先輩23 -かたこいといたみ-(ヤマト視点幼馴染カカイル夫夫)

花が咲くように笑うあなたを、いつも遠くから見ていた。
あの日、いつものように僕は先輩に言いつけられた良くわからない修行をこなしていた。
まあ要するにいつもどおりイルカさんのやさしさが裏目にですぎるほど出すぎたせいなんだけど。
「…これって…いつ終わるんだろう…」
僕の呟きを聞く人なんているわけもなくて、ため息をついたからって先輩から渡されたモノは減るはずもない。
僕はただひたすらに、何故か大量に作るように命令されたくまのぬいぐるみを、せっせと縫い合わせていた。
端切れはまだ山になっているし、先輩のことだからちょっとでも手を抜いたらやり直しになるのはわかりきっていた。
縫って縫って縫い続けて、だいぶ減りはしたはずなんだけど、やっぱり客観的に見てまだ残っている生地は大量だ。
それでも…ちょこんと座らせたくまたちが僕の心を慰めてくれた。
色柄を選んで縫い合わせていく作業は、深く考えなければそれなりに楽しめる。
…残った材料を見るとこぼれるため息は止められないんだけどね…。
そうして縫いすすめているうちに、うんざりしつつもだんだんコツがつかめてきて…そのときに、結構な大きさのきれいな水色の布を見つけてしまったんだ。
イルカさんに似合うだろうなぁと思ったら、それだけでちょっと楽しく思えてきたのが不思議だ。
他のも丁寧に縫ったつもりだったけど、他のものよりやっぱりちょっとだけ手をかけてしまった。
縫い目もだけど、こっそり…鼻の頭にイルカさんみたいな縫い取りを入れて。鼻傷のせいってだけじゃなく、やっぱり可愛く見えるのが不思議だ。
でも、ばれたらきっととんでもないことになるのはわかっていた。
だからすぐに糸を切れるようにそのくまだけは僕のすぐ側に隠して作業を続けることにしたんだけど…。
布を整理していたら、今度は先輩を髣髴とさせる光沢のある白い布まで見つけてしまった。
先輩が僕に無理難題を強いることはよくあるけど、こういう罠を仲間に這ったりはしないだろう。
…僕が勝手に先輩みたいだって思っただけだ。
そうしたら、やっぱり僕は雑に作ることなんて出来なかった。
丁寧に縫い合わせて、綿をつめて、それから…いつもは隠されている瞳をまたぐ傷の縫い取りもして、完成したそれは同じ型紙を使っているのに、やっぱりどこかカッコよく見えた。
これも見付かったら何か言われそうだったから、そっと先に作ったイルカさんの隣に並べた。
寄り添う先輩ぐまとイルカさんぐまは、僕の気のせいかもしれないけど…やっぱり凄くお似合いで。
理由は分からないのに涙がこぼれそうになった。
嬉しいのに胸の奥のどこかが酷く痛んで、それがなぜか誰にも言えないと思った。
「…がんばろう」
それから、僕はこのもやもやする感情を誤魔化すように必死でくま作りを再開した。
丁寧に仕上げたくま2体のお陰で、ちょっと時間をとってしまったけど、何かを吹っ切るように集中したせいか、終わりなんて来ないんじゃないかって思ってたくま作りも最後の一個になっていた。
「あと、ちょっと…できた!」
薄緑色の布に、ベージュを組みあせたそれは、我ながら結構綺麗な仕上がりだ。
まあ、先輩からみたらまた色々言われちゃうんだろうけどね…。
とりあえず、先輩が戻ってくる前になんとか全部終わらせられたことを喜んでおこう。
…ばれたら怖いから、そろそろこれも…。
そう思って例の2匹のくまを手にとった瞬間…。
「テンゾウさーん?」
「ひっ!?」
確かにここは先輩に指示された部屋だ。
つまり先輩の別宅っていうか、倉庫みたいなところなんだけど。
もしかして、イルカさんも知ってたのか…!?ってそれ以前になんで僕がここに入るって知ってるんだ!?
びくつく僕が動けないでいると、閉ざされていたはずの玄関の扉がドカっと蹴り飛ばされるみたいな音を立てて開いた。
「無視するなんて…いい度胸だな…?」
「い、いえその!ちょっとまだ…あっ!」
