任務中の…もっと言うなら、奥さんと引き離されてる時の先輩の不機嫌さは今にはじまったことじゃないけど。 「あーもう!くっだらない!こんな物のせいでイルカにあえないなんて…!」 今日はまた一段と不機嫌っていうか、殺気だってさえいる。 「あ、あの、先輩、任務ですからら、もうちょっとだけ穏便に…!」 無理だと分かっていてもそういわざるをえないのは、僕たち忍を見世物のように飾ることを望んだ依頼人の大名のせいだ。 こんなに間近で、しかも人が見ている所じゃ、いくら忍にしか聞こえないくらい小さい声だって言っても危なすぎるじゃないか! 高名な先輩をわざわざここの任務につけるために、とんでもない金額の依頼料を支払ったっていうこの大名は、そんな俺たちを眺めながら満足そうにしてるけどね…。 「今年の牡丹はより一層美しいですなぁ!忍に守らせるのも分かるというもの!」 「そうじゃろう?今年の新種は中々の出来でな。忍を雇わねばならぬのは面倒だが、美しさを守るにはそれ相応の対価を支払うのも道理…」 分かりやすいお追従に鷹揚にうなずいて、大名がふんぞり返って僕たちの守るその花を誉めそやしている。 キレイだってのは分かるんだけどね。僕にとってはただの花だ。 牡丹の花見会っていうのは風流だと思うけど、要するにただ自慢したいだけの大名に、コバンザメみたいにおこぼれ狙いの太鼓もちがくっ付いてるだけにしか見えないから。 「こんな花なんかより、断然イルカの法がキレイだし可愛いし最高だし!くっだらない!」 先輩がこんなコトを言い出しちゃうのも分かる気がした。 …まあもともと先輩はイルカさん以外のコトに興味ないからってだけだと思うんだけどね…。 「任務!任務ですから!先輩!」 何とかこの茶番が終わるまで先輩に暴れて欲しくなくて、今にも大名自慢の花を蹴散らしそうな殺気を放つ先輩を宥めた。 …無駄だってわかってはいたけど、それでも何もしないではいられなかっただけだ。 退屈で中身の無い任務。 ゆっくりと眺めさせられたその新種だという牡丹の花は、確かに美しい色合いとふんわりと広がる花弁が美しいと思う。 こんなことに僕たちを雇ってみせる大名の性格にぴったりな、派手で、分かりやすくキレイな花だ。 …イルカさんは、こういう派手な感じじゃないけど、側にいるだけで柔らかい空気を感じさせてくれるし、心を温かくしてくれるし、不思議な魅力がある。 そう。こんな花よりずっとずっと。 「この花もキレイだけど、イルカさんのほうがずっときれいだ」 気がつけば、僕はそう呟いてしまっていた。 「そんなの当たり前でしょ!イルカの可愛さも優しさも…こんな金だけ掛かった花なんかと比べようもない!」 殴られるかと思ったんだけど、先輩は却って機嫌が良くなったように見えたんだ。 だから、つい。 「そうですよね!この派手なばっかりの花より、イルカさんの方がずっとずっと可愛らしいし、ステキですよね!」 ボケツを掘っちゃったんだと気づいた時には後の祭りで。 「ま、当然だけど…だからって俺は他の奴らに大切なイルカを安売りするつもりはないんだよねぇ…?」 その殺気に、へらへらと牡丹自慢をしていた大名は「熱心な忍だのう!」って上機嫌だったけど、僕は…当然の事ながら退屈な任務の後の刺激的過ぎる時間を覚悟したのだった。 …制裁が五月の節句の準備中だったイルカさんのお陰で軽くなったのは幸いだったけど。 先輩…!どうして僕に大量のレース編みなんてやらせるんですか…!?意外に楽しかったのが自分でも恐ろしいです…! ********************************************************************************* 幼馴染で夫夫扱いになってる(イルカはおそらく良く分かってない。)カカイルと、 少年なテンゾウ(チョイ馬鹿)の続きでございます…。 がんばるテンゾウたんは、うっかり暗部応接室をレース編みだらけにして先輩に馬鹿にされたとかされなかったとか…! えー…ご意見ご感想など、お気軽にどうぞ…。 |