先生

「これからも良くない事は沢山あると思うんだ。でも、それに負けてはいけないよ」
自分が死ぬって分かってたくせに、いつだってにこやかな先生はいつも通り微笑みながらそう言ってたっけ。
これも、良くないことの一つなんですか?
「え、えええええっと!そそそそそそその!」
すごい勢いでどもりながら顔を真っ赤に染めてかちんこちんに固まっているのは、俺の知り合いの中忍です。
さっきから…随分長いことこんな感じですが、一向に具体的な発言はないままで。
…ま、分からなくもないんだけど。
何故この中忍がこんなに怯えてるのかっていうと、それはこの人の人の良さに付けこんで、たちの悪いイタズラを仕掛けた馬鹿がいたからで。
最初から最後までいかさまとウソと悪意に満ちたソレを、生徒を盾にされたこの人が断れるわけもなくて、しかもそれでも一生懸命挑戦して破れ、罰ゲームなんてものをさせられている。
勝てるわけがないって知ってたくせに、無理をして、それなのにこんな茶番にも本気で挑戦しようとしている。
…それを全部知ってるのに、止めようとしない俺も同類だろう。
先生。でも俺はどうしても…。
「カ、カシさん…そ、その!俺!」
これからこの人に告げられるだろう言葉が楽しみだけど、苦しいです。
例えウソだと知っていても、それを言ってもらいたいと思ってしまった。
自分はただの自業自得。でもきっとこの人も…傷つくのに。
それなのに今俺の胸は期待に弾んでいて、馬鹿みたいに早い鼓動が苦しいです。
言ってくれたら…事情を知ってることを説明して、あんな馬鹿共はもうとっくの昔に締め上げて後悔させて、それでも足りないからジジ馬鹿にも報告してきっちり責任取らせたと言って上げられるのに。
「…うー…やっぱり、駄目だ!ごめんなさい!俺…ちょっと用事が!」
ああ、やっぱり。…もしかしてウソでも言いたくないんだろうか。
ウソを付くのがイヤだっていうは、この人の普段の姿を見ていてよく知っているんだけど。
「どこ行くの?」
「…俺は、カカシさんに…ご迷惑をかけるところだったんです。でも、それよりも…俺が、俺がイヤなんだ…!」
泣きそうな声。それすらも俺の胸を締め付けます。
ああ、いっそ抱きしめてしまいたいのに。
「…あのね。ごめん。知ってる。…だから、全部片付けてあるんだ。あなたに…酷いイタズラをした奴らにはね」
もういいや。こんなに悩んでくれた。
自分からはとても言えないなんて臆病で卑怯で、でもこんな切欠で簡単に魔がさすくらい執着している。…この感情は消えてくれないだろうけど。
「じゃ、じゃあ!?」
「あんなの、無視していいんですよ。もう上も把握してます」
「なら、それなら…!」
明るい笑顔。この顔が大好きだ。
最初は鬱陶しいなんて思ってたのに、俺と二人でいるときに向けられたら、馬鹿みたいに舞い上がってしまって、それで気付かされた。この人が好きだって。
…諦めきれないけど、きっと感謝の言葉くらいはもらえるだろう。それで、ついでに飲みにでも行って、またこの笑顔が見られるならいいはずだ。
情けないと思いながら、落ち込んでる自分に言い聞かせた。
「好きです!」
その言葉は俺の口からじゃなく、さっきまで茹蛸みたいだと思うくらい赤かったのに、今度はもっとさらに赤く染まったイルカ先生から飛び出してきた。
「え!」
「ご、ご迷惑だとは思ってたんです!それに…こんなの罰ゲームでもなきゃ言えないってちょっとは思ってたし…でも、それじゃ全部ウソになっちゃうから。そんなの、イヤだったんです」
見る見るうちに瞳の淵に綺麗な雫が盛り上がり、地面に落ちていった。
「う、そ」
「…気持ち悪いですよね…でも、言いたかった。もう顔も見たくないなら、気をつけます。ちょっとその、すぐにはこの気持ちを捨てられないとは思うんですが」
泣きながらそれでも笑ってくれている。
先生。心臓が壊れそうです。
「違う!好きなのは俺で、ずっとずっと好きで!でも言えなかったから…ウソでも言ってもらえるかもしれないと知って、止めませんでした…」
殴られてもいい。愛想着かされてもしょうがない。でも、この人にウソなんかつけない。
「え…?」
「好きなんです。あなたが」
こんなコトしたらもっと嫌われるかもしれないと思うのに、体は勝手にぽかんと口を開けたまま涙を流している人を抱きしめていた。
「え、ええええええ!」
「好きです。卑怯で最低だから、もういらないなら振り払って」
手を離せない自分を言い訳に使って、どこまでも俺はずるい。
こんなコトをすれば優しいこの人が少しでも同情してくれるかもしれないと期待してる。
「いらない訳ないでしょうが!俺を馬鹿にしないで下さい!…これがもし、罰ゲームだったりしても、俺は離してあげませんからね!」
背に回る腕が力強く俺を抱きしめ返してくれた。
同情なんかじゃない自分の言葉で俺を叱って。
先生。先生は本当に凄いです。
「だってね。そうやって頑張ってると、意外とその先にびっくりするくらいいことがあるんだから!」
最後まで笑っていたあの日に聞いた言葉は、全部本当だった。
「イルカせんせ…俺も、離せないから」
「そうしてください。…あーもう!こんなコトになる前に告白しとけばよかったなぁ!…アナタに、嫌な仕事をさせた」
「そんな!そんなコトない!俺が勝手に…」
「えーっと。まあそんなのは今更だし。…それより。これから末永くお願いします!」
「こちらこそ!」
二人してアカデミーの裏庭で笑いながら抱きしめあってたら、後で覗いてたらしい三代目に小言を食らったけど、びっくりするくらいいいことは、あれからもずっと続いている。
だって今日も…愛する人が俺の側で笑っててくれてるだから。ね。


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適当ー!
先生の教えネタのようなそうでないような…?
ではではー!ご意見ご感想など、お気軽にどうぞー!

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