傷が残ったままのくまをひったくられてしまった。まじまじと見つめる先輩からはいつもの殺気全開の恐ろしいオーラは感じないけど…やっぱり怖い。
緊張でピンっと張り詰めた空気を打ち破ってくれたのは、やっぱりイルカさんだった。
「これ、俺たちだ!そっくりだね!」
「そう?」
「うん!すっごくかわいいよ!こっちの白いの!」
「イルカ…!こっちの青いヤツの方がずっとずっとかわいいよ!」
なんだろう。のろけ?この状況が分からないけど、イルカさんがこれだけ喜んでくれたんなら、とっても嬉しいし、多分僕への制裁は大分手加減してもらえるはずだ。
「あ、あのー…先輩と奥さんにそっくりだなぁって…つい…!ごめんなさい…!」
「お前…」
大慌てで謝ったら、先輩がしゃべる前にイルカさんが止めてくれた。
「テンゾウさん、凄いです…!カカシがいっぱい端切れ持って行ったから、何にするか聞いてしまったんです。お裁縫が趣味ってステキですね!何でもできるんだなぁ…!」
見せてもらいに来たんです!って笑うイルカさんを見てたら、先輩の適当すぎる口実は気にならなくなってきた。
「あの、先輩に材料をいただいているので、どうぞ持って帰ってください!この二人を引き離すのはかわいそうなので…」
「え!でも…!」
「いいんです。…先輩、ありがとうございました!」
こうなったら制裁覚悟で押し切ってしまおうと、先輩に懇願も篭めて言ってみた。
「ちっ!…イルカが気に入ったなら。…後のくまはお前にやる」
イルカさんを悲しませなくて済みそうだ。
後半のくまが僕の家に大量に居座るって事態にはうんざりするけど、しょうがない。一生懸命縫ったから愛着がないわけじゃないし、ちょっとずつ誰かに上げればいいだろう。
ほっと一息つけたせいで気が抜けて、僕はうっかり作ったばかりの緑色のクマを取り落としてしまった。
「こっちのは…テンゾウさんみたいですね!」
そういわれてみれば、僕は木遁遣いだし、緑色でもおかしくはないかなぁ?
イルカさんも喜んでるし。
そういわれてみると、最後に仕上げたのもあって、なんとなくそのくまが僕みたいに思えてきた。
「…お前の分身はちゃんと持って帰って大事にしろよ…?」
おもわずぽわんとしてたけど、無言の圧力に正気付いた。
先輩はこれをイルカさんが欲しがると思っているのかも…!?
「は、はい!僕そっくりでなんだか愛着が!え、えーっと!もってかえります!先輩たちはごゆっくり…!」
大慌てでくまたちをしまいこんで、逃げ出した僕はあからさまに不審だったかもしれないけど、これ以上あそこにいたら危険だ。
それに、互いに似せて作ったぬいぐるみを抱きしめているのも見たくなかった。どうしてかなんてわからないけど。

それから…もってかえってきたくまは結局僕の玄関に置かれている。
意外と暗部の仲間には人気があったせいか、少しずつ配って、売れ残ったのは今のところ1個だけだ。
だから今、僕にそっくりなのの横には、黒と白で作ったくまが並べてある。
僕にもいつか、こうやって寄り添ってくれる誰かが出来ればいいな何て思いながら。

…因みに、その後の制裁が殺気と嫌味と足を思いっきり踏まれる程度だったから、多分、先輩たちそっくりなあの子達は気に入ってもらえたんじゃないかなぁと思っている。


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幼馴染で夫夫扱いになってる(イルカはおそらく良く分かってない。)カカイルと、 少年なテンゾウ(チョイ馬鹿)の続きでございます…。
イルカちゃんは大喜びで自慢。じいちゃんもほくほく!先輩も結局イルカ可愛さにほだされてみたりして…!
ちなみに…テンゾウたんがぬいぐるみをかご一杯に持って歩くのが哀れだったから売れたとかだと悲しいですね!


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