先輩21 -厄介な任務-(ヤマト視点幼馴染カカイル夫夫)

「行って来い」
そういって手渡された任務依頼書には…思わず意識が一瞬飛びそうな内容が踊っていた。
「こ、れ…でもあの!」
「お前が行け。俺はイルカと七夕の約束がある」
そうだった…!そういえばそろそろそんな季節。
先輩のことだからイルカさんと約束済みなんだろうし、先手を打って僕を里の外に追いやりたいってことか…!
でも、だからってこの内容はないと思うんだけど!
「せ、先輩!僕にはいくらなんでもこういうのは無理だと思うんですけど!」
なんだって僕が…女の子なんかに成りすまして見合いなんてしなきゃいけないんだ!
それだけだったらまだ変化でもなんでもして誤魔化せるけど、今回は…!
「別によくあることだろう?チャクラが使えないだけだ。修行だと思え」
そう。変化はできない。つまり…僕を待っているのは女装ってことだ。
しかも見合い相手がどうにもきな臭い噂の持ち主で…忍崩れの可能性があるらしい。今までも縁談が持ち上がっては、結局相手が不審な消え方をしている。
つまりは…僕は暗殺を防ぎながら穏便に見合いを済ませ、その後で…ターゲットを消さなきゃいけないってことだ。
一般人ならまだまだ結婚するような年齢じゃないけど、名家となるとそうもいかない。
しかも…内所が苦しいとなると猶更。
依頼するのだってきっと相当迷ったんだろう。それだけ自分の娘を大切に思っているのか、援助を受ける相手を見極めたいのか…。
よくわからないけど、わざわざ僕たちに…暗部にこの任務が回ってきたってことは、それだけじゃないはずだ。
「これって、裏が?」
引き受けるしかないのなら、できるだけ事情を知っておきたい。そう思って先輩に水を向けると、面倒臭そうに答えてくれた。
「んー。火の国の大名の口利き。相手の男が邪魔だから消して来いってさ。弱みでも握られてるんじゃないの?元々縁談を世話してるのもそいつだし、その度に女が消えるから悪い評判を嫌ってしぶしぶ任務持ってきたみたいよ」
「そう、ですか」
納得はできたけど、胸の悪くなるような話だ。
要するに大名の尻拭いのために、何人もの女性が犠牲になってるってことだ。
忍術を禁じられてるのだって、僕が何者か気取られて逃げられるのを防ぐためってことだろう。
相当重要な秘密を握ってるんだろうけど…それならさっさと消してしまいたい。
見合いの失敗も許されず、かといって不審がられないようにしろだ何て無理がある。
「…気は抜くな。表向きは大人しく見合いしてるフリでもしてればいい。消すのはどこでもいいが、できる限り疑われない殺し方にしろ。できれば閨で腎虚なんてのがいいけどな」
「なっ!?」
いくらなんでもそれは無理だ。
だって幻術も使えないのに性別を誤魔化したままどうこうなんてできるわけが無い。
「ま、お前には無理だな。とりあえず夜這いにでも来た時にそのままこれを使って消せ。その後はどうとでも誤魔化せるだろう?」
手渡された薬は即効性のある毒だ。ほんの僅かな量でも体内に入ればまるで発作のように心臓を止める。
耐性のある毒だから、僕自身がどうこうってことはないはずだけど。
…これなら、何とかできるかなぁ…。不安だけど。ものすごく。
「千本とかじゃ目立っちゃいますよね…。かんざしか…?」
「適当に頑張れ。イルカに心配はかけるな。七夕前には帰ってくるな」
言いたいことだけ言って、先輩はさっさと僕を置いて飛び出していった。
…きっと、イルカさんのところに。
「はぁ…。やるしか、ないよね…」
嬉しくない内容ばかりぎっしり書き込まれた依頼書を読み込んで、それからすぐに灰に変えた。
胸のもやもやも一緒に灰に変えてしまえたらいいのに何て思いながら。
*****
見合いなんて形ばかりにも程がある。
