「はぁ…」 憂鬱だ。でもだからって逃げ出せば…結果は火を見るよりも明らかだ。 ずっしりと重い包みの中身は、さっきまでせっせとイルカさんが作ってたお弁当で、僕はこれから桜の木の下で待ってる先輩のところまでコレを運ばなきゃいけない。 それだけならまだいい。その場で先輩の殺気に耐えておけばいいだけだから。ま、次の日くらいに制裁はあるにしてもね。 …でもそれが最低数時間は続く上に、制裁も確実。その上会話するにも気を遣うなんて辞退になったら…そんなのできれば逃げたいに決まってる。 「お花見、楽しみですね!」 「は、はい。そうですね…」 …こんなに楽しみにしてるイルカさんに、そんなこといえないけどね…。 そもそもの発端はこの人で…悪気なんてかけらもない分被害が大きいんだよね…。 まあ、ある意味先輩も発端といえるんだけどね…。 あの日、あのルートで帰還しなければ…僕はきっと、今頃家でのんびりしていたはずだったのに。 ***** あの日は僕と一緒の任務で、まあいつも通り怒られたり惚気られたり怒られたりしながら里に帰る途中、大きな桜の木を見つけたんだ。 「お前。桜治せる?」 「え?ああはい。やろうと思えば」 なんでそんなことを言われたか、そのとき考えればよかったんだ。 先輩に言われたことにはすぐに答えないと酷い目に遭うことが多いからって、さらっと答えすぎた。 「じゃ、治して。…これ」 「うわっこりゃ酷い!えーっと。どうするかな…?」 チャクラはまだある。今回はなにか楽しみなことがあるって張り切ってたから、殆ど先輩の独壇場で、僕はトロイってつつかれたくらいで済んだ。 問題は、この木が大きくえぐられすぎてるってことだ。 落雷にでもあったんだろうか。咲き誇る花に木をとられて気づかなかったけど、裏に回ったら、幹が大きく焼け焦げて裂けていた。このままじゃ早晩枯れてしまうだろう。 「あーやっぱり…無理、か?」 先輩の声音がいつになく弱弱しく感じて、僕は慌てた。 普段傍若無人なだけに、弱った声なんか出されると心配になる。 これだけ大きな桜が失われるのは…普段イルカさん以外のことに興味がない先輩だって辛いんだろう。 それくらい、この咲き誇る桜は美しい。…枯れ落ちる前に最後に命を燃やしているかのように。 「あ、いえ!やってみます!…ただその、大きいので元通りって訳には行かないと思いますけど」 先輩に言われなくても、こんなに綺麗な桜が弱っていくのを見るのは辛い。 集中してゆっくりとチャクラを流し込んだ。 裂けた部分をつなぎ合わせて、えぐれた部分が埋まるように幹を再生させていく。 何とかそれらしくするまでに、そう大した時間はかからなかった。 「なんだ。できたじゃない」 「…そうですね。ちょっと傷はのこっちゃいましたけど」 ぱっ見では多分殆ど分からない程度には治せたみたいだ。これで枯れるなんてことはないだろう。 やっぱり綺麗な花が咲き続けて欲しいから、正直言って嬉しかった。 「じゃ、ここでいっか。里にそこそこ近いしね。あ、お前は弁当係だから」 「へ?」 「鈍いねぇ?ま、明日でいいかな。イルカ一人で荷物もちなんて大変でしょ?」 「だ、だから一体何の話ですか!」 いつものこととはいえ、先輩の話は唐突過ぎて訳が分からない。 ここで…何をする気だろう。イルカさんが関わってるってだけでも怖いんだけど。 「花見。…里内でやると爺が混ざってこようとするし、かわいいイルカが人目に晒されちゃうでしょ?酔っ払いとかたち悪いのに絡まれたら…ねぇ?」 殺気が辺りを圧倒した。 ひらひらと舞い落ちる桜の花弁が、その中に立つ先輩をまるで別の生き物のように見せている。 恐怖を感じるほどに美しく、現実感のないこの光景。 一瞬息を呑んだけど…。 ようするに嫉妬で被害ださないようにここでお花見をするって話だよね。 …ちょっとまって、それって、つまり…。 「あ、あのう。それって僕も参加するんですか」 「当たり前でしょ?イルカがお前もって言ってるんだもん。…ああでも、へんな真似したら殺すから」 「そんなことしませんよ!先輩がいるのに!」 二人の間に割ってはいるなんてできない。あんなに二人で一つなのに。 …それが辛いと感じることには、目をつぶった。 第一割って入らなくても被害甚大なのに、これ以上つつく勇気なんて僕にはない。 「いなかったら、どうすんの…?」 「そりゃ慰めますけど…。任務は今の所ありませんよね?」 先輩なしで花見なんてことになったら、イルカさんはそれはもう悲しむだろうからね。 「…ふぅん?ま、いいや。急ぐよ」 「は、はい!」 先輩が唐突に話を打ち切った理由なんてわからなかったけど…とりあえず、僕の平和な休日ってヤツは失われたらしいってことだけは分かりきっていた。 ********************************************************************************* 幼馴染で夫夫扱いになってる(イルカはおそらく良く分かってない。)カカイルと、 少年なテンゾウ(チョイ馬鹿)の続きでございます…。 と言うわけでちょこっと桜変続きます。 ではでは!なにかしらご意見ご感想突っ込みとうございましたらお気軽にどうぞ! |