先輩24 -祝福の日-(ヤマト視点幼馴染カカイル夫夫)

「もうすぐ夜が明けるな…」
独り言に答えてくれる人は誰もいない。
…今年こそはと早めに任務を入れておいたから。
日付はもう変わっているから、今頃気の早い先輩にイルカさんはそれこそ全身でお祝いされていることだろう。
丁度任務も片付いた。
僕一人でも十分すぎるほどの簡単な任務。…自殺に見せかけるために護衛を誤魔化すのに多少手間取ったくらいで、ターゲット自体の暗殺はあっさり片付いてしまった。
後は僕が帰還するだけ。
遅すぎると先輩に多少罵られたりするかもしれないけど、これからゆっくり帰るつもりだった。
急げば、多分今日のうちに帰還できる。
…そうすれば、あの人を祝うことができるかもしれない。
でも、そんなことをすれば先輩からまた怖い目に合わされるし、なにより。
「見たくない…なんてね」
寄り添って幸せそうな二人を見ているのが嬉しいのに、どうしてこんなにも苦しいのか。
最近になって酷くなりつつあるこの胸の痛みに、僕は困り果てていた。
イルカさんは相変わらず僕にも優しい。
先輩の部下だっていうのもあるにしても、何かと僕を気遣ってくれて、先輩からもかばってくれる。
…まあ、それが結果的に先輩の怒りをあおって、事態を悪化させることの方が多いんだけどね…。
誕生日を迎えて、そういえば出会ってから結構な時間が経っているんだと今更ながら思う。
最初から、あの人はとても優しくて、今もずっと…先輩のモノだ。
夜がじわじわと朝に食われて消えていく。
赤く輝きながら空を支配し始めた陽に、夜の断末魔のような紫がまとわりついて、僕たちの時間が終わったことを知った。
そろそろ護衛がターゲットの不在に気づくはずだ。
見届ける義務はないが、どうせ今日は帰れない。
念のためとでも言えば先輩以外は疑わないだろうから、しばらくここにいるのもいいかもしれない。
そっと適当な木に身を潜ませようとしたとき。
「テンゾウ。なにタラタラやってんの…?」
「ひっ!?せ、先輩!?」
いきなり襟首をつかんできたのは…間違いなく先輩だ。
どうしてと一瞬驚いたけど、すぐにそれが影分身だってことにも気づけた。
ってことはまさか…!?
「イルカがお前を心配してる。遅いってな。…帰るぞ?」
イルカさん…!どうしてこの人にそういうことを…!
確かに任務でいけないかもしれませんって謝りには言ったけど!
先に言っておけば大丈夫かなって思ったのに、やぶへびだったってことか…。
一瞬の思考は、荷物みたいに僕を背中にぶら下げた先輩のおかげで霧散した。
…先輩に担がれたまま全速力で里まで移動されたときの恐怖は…思い出したくもない。
*****
「テンゾウさん!おかえりなさい!」
イルカさんはとても嬉しそうに、僕を出迎えてくれた。
おかげで先輩の殺気はうなぎのぼりだし、なにより襟首を離してくれないから苦しい。
すさまじい速度で運ばれたせいで吐き気と眩暈も残っていたけど、必死になって笑った。
先輩のせいじゃなくて、イルカさんを困らせたくなかったから。
…プレゼントは実は用意してあった。
遅れてごめんなさいって言って渡すつもりで。
でも、この状況じゃ…!
「イルカ。ほら、これ帰ってきたばっかりだから休ませてやったほうがいいんじゃない?」
「あ!そっか!じゃ、あがってもらって…」
わー!?だからそんなこと言ったら駄目ですって!
この優しさが危険なんだ…!
「い、いえその!僕、家で片付けなきゃいけないことがあるんです!任務関係で!で、でもお祝いだけはしたいので!これを!」
とっさにプレゼントを差し出した。
これだけは絶対に汚れないように結界まで張っておいたから、包み紙が多少よれたくらいで綺麗なままだ。
「え!ありがとうございます!…そっか、寂しいけど任務だもんな…」
喜んでくれた。それから寂しそうな顔まで。
猫の子みたいに吊り下げられたままだったけど、それだけで僕には十分だった。
あとは…出来る限り邪魔にならないようにしなくちゃ。
「すみません。今度また改めてちゃんとお祝いを言わせてください。報告がまだなんです」
先輩にいきなり持ち運ばれたおかげで報告を飛ばす余裕がなかったっていうか…でも丁度いい言い訳にもなる。
「ごめんね?イルカ。こいつは今度もっと仕込んでおくから…」
甘い声がイルカさんを慰める。
本体の先輩まででてきちゃったのか…!
「そ、それじゃあまた!」
慌てて逃げ出そうとした僕を、先輩も止めなかった。
今回はどうにか邪魔をせずに済みそうだ。
…仕込むって…また何か変な事やらされるのは確定みたいだけど。
ほっとして、それから…僕を見送るイルカさんが、先輩に向けた笑顔にやっぱり胸が苦しくなって。
火影様に提出した報告書が、多少湿っていたのは許してもらいたい。
ちなみに…翌日になって先輩に呼び出されたから全力で覚悟してたんだけど、イルカさんの第2回お祝いパーティーで、結果的にいちゃつく先輩とイルカさんを見せ付けられながら、先輩に威嚇され続けることになったんだけどね…。


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幼馴染で夫夫扱いになってる(イルカはおそらく良く分かってない。)カカイルと、 少年なテンゾウ(チョイ馬鹿)の続きでございます…。
ってことで誕生日編ー!今年もかわいそうなテンゾウたんだったという…!
ではでは!なにかしらご意見ご感想突っ込みとうございましたらお気軽にどうぞ!

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