先輩25 -誕生日の思い出-(ヤマト視点幼馴染カカイル夫夫)

「テンゾウ。なにやってんの?」
「へ!え、あの!えっと!」
見つかってしまった。
マズイ。マズ過ぎる。だって今日は…。
「イルカがお祝い会を開きたいって言ってるのに、何でこんな所でたらたら任務やってんのって聞いてるんだけど?」
ああ、やっぱり…。
律儀な人だからきっとイルカさんなら祝おうとしてくれるだろう。
でも、先輩の殺気に耐えながらがんばるのも正直辛かった。
そうして、今回も僕の努力は無駄に終わったわけだけど。
「そ、それはその!ちょっと任務が長引いて…!申し訳ないんですが…」
「じゃ、さっさと帰るぞ」
ダメだ。やっぱり僕の話なんて聞いてくれる気なさそうだ
「もう少しでターゲットがここに来るんです!すぐに終わらせますから…!」
僕の必死の懇願に、先輩は溜息で返してきた。
「もう片付けた。急げって言ってるのが理解できないの?」
そんなに死にたい?
言外にそう言っている声が聞こえた気がした。
「いえ!すぐに!移動します!ごめんなさい!」
半泣きになった僕に、苛立ちを隠そうともしない先輩がやっと少しだけ笑ってくれた。
「わかったらとっとと動きなさいよ?」
凄みのあるそれに…優しさなんて少しも感じられなかったけどね…。
*****
「テンゾウさん!お帰りなさい!任務だったって…」
「あ、はい!先輩が手伝ってくださったので…」
ああ…癒される…。
こうやって優しく出迎えてもらえるって、やっぱりいいよね。
まあ先輩の殺気がセットだから、落ち着くって言うのは無理なんだけど…。
「ごめんねイルカ?遅くなっちゃって…!」
ぎゅっとイルカさんを抱きしめる先輩を見ていると、僕が何のためにここにいるんだか分からなくなる。
愛おしげにお互いを見詰め合う二人。…僕は余りにも場違いだ。
「あの、先輩…」
やっぱりお暇させてもらおう。言い訳はいくらでもできる。
ここで胸の痛みに耐えるよりずっといい。
「あ、そうだ!テンゾウさん!今日これから俺たちとご飯食べませんか?」
笑顔の誘い。コレを断るのは辛いんだけど…でも、このまま先輩を苛立たせながら恐怖の晩餐会はやっぱりキツイ。
…先輩の傍らで笑うイルカさんを見ていると、なぜだか苦しくてたまらなくなるから。
「大丈夫だよイルカ。任務はもう終わってるから」
殺気が…殺気が隠しきれてないです先輩…!イルカさんも不思議そうな顔してるよ!
「うぅ…あ、ご迷惑でなければ…」
結局、僕は今日も逃げることができなかった。
*****
イルカさんに笑顔を、僕には殺気をぶつけながら、先輩がせっせとご馳走を勧めてくれた。
美味しいんだけど生きた心地がしない。
でも、こんな風に祝ってもらえるのは嬉しい。
…僕は開き直って美味しいご飯を楽しむことにした。
「美味しいです!イルカさんはお料理上手だから、先輩は幸せ者ですね!」
これは心からそう思う。だって…どんなに辛い任務でも、イルカさんはきっと受け止めてくれる。
僕にも、いつかそんな人が現れるだろうか。
傷ついても、人でなしの任務をこなしても、どんなにぐちゃぐちゃになっても、僕を待っていてくれる人が。
「ふふ…そうね?イルカがいなかったら生きていけないだけだけど」
「そんな!…でも、俺もカカシがいなかったら…」
涙ぐむイルカさんの顔をみてしまった。
途端に胸が苦しくて苦しくて…息もできないくらい苦しくなって。
「先輩、すみません」
ああ、でもなんて言ったらいい?こんなにも祝ってくれようとしているのに。
「…テンゾウ。今日が特別だってことは理解してるな?」
急に先輩が訳の分からないことを言った。
そういえば特別といえば特別だろう。書類上とは言え僕の誕生日だ。
「カカシ。もってきて」
「ん。ちょっと待っててね?」
さりげなくキスを落とす先輩を、もう見ていることもできなかった。
「あの、イルカさん…!」
「お腹、まだ大丈夫ですよね…?」
「え、はい…」
空腹は…正直言って食べた気がしないだけあって、満腹なのか空腹なのかすらはっきりしないけど、イルカさんに言われたら大丈夫な気がしてきた。
先輩が怖いって言うのも勿論あるけど、なにより…イルカさんを悲しませたくなんかないから。
「電気消すぞ」
唐突に先輩の声が真後ろから聞こえて、とっさに悲鳴を押し殺していなかったら、きっと僕は無様に呻いていただろう。
甘い、香り。これはひょっとして…。
「はっぴばーすでー!テンゾウさん!」
「ありがたく食え」
ろうそくが丁度年の数だけ立てられている。
あのときから、あの暗く悲鳴と血と腐臭に満ちた場所から連れ出されてから、もうこんなに時間が経ってたのか。
「あ、ありがとうございます…!」
ケーキの上に、僕の素顔を模したお菓子らしきものが乗っている。
「俺、お誕生日の歌歌いますね!」
「練習してたんだ。ありがたく思えよ?」
「えっと、それからプレゼントも!写真はあとで!」
「ありがたく思えよ…?」
先輩の台詞はだんだんときついものになってはいるけど、気配は…どこか優しい。
年齢も姿の分かるものもマズいし、写真はもっと危険なんだけど。
嬉しくて、思わず涙が零れた。
「ありがとう、ごさいます」
「吹き消してください!テンゾウさん!」
「一応おめでと。テンゾウ」
めったにない先輩の言葉に驚いて、でもろうそくのたったケーキに、僕が祝われてるんだって実感が湧いてきて、それから…。
歌を歌ってもらって、ケーキを皆で食べて、先輩と一緒に選んだって言うプレゼントも貰って、ふわふわした気分で家に帰った。
本当は泊まって行ってくださいって言われたけど、先輩の限界が見えてたしね…。
「がんばらないとだよね」
来年もこうして祝ってもらえるように、生き抜かないと。
そうして、いつかは僕も…イルカさんみたいなお嫁さんをもらうんだ。
誕生日に人生の目標がひとつ決まった。
ちょっとずつだけど、僕も料理とか色々できるようになってるし、先輩にはまだまだ遠く及ばないけど、術だって大分できるようになったと思う。
あとは…あとはいつか出会えるその人に好きになってもらえるようにがんばろう。
「よし!がんばるぞー!」
夜空に輝く月に誓った言葉はうそのつもりはなかったんだけど。
…翌日早速、ドサクサ紛れにイルカさんにたくさん撫でられた罪で、先輩にしっかりたっぷりしごかれて、僕は努力の難しさを思い知ったのだった。
被害を減らすためには…イルカさんとの距離の取り方を学ばなければ。
僕は、誕生日にもらったプレゼント…僕の顔マーク入りの特注のクナイを握り締めながら、そう誓ったのだった。


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幼馴染で夫夫扱いになってる(イルカはおそらく良く分かってない。)カカイルと、 少年なテンゾウ(チョイ馬鹿)の続きでございます…。
遅刻…!テンゾウたんおたおめぇええええええ!!!!!!!
ではでは!なにかしらご意見ご感想突っ込みとうございましたらお気軽にどうぞ!

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