こいとこい(適当)



三代目から聞かされるまで、本当のことを言うなら気づいていなかった。
それくらい日常に溶け込んでいたのだ。あの人は。
「アヤツも心配性だのう?ま、おぬしの危なっかしいのを見ればそうもなるか?」
「へ?」
間抜け面をさらしていることよりも、三代目がえらく楽しそうにしていることの方が気に掛かった。
「会うたびにどこぞで子どもにまとわりつかれてこけただの、ラーメンを勢い良く食いすぎて吹いてただの聞かされるのもなぁ?」
「え、えーっと!?なんで俺の恥ずかしい行動全部筒抜けになってるんですか…!」
確かに俺に護衛をつけたいと打診は受けていた。あの子を引き受けてから熱心で馬鹿な連中に襲われる日々を過ごしていたから。
とはいえ怪我をすることも殆どなかった。正直言って頭に血が上った馬鹿の相手なんちょろい。俺だって中忍だし、一般人相手にやられることはありえないし、上忍以上がわらわら襲ってくるってこともなかった。
上忍以上になれば自分の立場ってもんがわかってくるからなのかもしれない。
一番厄介なのは中忍のくノ一が上忍を唆して襲ってきたことくらいか。
勿論返り討ちにしてやったけどな。
女性は…正直やりにくい。その、色仕掛けとかは本当に。
まああからさますぎるし、俺を狙ってるのがバレバレだからひっかかったことはないんだが、鼻血を吹くのが…。いや、鍛えればいいんだろうけど!できねぇよ!
で、だからってどうして監視がついてるんだ。しかもそんなどうでもいいことまで詳細に。
「依頼したわけではない。お主、この間大怪我しおったじゃろ」
「へ?そうでしたっけ…?怪我…?」
ちょっとした怪我ならしょっちゅうだし、入院したのも…3ヶ月くらい前に一回だけだと思うんだが。それのことかな。
「そんなじゃからアヤツが心配するんじゃ…。まあよい。礼なら伝えておいた。なんなら直接いってやるがよい」
「は、はい!」
そうか。礼ってことは…この間拾ってくれた人か!なるほど!俺がやられっぱなしだったから心配して…!
なんて情けない理由なんだ…。
「まあ害はない。放っておけ。無体な真似を強いるようなら水でもぶっ掛けてやれ」
「えーっと。その、はい」
なんて言い草だと思いはしたが、どうやら三代目にとっても大切な人らしい。笑顔がすごく優しいもんな。
会ってみたい。そう思った。
そして部屋から一歩でてすぐに、その存在に気づいた。
なんでかっていうとだな。その、こけた。動揺のあまり、扉を閉じる前にすっころんだのだ。
その瞬間、何かが動いた。
いる。なんかいる。窓の外から暗部がこっちみてやがる。
あれか!
新鮮な驚きとともに、ちょっとだけほほえましくなった。
なんであんなに熱心に見てるんだろう。ありの巣をみつけた子どもみたいに。
「うーん。まあ。今度お礼を言おう」
気配は完璧に消している。樹上に潜むのも完璧で、注意深く探さなかったら気づかなかっただろう。
あんなに一生懸命に隠れてるんだから、それを暴くのもかわいそうになってしまったんだよなぁ。
それ以来、俺は視界の端にあの人を探すようになった。
一度気づけば驚くほどあの人は熱心に俺を観察していた。
たまにみつけられないこともあったが、怪我したりすればあっという間に沸いて出る。
とにかくすごく心配性だということは分かった。
毎日毎日雨が降ろうが、多分自分も怪我してるときだってあったはずだ。
よろよろしてるのに俺ん家の窓の外から熱心に俺をみている。
なんつーか。けなげだ。
ただよく怪我をする俺が心配なだけなんだろうか。この行為は。
お礼を言いたい。だがおそらくは己の立場を慮って派手な行動をとらない人の努力を無にするのも気がひけた。
それにただ面白半分だったら?俺に気づかれたと知ったらやめてしまうかもしれない。
まあ面白半分というよりは、どこか必死さを感じるその行動からして、もっと別の何かがあるんだと思うんだけどな。
玉にアカデミーで俺の机にそっと触っていなくなったりするし。なんなんだろな。あれ。
そうして行動を起こすに起こせず悶々とした日々を過ごしていたある日、あの人の方から行動を起こした。
派手に背中をやられたあの日。真夜中といっていい時間にあの人が俺の側に立っていた。
面の奥の瞳が俺を射抜く。
自分でなにをやってるかもわかっていないんだろう。ゆらゆらと揺れているのにどこか必死すぎるほどだ。
やり取りもかみ合わないことこの上ない。
心配しすぎてパニックを起こしたらしいってのと、この人が俺を付回しているのは心配なだけじゃないってことだけは確信した。
そうしたらもう、後の答えは決まってる。
「もうにがさねぇ」
小声の決意表明に、多分この人は気づかなかった。
*****
「つかまえられたなぁ。やっと」
「どうしたの?イルカせんせ?」
ケツは痛い。というかこんな事をする予定はなかったというか、具体的にどうこうすることなんて想像すらしていなかったが、まあなるようになった。
幸せだ。ならそれでいいんじゃないかとおもえた。
ちゃんとちったぁ手加減しろと殴っておいたし、触りたそうに遠くから眺めているのを、俺だって触りたかったんだからこれでいい。
「アンタがかわいいって話です」
「え!」
驚いて固まって真っ赤に染まる肌は扇情的で、どこの乙女かと思うほどだが…やってる最中はきっちり男というか…雄だった。
必死さと一所懸命さをそっちにまで活かさなくてもいいだろうに。不思議すぎる。そこもかわいいと思う当たりもう末期だな。
「寝ましょう」
「は、い」
アレだけのことをしておいてまだ遠慮するってのがこの人らしいのかもしれない。
後始末と称して指突っ込んできた上に、弄ってる間に勝手に盛ってたくせに。まあ俺まで盛り上がって流されたから同罪なんだが。
「好きです」
「…おれ、も」
こうしていつもためらうのも、しあわせになっていいのかなんて呟くのも、いつか絶対に止めさせてやる。
そう決意して、瞳をうるませている男を抱きしめてやった。


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適当。
昨日の続き的な。
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