こい(適当)



息をするのも辛い。
こんな風になったのが初めてだから、どうしていいかわからない。
ゆっくりと瞳が開いて一瞬ぎょっとした顔をして、それからちょっと呆れたみたいに笑った。
「え、えーっとですね?」
手が、こんなときでも優しい。
頭を撫でられたのなんて、先生が生きていた頃ぶりだ。
これが夢じゃないなんて信じられない。
そっと握り締めると暖かくて、確かに生きているんだとやっと実感できた。
おかげでじわじわと湧き上がってくるのは安堵と、それを凌駕する罪悪感。
「あの、すみませんでした」
下らないことで迷惑をかけてしまった。
大怪我をしたと聞いた。
いてもたってもいられなくて駆けつけて、眠り込んでいるのを見てももしかしたらこのまま息をしなくなるんじゃないかと思うと気が狂いそうで思わずその手に触れて…そうしたら目を覚ましてくれたこの人が、俺を見た。
多分、初めて俺という存在を。
この人はきっと俺のことを何も知らない。
任務中に一度見かけただけの、それも面つきで一時すれ違っただけの人間のことなんて、おぼえてなくて当然だ。
仲間を庇っていた。あの時も。
傷だらけで決して仲間に一撃も与えまいと戦う姿は衝撃の一言で、救援に駆けつけて敵を蹴散らした後も、仲間のことばかり心配していた。
血まみれで、俺のほうが脚が早いだろうから運んでくれとか、馬鹿なことを言ったんだ。
自分だって足をやられていて、失血で意識だって怪しかっただろうに。
致命傷を避ける腕も良かったから生き残っていただけで、一歩間違えれば死んでたっておかしくない。
それなのに酷く満足そうに笑っていた。
コレで助かるぞって…アンタ自分はどうすんのよ。
それが切っ掛け。
失血でぼけた頭で、置いていけと喚くのを黙らせて、二人かついで里に帰った。
それから火影に報告しにいくと、世間話のように庇っていたのが、知り合いでもなんでもなく、たまたまその任務で一緒になっただけだと知った。
なんてお人よし。いつか勝手に死ぬかもしれない。
そんなことは良くあることだった。
いいやつほど早く死ぬなんて、ある意味当たり前だけど。
…それからつい、視界にこの人を探すようになった。
暢気であけっぴろげに笑うのを見るのは悪くなかった。ちょっと抜けてる所も、潔いまでの戦い方も気に入って、それでどうしても止められなくなった頃、気がついてしまった。
恋わずらいでもしているのかと聞いてきた部下には感謝すべきだろうか。
気づいた所で何も変わらない。
…手に入れたってどうせ失う。だったらコレくらいの距離がちょうどいい。
俺だっていつ死ぬかわかんないし。
そうやって遠くから見ているだけでよかったのに、消えてしまうかもしれないと思ったら自分が立っているのか歩いているのかもわからなくなった。
家の場所は任務帰りに寝顔を見るのが好きだったから知っていて、でもその窓を開けたのは初めてだった。
「なにがですか。心配してくれたんでしょう?」
「え!」
「あれ?違いました?任務…じゃないですね。アンタまた任務帰りでしょう」
「あ、の…?」
なんで、どうして。
この人がいくら受付にもいるからって、まさか暗部の任務を全部知ってるわけじゃないだろう。
「…アンタ、これだけずーっと観察されてりゃそりゃ気づきますって」
呆れ顔で言われると、そういえばこの人も忍だった。
気配は消してたけど、姿を完全に隠すような幻術は使ってない。
「ご、ごめんなさい」
さぞ恐ろしかっただろう。暗部に張り付かれてるなんて。
落ち込むなんてもんじゃない。…それでもこの人を失ったかもしれないと知った時の痛みに比べればどうでもいい程度のものだったけれど。
「あー…なんか、こちらこそ。あやまらんでくださいよ…」
「…はい」
この人の手は、優しい。あの時もそうやって庇った仲間の手を握っていた。
いいなぁ。やっぱり。…欲しい。
でも、だめ。だってこの人は幸せになるひとだもの。
やわらかくて暖かい誰かと。
…それを思うと胸が張り裂けそうに痛む。でも、失うよりはずっといい。
大体俺なんかを好きにはならないでしょ。この人はまっとうな人だから。
優しくて本当の意味で強いのはこういう人だ。
「おっちょこちょいですからね。アンタ。心配です」
「え!」
心外だ。どっちかっていうと確実にこの人の方がうっかりもののはずだ。
三代目のエロ本に顔真っ赤にしてたりするし。それもまたかわいくて…。
「俺がちょっとでも怪我とかすると心配しすぎてるのか、他の人間にも気づかれかかってましたよ?まあ誤魔化せましたが」
気配がなくたって黒尽くめの面つきがうろついてたら目立つんです。逆に怪談になりかけてます。
そうキッパリ言い切られて更に落ち込んだ。
なにやってんの俺…。
「ごめんなさい…」
「だーかーらー!あやまんじゃねぇ!心配、してくれたんでしょうが」
「はい」
そうだ。怪我は大丈夫なんだろうか。
不安で、でも触れるのは恐い。
視線で怪我を探しているのに気づかれたのか、男らしくがばっと着ていた服を脱ぎ捨てた。
「ほら!まあでかいですが内臓までいってません。背骨も無事です」
「よかった…!」
さらされた背には盛大に包帯がまきついている。思わず傷をたどると、一瞬からだが引きつった。
…その瞬間、頭が沸騰したみたいに興奮して、その事実に狼狽した。
「ほら、納得しましたか?」
「しま、した」
ついでに欲情もしましたとは言えない。
言って怯えるような人じゃないだろうけど、これ以上呆れられるのは辛い。
「…あー…もうほら、遅いですし。アンタも寝なさい」
それなのにこんな事を言うなんて。
「え?え?」
「あ、風呂入ります?」
「風呂!?」
「あ?まさかアンタも怪我してねぇだろうな!?知ってんだぞ!たまによろよろしながら俺んち覗き込んでるだろ!」
そんなことまでばれているなんて…!なにやってんの俺!
落ち込みに拍車が掛かったが、服をめくりあげられると流石に冷静になった。
「あ、いい筋肉してますね。怪我は…ねぇな」
「ないです。ええないです」
これ以上触られたら止められない。下半身の状態にも気づかれていないといいんだけど。
そういう願いは聞き届けられないと相場がきまってるんだけどね…。
「…疲れてるんですね…」
視線が下に下がった同時に、哀れみたっぷりにそう言われた。
疲れてるんじゃなくてアンタが無防備すぎるんだ!
「そう、ですね。お邪魔しました。お大事に」
逃げるように窓枠に足をかけたが、それ以上先に進めなくなった。
「いいからほら。こっちきなさい」
「い、いやです!ほら、ベッド狭いでしょ?」
「うるせぇ!アンタ自分から寄ってきたんだからもう逃がしませんよ!」
えーっと。どうしたらいいの。この状況。
布団はあったかくてこの人もあったかくて、それから隣で笑ってる。
面がじゃまだ。キスもできない。
放り投げたのに咎めるような視線はあったが、抱きしめたら笑いながら抱きしめ返してくれた。
「アンタ、惚れてるのが自分だけだと思ったら大間違いだ」
そう男前に囁いて。


********************************************************************************
適当。
ちゃんと怪我がなおるまで我慢して襲いましたが、え!俺が下!?とか言いつつ中忍は男前に受け入れてくれたそうです。
ご意見ご感想お気軽にどうぞ。

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!