銭湯2(適当)



「お。イルカ。…と、え?カカシさん」
アカデミー教師の気の良いヤツだが、珍しい人を連れている。
コイツがここにいるのは珍しかないが、セットになってる相手に違和感がありすぎる。
何だこの取り合わせ。まさかここで任務って訳じゃないだろうに。
「あ、ライドウさんもですか?今日は温泉の日ですもんね!」
笑顔全開だ。相変わらずの温泉好きぶりについ苦笑が漏れた。
ここ木の葉湯は、木の葉の里で一番デカイ銭湯だ。毎日変わり湯が楽しめて薬湯からアロマなんとかとかいうもの、それに温泉まで幅広く楽しめるのが売りで、任務帰りの忍にも配慮してくれるってんで人気が高い。
まあそれを教えてくれたのはこいつなんだけどな。
一度試してみれば確かに効果が高いこともあって、任務帰りについつい立ち寄るようになったんだから、銭湯からしてみたらイルカ様様だろう。
力いっぱいお勧めという名の脅迫染みた銭湯トークは、微に入り細に渡り、こういう所まで詳しいのかと驚いた覚えがある。しかも教え方も上手かった。流石教師だ。
ある意味コイツの性格なのかもしれん。任務でも恐ろしく緻密なトラップと大胆な挑発で、一個小隊くらいなら単独で潰した実績があるはずだ。
大胆不敵ってヤツだな。それにしちゃプライベートじゃ時々とんでもないポカをやらかすんだが。
まあ女あしらいに関しては人のことを言えない身の上だから、フォローはしても突っ込んで聞いたことはない。
とにかく説明も勧誘も上手いのは確かだ。潜入任務なんかさせたらん10年前からそこにいたみたいな顔して馴染むもんな。
…ってことでまさかこの人まで。
暇さえあれば温泉に行きたいと呟くようなヤツだが、社交辞令を真に受けたりなんかしてないだろうな?
鈍い所も、そして良かれと思うとちょっと強引な所もある分、気難しい上忍との取り合わせに不安を覚えた。大抵の場合、コイツの人柄の良さでなんとかなるんだが、この人は変わり者ぞろいの上忍の中でも、群を抜いている。
まさかまたなにかヘマでもしたんじゃないかと心配になって視線を向けると、何故かその先で上忍が笑みを浮かべながら殺気を放っていた。
「や。こんにちは。なに?ライドウもよく来るの?」
「いえ、めったには。風呂が故障したので止むを得ず」
…風呂は壊れてなどいないが嘘も方便。これはまともに取り合う方が危険だと、本能で察知した。
だが、なぜ怒っているのかが分からない。
そもそもこの二人に接点なんてあったか?九尾の器を引き受けたってのは知ってるが。
強引にイルカに誘われたんだとしても、俺に怒りをぶつける理由にはならないだろうし、イルカに怒ってるって気配でも…ない、な。むしろよく懐いている犬のようだ。
少しだけ驚いたが、なんとなく嬉しいのは、この人の分厚い壁が、イルカとの間にはないように思えたからだ。
何が切っ掛けかしらないが、どうやら相当気に入っているのは確かだ。
イルカの方も楽しそうにしている理由が温泉ってだけじゃなさそうだしな。
隣に立つ人を見つめてそれはもう嬉しそうに…。コイツも誰でも受け入れるようでいて、密かに壁を作るタイプだから意外だった。
二人を見届けたい気もするが、危ない橋は渡らない方が無難だな。
イルカは温泉友達にでもするつもりなのかもしれんが、折角上手く行っているならそっとしておくに限る。
普段一人でどこか遠くを見ているあの人を、ここまで懐かせたんならきっとなんとかなるだろう。
「そ?」
あからさまにほっとした様子からしても、俺の決断はあながち間違っちゃいないはずだ。
どこかで裏を取るか、それとも…いや、これはこのままそっとしておいた方がいいんだろうな。
「すみません。野暮用を思い出しました。また後で来ようと思います」
「今日の温泉風呂は9時までですから、それまでにぜひ!」
「がんばってねー」
見送りをしてくれる二人に背を向けて、笑顔で背を向けた。
温泉の素でも買って帰るか。確かイルカお勧めのがあったはず。
…なるようになったころに顛末を聞ければいいんだが。
少しばかり気になる成り行きはその内探りを入れよう。
「おばちゃん!大人二人!」
威勢のよいイルカの声を聞きながら一人そう決意したのだった。

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適当。
つづいてみたり
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