そう思わざるを得なかったのは…部屋に通されるなりそこにしかれていた布団に突き飛ばされ、欲望と支配欲にどろりと瞳を濁らせた男に足蹴にされていたからだ。
「ふ、ふひひ…!さあ!泣け!喚け!ワシの前で這い蹲って見せろ!」
「や、止めてください…!」
我ながら相当気持ち悪いコトになっている。まだ変声期前で、声色は一応できなくはないけど限界があるし、そもそも自分が女の子みたいに振舞ってること事態が気色悪い。
まあ、それ以上にこの中年の男の気色悪さの方が相当なんだけど。
年端の行かない…僕と同い年の少女相手に、ここまで欲情できるなんて、正に変態だ。
影縛りもどきみたいな術を使ってきて、身動きが取りにくいのがなんだけど…仕込んでおいた毒を与えられれば、もうこんなに気持ち悪いモノを見なくて済むはずだ。
「上等そうな着物だなぁ…!引き裂いたらどんな音がする?聞かせてやろうか!」
「あ!」
うわぁ。本当にありえないくらい気持ち悪いなぁ。この男。
自分の声も相当だけど。
圧し掛かって帯に手をかけた瞬間。男が一瞬顔をしかめた。
「…つぅっ!なんだこれは!針…!?」
どうやら上手くいったみたいだ。
指先に突き刺さる小さなしつけ針は…男の心臓を確実に揺さぶっている。
「あ、あ…っ!」
怯える演技も忘れない。
どこで誰が監視してるか分からないもんね。
「ぐぅっうがあああ!」
男は唐突に胸を押さえてのた打ち回り始めた。
お陰で僕の体を縛っていた術も解けたけど…まだやることがある。
「あ、あ…誰かー!誰か…っ!」
男の体に駆け寄って、さっさと指先の針を抜き取ると、大急ぎで人を呼びに走った。
抜き取った時には既にびくびくと痙攣し始めていた男は、僕が誰か連れて戻る頃には息絶えているだろう。
乱れた着物のまま、僕は驚き怯える少女のフリをしてよたよたと走った。
思った以上に早く片付いてしまった任務に、先輩の制裁を覚悟しながら。
*****
面倒なコトになってしまった。
「ちっ!」
舌打ちする先輩の目の前で身をすくませるしかない僕は…未だに女の子の格好をしていた。
「あ、あのう…ごめんなさい…!」
依頼主の大名が、念には念を入れさせた結果だ。
錯乱して怯える少女…つまりは僕を、木の葉の里の医療班に見せ、そこで本来の見合い相手である娘と入れ替えろと言い出したのだ。
弄ばれて恐らく消されたであろう少女たちのことを知っていたくせに、殊更丁寧に扱うことでそのうわさを払拭しようというコトだろう。
で、護衛に…なんでわざわざ先輩が来ちゃってるのかって言うのが問題だよ…!
びくびくしながら様子を伺うと、先輩が恐ろしい殺気を纏ったまま、ぼそりと呟いた。
「イルカが、テンゾウさんも一緒だよねなんて言わなきゃ…!」
…そうか。つまり僕は疲れ果ててるのに、これから地雷原で天国と地獄を味わわないといけないってことか…。
「あ、あのう…」
「大人しく護衛されてろ。急いでる。担いで運ぶからな」
「え!?ええええ!?」
その言葉どおり、僕は先輩の恐ろしいスピードで里まで運ばれるコトになった。
…結局イルカさんちに直接運び込まれて情けない姿を見られたり、それをかわいいです!なんて誉められたり散々だったけれど…。
いきなり押し付けてきた大量の化粧道具を使っての女装訓練は…一体何のためだったんですか!?先輩…!


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幼馴染で夫夫扱いになってる(イルカはおそらく良く分かってない。)カカイルと、 少年なテンゾウ(チョイ馬鹿)の続きでございます…。
テンゾウたんが女装したらキモイだろうなぁと思ったので!←鬼。
えー…ご意見ご感想など、お気軽にどうぞ…。

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