先輩20 -祝福の日-(ヤマト視点幼馴染カカイル夫夫)

「はぁ…」
薄暗い部屋の中で響く自分の溜息が、重苦しい空気をより一層暗い物にした。
僕だってこんなに暗い気分で過したいわけじゃない。
でも、だって…!
「これ…今年も…」
可愛らしいベージュの封筒は、使われている紙もふんわりとしていていかにも高級そうだ。それに貼られたイルカのシールも可愛らしい。
ただ…その中身が…!
「お誕生日会の招待状って…これ、先輩の字だよね…」
何がどうなってこんな物が届いたのかさっぱり分からないんだけど、行かないっていう選択肢はこれで消えた。
先輩の誘いなら…断れない。
つまりこれで、僕がイルカさんの誕生日会に参加するって事は決定事項になった。…嫉妬深い先輩の餌食になるってことも。
…最初にこれを見つけたとき、僕はうっかりイルカさん本人がまたなにかくれただろうって思ったんだ。
イルカさんは僕が先輩とよく組むせいか、すごくいろんなコトに気を使ってくれる。
ちょっとした伝令をしただけでも、お礼にって手作りのお菓子とか、手ぬぐいとか、お守りになるって言う植物の押し花で作ったしおりとか…いろんな物をプレゼントしてくれたり、ご飯に呼んでくれたりもする。
そういう時に、いつだってイルカさんはちょっと不安そうな顔で僕の返事を待っているから…絶対に断れないんだよね…。
ありがとうございますって言うと、イルカさんが里中の花がいっぺんに咲き乱れるみたいなキラキラした笑顔で微笑んでくれるから、ついつい受け取っちゃうって言うのもあるんだけど。
でも、その結果何度も僕は命の危機に陥るっていうか…!
…先輩は本当に自分の奥さんのことが大切だから…ちょっとそのう、嫉妬ってヤツが激しすぎて僕は色々と苦労してきてるけど。
まあようするに、これの中身によっては、また先輩に半殺しにされちゃうなぁって思いと、イルカさんの笑顔が頭の中でぐるぐるして、手の中の封筒を開けるのに手が震えた。
何が入ってるんだろうってドキドキしながら可愛らしいイルカのシールをそっと剥がすと、簡潔すぎるほど簡潔に、お誕生日会のお知らせってタイトルと、先輩の家でやるってことと、プレゼントを忘れるなってことだけが書かれていた。
…先輩の字で。
去年も散々な目にあったけど、こんな風に招待状まで貰うって事はなかった。
今年こそ、先輩が十分にイルカさんを祝ってから、ころあいを見計らって任務が立て込んでたとか適当な理由つけて渡しちゃおうと思ったのに…!
「はぁ…」
溜息の重さはどんどん増えていったけど、手の中の招待状はなくならない。
先輩の達筆で書かれた手紙の文字だって、はっきりくっきり目に飛び込んでくる。
「…がんばろう…とりあえず任務に支障がでないといいな…」
…僕は誤魔化しようがない疲労感を滲ませながら、用意してあった誕生日プレゼント片手に、深い深い溜息をついたのだった。
*****
「ちっ!来たか」
「は、はい…お邪魔します…」
予想通り過ぎる展開だ。
ちゃんと時間通りに到着したのに、玄関で仁王立ちになって僕を鋭い視線で射抜いているのは…先輩だ。
腕組みして殺気だって溢れてるし、お祝いって雰囲気なんか欠片もない。
…ってことは、お祝いに呼んで欲しいって言ったの、多分イルカさんなんだろうな…。
溜息がまたこぼれそうになったけど、お祝いだからと踏みとどまった。
「あ!テンゾウさん!よかったぁ…!テンゾウさんはいつも忙しいし、招待状だすのが遅くなったから、無理かなぁって思ってたんです…!」
にこにこ笑って手放しに喜んでくれるイルカさんを見ているだけで、僕の心臓はさっきとは別の意味でドキドキしだした。
まあその隣で僕にだけ殺気むけてくる先輩のお陰で、ドキドキするのがどっちのせいかはっきり分からないんだけどね…。
「あ、いえその!丁寧なご招待ありがとうございます!これ!プレゼントです」
この空気なら確実にこのままここにいる方が危ない。先輩の殺気はすさまじいし、僕を呼ぶこと事態反対だったんだって分かりすぎるほど分かっているから。
だから…お祝いだけ渡して、あとは適当な理由をつけて逃げようと思ったのに。
「上がってください!今日はいっつもお世話になってるテンゾウさんにお礼したいなぁって!」
「え!?でも!」
わー!そのセリフはまずいですって!イルカさん!
これは…ひょっとしなくても…!?
「上がれ。…イルカへの祝いはその程度か…?」
ああ、やっぱり。
これで…僕が酷い目に合うのも確定ってことだね…。
「テンゾウさん?」
小首をかしげてこっちを見つめるイルカさんのためにも、ここは我慢だ…!
「いえ!なんでもないんです!」
震える手をさりげなく後ろに回して誤魔化しながら、僕は色々と覚悟を決めたのだった。
*****
用意されていたのはすごい量のご馳走だった。
多分イルカさんと先輩でいっしょにがんばって作ったんだろうけど、量なんかから考えると多分先輩がほとんどやってそうだしね…。
それにプレゼントも喜んでもらえた。
去年は大事にされすぎて先輩の逆鱗に触れたから、今回はイルカさんの大好きならーめん屋の食べ放題券や、食事券の詰め合わせにしてみて正解だったなぁ!
…で、つまり、結局。
「こうなるよね…」
先輩の愛の篭ったプレゼントをイルカさんに渡す寸前、すさまじい殺気と…それからチャクラで、何とか言い訳して逃げてくるのが大変だった。
「早くしろよ?修行にならないだろ!」
「は、はい!」
溜息もつけないくらい気合いの入った先輩は、今日も手加減してくれそうにない。
僕は今年も…イルカさんを十分に祝えなかったことを悔いながら、最高の笑顔のイルカさんとそれを受け入れてくれる先輩を思い出して複雑な気分に刈られたのだった。
…洗濯籠一杯の染み抜きをこなしながら。


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幼馴染で夫夫扱いになってる(イルカはおそらく良く分かってない。)カカイルと、 少年なテンゾウ(チョイ馬鹿)の続きでございます…。
おいわいー!びみょうか…!?
えー…ご意見ご感想など、お気軽にどうぞ…。

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