おにのぱんつはいいぱんつ(適当)



「嫌です」
断るに決まってる。そんな恥ずかしいことできるわけがない。
いくら熱心に掻き口説かれても…いや、そもそもこの人の口説き文句は信用できないんだ。
それまで縁側で茶を飲みながらのんびり過ごすような、年寄りの茶飲み友達並に健全な付き合いをしていたというのに、ある日突然詰め寄られた。
どれだけ衝撃を受けたことか。
そもそもそれまで素顔だって見た事がなかったんだ。
うちの縁側で近所の猫を構いながら茶を飲んでいたら、ふらりと立ち寄った顔見知りの上忍…つまりは殆ど他人のこの人が、一杯の茶をねだったのがそもそもの始まり。
そこからは勝手にいついたというか、ふらりとやってきて茶を飲んでいくのが日常と化し、あまりに頻繁なのでここには茶しかないですよと言ってみれば、手土産にせんべいだの饅頭だのを置いていくようになった。
催促したみたいで居心地が悪くて、こちらも何かしら用意するようになって、腹が減ったとしょぼくれた顔で訴えてくるから飯なんかも材料を持ち寄って一緒に食うようになって、明らかに任務帰りだと分かる格好で疲れたといわれたら風呂にも入れてやるし、そのうち家に帰ればどちらかがいて、何とはなしに一緒に過ごすのが当たり前になってしまった。
…まだ三十路にもなっていなかったが、随分と枯れた付き合いの友人ができたなぁと思いつつ、のんびりと過ごす時間に癒されていた。
それがずっと続くと良いなぁと。望んではいけないことを望むくらいに。
贅沢な願いだと知りつつ、気付けば、かの上忍の来訪を心待ちにし、やってくれば共に過ごすことに喜びと安堵を覚え、いなかったころのことなど考えられなくなりつつあった。
相手は上忍。それも凄腕中の凄腕だ。
そんな人を俺の家なんかに留まらせるなんて無理であることは承知の上。
忍の身で長生きなど望むべくもなく、平穏であることはすなわち非日常であるからこそ大事にすべきもので、だからこそ何かの気まぐれにせよ、こうして共に過ごす相手ができたことをよろこんでいたのに。
好きだ好きだと言い出して、なにもしないからといいながら押し倒してきたのはいつだったか。
確か、今頃だったはずだ。
寒さが厳しいから縁側じゃなくて居間のコタツでみかんでも食おうと八百屋で一山買いこんで、外を眺めたがる上忍をどうやってなだめようかと算段していたあの日。
コタツに入ってこっちの方が暖かいからおいでなさいと声を掛けた途端、おもむろにサッシを締めた男が、凄まじい速さで詰め寄ってきて、苦しそうに叫ぶように好きだと言い出したんだったな。
訳がわからなすぎてこっちも手を打つのが遅れ、何もしないといいながらすっかり服を脱がせ終わった男がなにをしたかなんてのは…まあ愚問だな。
脱がされて、それから脱ぎ捨てるの見て、そこからあっという間に情事に縺れ込んだというか、もつれ込まされていたというのが正しいか。
女のように足を広げて突っ込まれているというだけでも衝撃だったが、そんな行為を受け入れて快感すら感じていることの方が恐ろしかった。
混乱と心身のダメージが大きすぎて意識を手放し、結局突然の暴挙の理由をようやっと聞き出せたのは翌日の真夜中で、失いたくないからこれ以上近づくのをやめようと思ったのに、誰かがその代わりになるのかと思ったら耐えられなくなったと言うから呆れるしかない。
本人なりには深い悩みだったんだろうが、俺にとっては一人よがりにもほどがある理由だ。
おかげで腰は立たないし、あらぬ所は何かが挟まったままのような違和感を残しているしで、身を起こすのも手を借りなければならない始末。
…それでも、これで関係を終わらせたくないということだけははっきりと分かっていたから、元気になったらぶん殴らせろと約束して、それを実行してからもずっと側にいる。
すっかりほだされた今となっては笑い話にもならないんだが、どうにも割り切れないものは未だに胸の中に蟠っているのも確かだが。
「ちょっとだけ!見たいだけです!」
この状況で、そんな男がいう言葉なんて、嘘に決まってる。
興奮も露に呼吸も乱しながら前かがみでそんなことを言われて、はいそうですかという馬鹿がどこにいるというんだ。
「鬼のパンツというか、節分の衣装は確かに自前ですけどね、嫌なもんは嫌です」
穿いてみせるくらいなら構わない。…だがそれは、それ以降の行為を伴わないと言う条件付きでのことだ。
あからさまにそっちが目的だとしか思えない行動をとられて、ほいほい言うことを聞く馬鹿はそういないだろう。
「…節分ですよ?豆まき!豆まきしなきゃ!」
用意のいいことだ。マスに大豆がみっしりつまっている。
本気の上忍から豆を投げつけられるのも嫌だが、あまりの必死さにほだされそうな自分も嫌だ。
「豆まきはしましょう。ただし平等にです。俺が鬼になったらアンタも鬼になるんです」
ふんっと見せ付けるように腰に手を当てて宣言してやった。
さぞや必死の抵抗を見せるだろうと思ったのに、いきなり泣き出されるとは思わなかった。
「な、んで…!?どうしたんですか!」
慌てて頬をなでてやると、ふわりと肩に寄りかかってきた。
なんだ。何が理由だ?この人は常人とはかけ離れた発想をする人だから、俺なんかじゃ予想もつかない何かがあったんだと思うんだが。
「あのね。一緒に鬼でいてくれるんですよね?」
「へ?ええ。まあ」
本当は交互にやれば言いと主張するつもりだったんだが、あまりに必死なのでその辺はぼかした。本人がやりたいって言うなら一緒に鬼でも構わないし。
「俺が、鬼って言われても、イルカ先生はきっと側にいてくれる」
「は?いやそりゃ当たり前でしょうが」
何をわけのわからないことを言い出したのかと、心配になってみてみれば泣きながら身を摺り寄せてくる。
「あのね。ホントはアカデミー生にみせて、俺だけ見れないなんて酷いと思ったからなんだけど、イルカせんせが俺といっしょにいてくれるんならなんでもいいやって」
「そう、ですか」
つまりあれか。泣いてる理由ってのは、嫉妬か?
「好き。大好き。ずーっと好き」
しがみついてついでに不埒な動きをしだした指先をいなしつつ、思わず呟いていた。
「ああもう。俺だって好きですよ!」
…もうすぐ、時間がなくて脱ぎ損ねた鬼のパンツを未だに着ている事がばれてしまうだろう。
こんな下らないことで嫉妬した上忍にオイオイ泣かれるなんて経験は、人生でたった一度だけでいい。
端整な顔を涙や鼻水でぐしゅぐしゅにして、それでも俺の恋人は器量よしだとため息をついておいた。


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適当。
とりま節分ですので。
えほうまきプレイでもいいんですがまあとりあえず。
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