人は歴代火影に最も愛された人だけど、権力が実のところ嫌いだ。一方的に押さえつけられたら死ぬまで噛み付くような、絶対に曲がらない、曲がるくらいなら折れてその命を散らすことを選ぶ人だ。
 今なら、まだ間に合う。公表されるまでにあと少しだけ時間がある。この人の耳に入る前にどうしても手に入れておきたかった。
「馬鹿でもなんでもいいんだけど、返事はいただけますか?」
 これが断られたらどうしようか。泣き喚いて縋るか、それともねだってみせるか、いっそただの友人のフリをして油断させておいて、就任してから閉じ込めようか。
 ただれた手段しか思いつかない煤けた半生だったけど、この人がいてくれればこれから先も続く灰色の道を歩いていける。だから、ねぇ。返事を頂戴?
 逃がしたくなかったからかもしれない。その手を両手で握り締めてしまったのは。
「っ!くそ!冗談とか罰ゲームとかじゃないんですか!」
「違いますねぇ。俺相手にそんな怖いことするの、いないんじゃない?」
 ガイが仕掛けてくるペナルティくらいのもんでしょ。罰ゲームなんて。それに色恋沙汰に俺を巻き込むと大変なことになるってのは、上忍連中にとっては常識だ。
 俺は何もしてないんだけど、俺が好きな相手が誰かってのに感づかれて邪魔されることはあるんだよねぇ。そんなことされたら場合によっちゃ抹殺一択でしょ?流石に貴重な戦力を殺しはしないけど、洗脳スレスレの術なら掛けちゃったことあるし。
 戸惑ってるのもわかる。でもこの人に対する我慢って、もうとっくに限界超えてるのよね。今すぐにでも食っちゃいたいと思い続けて、早5年くらいは経ってるだろうか。むしろここまで良く耐えたと思う。
 ぶつぶつ上忍様め…!とか文句を言ってるところをみると、信じてもらえてはいないらしい。ならしょうがない、よね?
「イルカせんせ」
「へ?んぐ!んー!」
 キスが甘いなんて愛読書にあるけど、読み物としてだと思ってた。でも、ホントに甘い。甘いって言うかくらくらする。あーもういいかなぁ。我慢しないでも。公園に呼び出したのは勢いあまってもこの気温で寒空の下ならしようと思ってもし辛いから自重できると思ったんだけど、無理そう。そこの茂みの中でもいいし、結界張っちゃえば見えないし、まずは抵抗を封じるために手首を縛ろうかとか、ろくでもないことばかり思いついてしまう。
「好き」
 熱に浮かされたようにこぼれた言葉に、さっきまでうっとりしてたのに目を真ん丸くされた。えーっと?なにそれ。その反応おかしくない?
「す、好きならとっとといいやがれこん畜生!だからあんたは分かりにくいんです!ああくそ!黙って俺について来い!」
「えーっと。はい」
 前半は混乱してるんだろうなーっていうのはわかった。分かりにくいって言うのは、あなたが鈍いせいですよって言ってあげたいけど、後半が。
 なんかすごく男前な台詞だけど、これって、ね。
「ふにゃふにゃしない!え、ええと。とりあえず俺の家で!」
「はーい」
 わーこれお誘い?ま、多分告白の中身について色々聞きたいだけなんだろうけど、お断りじゃないってのは明白だ。
 ついてこいって言うならついていくしかないよね?狼を家に入れたんだから食べられちゃってもしょうがないでしょ?
「ほ、ほら。行きますよ!」
「ん。イルカせんせの手、あったかい」
 つながった手があったかくて、胸が苦しくなる。あーもう。どうこうしたいけど、ずっとこうしていたくもなる。時間がないから、少しでも脈があるってわかっちゃった以上、もう待ってあげられないけど。
「…っれも!好きだ」
「ん。俺も好きです」
 風に流れて掠れて聞こえた告白は、間違いなく茹蛸みたいに真っ赤になった人から聞こえてきた。
 よかった。監禁とか洗脳とかしないで済んで。
 思わず顔を綻ばせたら、かわいいんだよこんちくしょうって呟く声が聞こえて、幸せだと、そう思った。


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適当。

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