しんちくにわつきいっけんや2(適当)


 上忍は料理まで上手いんだろうか?いや、この人が器用なだけか。
 これでも最低限の飯くらいは作れるつもりだったけど、それは精々飯と焼いた肉とか魚とかインスタントラーメンとか大根を適当に切って味噌汁にする程度のもんだ。この人みたいにいろんな料理はとてもじゃないが作れない。
 後から後から皿が運ばれてきて、俺にできたのは手伝うというよりただそれを並べることくらいだ。テーブルの上を埋め尽くすようなたくさんのみたことのない料理に圧倒される。それもどれも美味そうだ。
 普段飯を一緒に食いにいくと和風でシンプルなものを頼んでいたから、てっきりそういうの好きなんだろうと思い込んでいた。
「あのー?大丈夫?」
「へ?いえ!そのこんなにたくさん!あの!美味そうですね!」
「たくさん食べてね?」
 自他ともに認める食いしん坊である俺にとって、その言葉は非常に魅力的かつ危険だ。大戦後は命の危険がないとはいえ復興のために休む間もなく働いて、食い物も適当に用立てて口に放り込めればいいような生活を送っている。いやラーメンは食ってるけどな?
 それになにより、誰かが俺のために作ってくれた飯ってのが、自分でも驚くほど胸に染みた。
「ありがとうございます」
「…ん。こちらこそ?」
 こういう時に爽やかな笑顔でかわせちまうのが凄い。俺なんか泣きそうになってばっかりだってのに。
「カカシさんも!ちゃんと食ってくださいよ!」
「うん。そーね?」
 くっそう!綺麗な顔して笑いやがって!俺なんか飯も怪しいが洗濯も適当だし、掃除は汚しちまうと後が面倒だからそれなりにやってたが、家なしの今となってはそもそもモノがないから片付けようもない。
 一緒に住むったって何ができるだろう?
 不安ついでに前向きに検討している自分に気づいてしまって、そこにも焦った。ああくそ。こんなときでも飯は美味い。…というより、この人の腕がいいんだな。このよくわからない魚に野菜が乗っかったあったかい料理は何なんだろう?酒に合いそうだ。飯も進む。あとこっちのうっすく切った魚に色々乗ってるやつも美味い。いやうまくないもんがないだけなのか?
「お味はどーお?」
「うあいれふ!」
 とっさに口の中にモノが入っている状態で答えてしまうほど、この人の料理は絶品だ。魚の料理が多いから、魚好きなんだな。多分だけど。もっぱらラーメンの俺と違って、野菜もちゃんと食ってるんだろう。野菜の洋風な煮物みたいなやつも美味い。ナルトには適当に切ってゆでて鰹節振っただけみたいなモノしか食わせてこなかったから、あいつが野菜嫌いなのは俺の責任かもしれない。少しばかり落ち込んだ。
「イルカ先生くちにご飯粒ついてる」
「んお?んぐ!ああ、がっついちまってすいません!」
 舌で取る前にさりげなく指でつままれた飯粒が、普段は隠された口元に消えていく。まるでガキだ。何やってんだ俺は。
 それだけならまだしも、この人にされると顔がいいからかどこか落ち着かない。子供扱いされて腹が立たないのはそれどころじゃないせいだろうか。
「ねぇ。どう?合格?」
「へ?何がですか?」
「この家は大丈夫なんだよね?料理は?」
「美味かったです!」
「じゃあ、どう?ダメ?俺と住むのって嫌?」
「へ?いえ、嫌というわけではないですが…」
 なんだか空気が不穏だ。相手はご機嫌な様子で微笑んでいるように見えるのに、空気が違う。なんだろう。この緊張感は。そもそもこれだけ環境が整ってるなら、俺が居たって邪魔なだけのような気がするんだが?
「…それなら、考えて欲しいんだけど、ダメ?」
「あの、ですから駄目って訳じゃなくてですね?俺はその、家事の類はからっきしなんですよ?飯もこんなすごいのは作れませんし!」
「うん。俺が作るからそれはいいんじゃない?」
 俺が作るってことは毎日この飯が…いやいやいや違うだろ。一瞬舞い上がりかけたが、そうじゃねぇ。
 飯食わせてもらって住まわせてもらってって、俺はそんなことまでしてもらわなきゃならないほどガキじゃない。ナルトと同じくらいチビの頃から一人で暮らしてきたんだし、一通りのことはできる。それがこの人ほどじゃないってだけで。
 誰かに頼らなきゃならない生き方なんて、多分俺にはできないだろう。
「あのですね。俺と住んだってなにもできない厄介者にしかならないんじゃないかと…」
「なんで?そんなことないでしょ?」
「いや、ありますよ!アカデミーが始まっちまえば残業も多いですし!料理はともかくとして掃除洗濯くらいは俺がやれないと!」
「それなら俺も多分忙しくなるから一緒です」
「そ、れはその」
「掃除も一緒にやればいいじゃない?洗濯はほら、実はさっきの洗濯機、忍専用に開発したヤツで、血液専用モードもあるんですよ?乾燥まで一発です」
 なんだその便利商品は。めちゃくちゃ欲しいぞ?
 でもなぁ。この人あんまりモノを増やさない人みたいだし、俺がここに来たら部屋中荷物でいっぱいにしかねない。まあほとんどすっ飛んじまったけど、細々とアカデミー向けの資料とかは作り始めてるし、他にも掘り出せた武器なんかもそれなりの量がある。幸い新しい家に移る仲間が増えたおかげで、一人で天幕を使えるようになったからなんとかなってはいるんだが、この状況で俺は必要ないんじゃないだろうか。
「あのーでもですね…」
「…一緒に住んでもらいたくて頑張って選んだんですけど…やっぱりいや?」
 妙に子供っぽい口調でしょんぼりされると弱い。 絶対分かってやってるよな!?多分!いやでもどっちにしろ無視なんかできないんだけどな!?
「住むのは、その、ご迷惑でなければですが。でも本当にいいんですか?これから里長になろうって人がわざわざ…」
「あ、知ってたの?じゃ、意味わかってる?」
 なんだその妙に真剣な瞳は?意味って…意味って、なんだ?それを知りたいのは俺の方なんじゃないのか?それとも別に何かあったのか?
「ええとですね。なんのですか?」
「そ?ま、それは追々。じゃ、住んでもらえるって決まったなら、まずはお風呂の入り心地でも試してみませんか?」
 ごく自然に手を取られて、いつの間にやら湯を張られていた風呂場に案内された。広々として多分こんな湯船につかったら最高に気持ちイイだろう。風呂というより行水ばかりで、最近その辺の川で済ませていた体は垢じみてきてるんじゃないかと不安だったのもあって、つい。
「入ります!」
 いろいろうかつだったと思うんだが、笑顔の上忍の誘いにうっかり頷いていた。

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適当。
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ふわっと新婚生活を狙ってみる上忍。次辺りで終わらせたいのと更新頻度もがんばれたらがんばります。週休1日生活そろそろ限界。

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