「あっついねぇ?」 「…そうですね」 真夏日。まさしく今日はそんな日だ。 日差しは強く、地面に陽炎がゆらめいている。昨日雨が降ったせいか、湿気のおかげで全身がべたべたしているような気さえして、許されるのであれば忍服を脱ぎ捨てたくなるほどだ。 まあそれが夏ってもんだからいいとして。 問題は、見知らぬ男と並んで川原に座り込んでいるこの状況だ。 血臭を漂わせた男は、一般人なら目を背けたくなるだろう。 髪の色はどうやら銀に近いようなのに、赤茶けた汚れで元の色すら良くわからないほどにどろどろになっている。 そんな格好で里人の目に触れる所に倒れていたら、いくら忍の里でも大騒ぎになる。 そもそも俺がここにいるのも血まみれで転がっているこの人を見つけたからだが、手当てをしようと近づいたらむっくり起き上がって、挙句「散歩ですか?」などと言われる羽目になるとは思わなかった。 この状態でどうしてこんなにのんびりしてられるんだろうな。 「あの、手当て、本当にいいんですか?」 起き上がった男に制止されたせいで、本当に何もしていない。 この血が全部男のものであったら、こんな風に会話することなど到底できるわけもないから、殆どが返り血なんだろういう検討はついたが、それでも心配なものは心配だ。 …怪我以上に頭の中身の方がより一層、なんだけどな。 「臭い?」 「いえそういう問題じゃなくてですね!?」 どうしてそうなるんだか。 まあ確かに臭いは臭い。身近で、そして危機感を煽る臭いだ。 だが今問題なのはそんなことじゃなくて、この人がこんな状態で平気そうな顔をしていることの方だろうに。 「だってこれ、返り血だし」 「それでもです!感染やら毒やらくっついてたらどうすんですか!それにそんなに汚れてたら気持ち悪いでしょうに」 思わず呆れたことを隠し切れずにいたら、不思議そうに返された。 「今更、でしょ?」 これでやさぐれた目でもしてくれれば、傷つき、疲れた忍として慰めようもあるが、この人は本当にその意味がわからないらしい。 いや、わからないはずはないんだ。少なくともこんな酷い状態でここにいれば何がしかの騒ぎの元にもなるし、それこそ毒だのなんだのの危険性も理解しているはずなんだから。 つまりはそれすらもわからないほど、この人は壊れかけているのかもしれない。 本当の所はわからない。 要はただ俺が放っておけないだけのことだ。 「アンタ暇ですね?こんなとこで転がってるくらいだし。だったらうち来てゆっくり風呂入りなさい」 男に動く様子がみえなかったから俺もついつい長居してしまったが、このままじゃ事態は変わりそうもない。 だったらとっとと心配事の種をなんとかすべきだ。 「えー?なんで?」 「なんでもいいから。とっとと立つ!別にとって食いやしません」 おせっかいだと承知の上だ。 ぶーぶー文句を言う元気があるなら大丈夫そうだが、風呂を貸すくらいのことでどうかなったりはしないだろう。 「んー?そうね。アンタ中忍でしょ?」 「そうですがなにか?」 「…ま、いいや。じゃ、宜しくね?」 打って変わってご機嫌な顔でほこほこついてくる男の真意は諮りかねたが、放っておいて汚れたままころがっていることを当たり前などと嘯かれるよりずっといい。 「背中ぐらいなら流してもいいですけど、横着して適当に洗ったらダメですからね!」 汚れが落ちれば多少はましだろう。気分がささくれている時は風呂入ってあとはそうだな。飯もたっぷり食わせてやろう。 清潔な身体と寝床と飯があれば、大抵のことはなんとかなる。…はずだ。 「はーい」 よいこの返事に胡散臭さを感じながら、残り物でどうにか飯を作る算段をしていた俺はしらなかった。 …男の行動全てが計画的なものであることを。 ********************************************************************************* 適当。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |