先輩26 -桜の木下であなたと 後編-(ヤマト視点幼馴染カカイル夫夫)

なんとなく落ち着かない気分のまま、桜の木の下まで急いだ。
走っている間にもどんどん無口になってうつむくイルカさんが心配でならない。
…僕は、なにかしちゃったんだろうか。
先輩の制裁も怖いけど、なにより落ち込んだ様子のイルカさんが、いつものように笑ってくれないのがキツい。
やっと先輩が視界に入る距離に入ったときには、これでなんとかなるってホッとした。
先輩がイルカさんを落ち込ませたままでいるはずがないもんね。
「先輩…あの…!」
僕が窮状を訴える前に、案の定先輩の方から動いてくれていた。
「イルカ。どしたの?」
「え!あ、なんでもないよ?」
嘘だって丸分かりだ。あからさまに無理してる所なんて見たくない。
いっそ痛々しいほど、この人は無理をするから。我慢になれちゃってる所が心配なんだよね…。まあ先輩も別に意味で無理っていうか…無茶するから心配なんだけど。
「俺にうそついちゃだめでしょ?おしおきしちゃうよー?」
「う、うそなんかじゃ!…ただ、こうやってお花見するのって…父ちゃんと母ちゃんと一緒だったとき以来だなって思ったら、なんだか…」
…そうか。そのせいだったんだ。
僕にはそんな記憶がないから気にも留めなかった。慰め方も分からない。
でも、先輩は。先輩ならきっと…!
「俺がいるでしょ?」
「…うん」
「ずーっといるよ。側に」
「うん…!」
ぎゅうって抱きしめて小さく声を震わせたイルカさんは…もしかすると泣いているのかもしれない。
荷物をそっと降ろして、この際だからこのまま逃げてしまおうかと思った。
一緒にいる二人をみているのがこんなにも辛いのは…これは、嫉妬なんだろうか。
安心したようにしがみ付くイルカさんに、確かに安堵しているはずなのに。
側にいる人がいることが?思い返す過去があることが?…この胸にわだかまる暗い感情が、どっちに対してなのかすら僕にはわからない。
同じように桜が降りしきる中にいるのに、僕と二人はあまりにも違いすぎて。
馬鹿みたいにしばらく慰めあう二人を見つめていた。
…美しい桜の下で、当然のように寄り添う一対の番を。
*****
「テンゾウ。それとって」
「は、はい!」
「こっちも食べてください!」
「あ、ありがとうございます!」
…僕は結局逃げそこなった。
桜の木の下の二人が、あまりにもきれいだったせいかもしれない。
それから、そっと距離をとった俺に目ざとく気づいた先輩が、一応アレもいるでしょ?なんていったせいでもある。
自分で言っておいて嫉妬してる先輩はいいとして…イルカさんが、すごくすごく嬉しそうに笑ってくれた。
胸が締め付けられるように痛んだけど、だからそれだけでいいと思うことにしたんだ。
さっきから何かと先輩と僕の面倒を見てくれるイルカさんのおかげで殺気がすごいんだけど、それはもう諦めた。
…今回はどんな修行が待ってるのかな…。できれば平和なヤツがいいんだけど。
「桜、綺麗ですね」
桜…先輩が夜桜の側に立つ姿もまるで絵のように馴染んでいたけど、昼間の桜はイルカさんにぴったりだ。美しく静かに咲き誇る花は、惜しみなくその美しさを見せ付けてくれる。
ご飯も美味しいし、今はそれを楽しもう。
「テンゾウさんって、桜みたいですよね!」
だからこんな台詞は寝耳に水だった。
「へ?え、えーっと?僕が木遁使いだからですか?」
そういえば昔かわった手ぬぐいを貰ったことが…大事にしまってあるけど、アレも桜だった。そういえば。
「ふわふわで優しい感じが、テンゾウさんにぴったりだなぁって!」
「そ、そうですか…?ありがとうございます」
自分ではそんなこと思わなかったけど、イルカさんに褒めてもらえたのが嬉しかったから素直に喜んでおいた。
下手なこと言って先輩の神経を逆なでするのもいやだしね…。
「桜、お二人は桜みたいです」
「え?」
「ふぅん?」
イルカさんもだけど、さりげなく僕のおにぎりを奪ったりしていた先輩も不思議そうな顔をした。なんでだろう?こんなにも二人にぴったりなのに。
「強くてまっすぐな所が」
ぽろっと言った台詞に、イルカさんが破顔した。
「えへへ!おそろいですね!」
「ま、お前にしちゃいい表現かもね」
えーっと。おそろいって…まさか僕も入ってるのかな?それって先輩的には大丈夫なんだろうか。
イルカさんが笑ってくれてるし…先輩の機嫌がちょっとだけ良くなったみたいだから、まあ平気…なのかな?うかつな発言は慎まないと、命がいくらあっても足らない。
「桜、本当に綺麗ですね。…また一緒にみたいなぁ」
「来年もその次もその次もずーっと先まで、一緒に見ようね?」
「うん!」
桜、そうだ。ずっとこうして咲いてくれればいい。いつかその桜の下で僕にも…あんな風に寄り添う相手がいたらいいな。
ふわりと漂う桜の香りに包まれて、降り積もる花弁の中で誰かと。
その瞬間、風に巻き上げられた花弁の中で…一瞬だけ白い白い手が僕に触れた幻を見た気がした。

ちなみに、先輩の指導は今度は和菓子作りだった。しかも…かしわもちだ。これってつまり…まさか、次があるんだろうか。
おびえる僕を癒してくれる、結局おすそ分けしてもらうことになったイルカさんお手製のご馳走を頬張りながら、僕は次なる恐怖に備えることにしたのだった。


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幼馴染で夫夫扱いになってる(イルカはおそらく良く分かってない。)カカイルと、 少年なテンゾウ(チョイ馬鹿)の続きでございます…。
桜編終了!な気がする!
ではでは!なにかしらご意見ご感想突っ込みとうございましたらお気軽にどうぞ!

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