「あの、お招き頂きありがとうございます!」 「テンゾウさん!よかったぁ…!渡すのギリギリになっちゃったってカカシから聞いてたから…!きてくださってありがとうございます!えへへ!」 嬉しそうなイルカさんに、胸が締め付けられる。 招待状がこんなにぎりぎりになったのも、きっと先輩のせいだろう。 嫉妬深いなんてもんじゃない。本当は来させたくないけど、でもイルカさんが泣くのもいやで、結果的にこうなったんだと思う。 …去年お手伝いとかしちゃったもんね…。ずっとねちねち覚えてるのが先輩の凄い所っていうか…。 ああいけない。イルカさんが心配しちゃう! 「その、そんなに長居はできないかもしれないんですが、いつもお世話になっている先輩のお祝いですから!」 …そうだ。それも本当。 でもどちらかというと、この人に悲しんで欲しくないから。 先輩はわがままだけど愛する人を裏切ったりはしない。…でも不器用で俺様だから、きっとイルカさんは苦労しているはずだ。 ていっても、イルカさんもイルカさんで天然だから、お互い苦労ってやつはしてるのかもしれないけどね。 「今年は、えっと、ちょっとカカシが変かもしれないんですけど!でもあの、お祝い、一緒にしてください…!」 「はい!」 あー…これは案の定なにかあったんだろうなぁ。先輩…大人気ないから。特にこの人に関してはその酷さが悪化するもんね。 案内されるままにいつもの食卓に向かった。 先輩の好物ばかり並ぶそこに、だがいつもなら堂々と座って僕に殺気と怒りの視線を向けてくる人がいない。 どうして…?今日は任務じゃなかったはず。それなのに僕とイルカさんをふたりっきりにするなんて、ありえない。 「先輩、は?」 「…多分、もうちょっとかかるかもしれないんです。でもあの、必ず帰ってきますから!」 …まさかイルカさんとまでやりあったんじゃないよね!? 先輩のことだから殴ったりなんてことは絶対にないだろうけど、敵にはなんでもできるくせに、イルカさんには途端に不器用になる人だから。 イルカさん…きっとすっごく心配してるに違いない。 「あの、探して…!」 「テンゾウさん。中忍って、大変ですか?」 「へ?」 唐突な問いかけに面食らったのは、その内容だけじゃなくて、イルカさんが泣きそうな顔をしていたからだ。 中忍師権がらみでやっぱりやりあったんだ…!なにやってるんですか先輩! 「仲間とも先生ともじいちゃんとも相談したし、今はまだ弱いかもしれないけど、強くなりたい。だってそうじゃないと守れない。…それなのに…!」 慰めなくちゃ。そう思った。 …でもすぐに別の気配に気がついた。 先輩…なんで天井裏なんかに潜んでるんですか…。折角誕生日だって言うのに! 動揺したのか気配が駄々漏れだ。イルカさんも涙を流して感情を高ぶらせているせいか、気付いていないみたいだけど。 …ここは、自爆覚悟で行くしかないだろう。 だって僕は、二人のどっちにも悲しんで欲しくないんだからね。 「イルカさん。中忍が大変かっていえば、忍ですからそりゃ大変です。部隊の指揮を執ることだってありますし、自分以外の誰かの命を預かることになりますから」 「…はい」 「でも、だからこそ自分の責任の分強くなろうとする人でしょう?イルカさんは。部下を絶対に切り捨てたりしない。…僕はイルカさんのそういう所はとても向いていると思います」 天井裏からの突き刺さるような殺気が痛い。でも、まだ駄目です。…僕には伝えたいことがある。 「テンゾウさん…!」 「先輩でしょう。それを教えてくれたのは。それ以外のみんなも。…イルカさんはそうやって、誰かに何か教えたり伝えたりするのがとても上手いから、中忍になったらきっと部下が喜びますね」 「…はい…!だって俺も、強くなりたい。カカシを、守りたいんです」 涙が綺麗だ。拭い取ってあげたいけど、それは僕の仕事じゃない。 …あー…そろそろ、かな? 「イルカ。ごめん。ごめんね…!」 「カカシ…!カカシおかえり…!」 見つめあう二人はきっと今、お互いしか見えていない。 …どうしよう?逃げちゃおうかな。このまま。 だって、こんなにも胸が苦しい。 「テンゾウさんに、謝って!」 「えぇ!?」 どうしてそうなるんだ!?先輩まさか何かやらかしちゃったんですか!?せめてイルカさんの前でやらないでくださいよ…! てっきり怒鳴りつけられるか表面上だけの謝罪があると思ったのに、先輩はひどくしょぼくれた顔をしていた。 「テンゾウ。すまなかった」 「へ!?え、いえ!なにも!大丈夫です!ほら!その!…お誕生日おめでとうございます!?」 素直な先輩に感じたのが恐怖だっていうのが悲しい所だよね…。でもホラ、いつも怒ってるか惚気てるかだから。 「そうだね!お祝いしなきゃ!」 「…ありがと。イルカ」 何があったか知らないけど…どうやら丸くことが収まったみたいだ。 後が怖いけどね。すっごく。 …それから、みんなでお祝いして見詰め合う二人に落ち着かない気分になって、プレゼントを置いて帰ろうとしたら止められて、いつも通りに先輩に殺気を向けられた。 それにほっとしちゃった自分が怖いよ…。 みんなで食べたご馳走はすっごくおいしかったけどね…。 ちなみに、なぜか今回のお仕置き修行内容は、随分と大人しいものだった。 マフラーなんて編んでもなぁ…今年の冬はあったかく過ごせそうだけど。おかげで。 そんなこんなで、はた迷惑な行事を、僕は今年も何とかやり過ごすことが出来たのだった。 ********************************************************************************* 幼馴染で夫夫扱いになってる(イルカはおそらく良く分かってない。)カカイルと、 少年なテンゾウ(チョイ馬鹿)の続きでございます…。 おたおめ鬼畜先輩! ではでは!なにかしらご意見ご感想突っ込みとうございましたらお気軽にどうぞ! |