先輩18 -溢れすぎる愛-(ヤマト視点幼馴染カカイル夫夫)

ホワイトデーが近い。…ソレはつまり…。
「なにがいいかなー?やっぱりイルカにつまらないもの上げたくないよねぇ?」
サクサク敵忍を倒しながら、歌うように浮かれきった先輩がものすごい速さで駆け抜けていく。
お陰で僕は着いていくのがやっとだ。
舞い上がりきった先輩を、僕なんかじゃ止められるはずがない。
バレンタインデー当日だって…とんでもない目に合ったんだ。
イルカさんが僕と一緒に任務に出てた先輩にわざわざチョコを届けにきてくれて…そこまではよかったんだ。。…まあ途中奇襲にあって遅れそうになった先輩に罵られながら任務こなす羽目になってたけど。
でも、照れて耳まで真っ赤にしながら…それでも全開の笑顔で先輩を迎えに来てくれたイルカさん。
先輩は当然これまで仲間が卒倒しそうなほどの殺気を放っていたのがウソみたいに静まって、蕩けそうな笑顔を浮かべてイルカさんを抱きしめてたっけ。
僕も、嬉しかったんだ。幸せそうな二人を見られたから。
…やっぱりなんだか胸がちょっとだけ痛んだけど。
でも…。
「あ!テンゾウさん!…えっと!これ!どうぞ!おすそ分けです!」
差し出された箱は先輩のものと比べると小さかったけど、丁寧にリボンが巻かれていて真心が篭ってるって感じがした。
それはつまり…これを受け取れば先輩の嫉妬心をゴリゴリ刺激することになるってことだ。
「…あ、ありがとうございます…!」
一生懸命作ってくれたんだとわかるそれをつき返すことなんかできないし、先輩の機嫌は最悪だしで、任務でいい加減疲れていた僕にはその刺すような殺気は結構なダメージだった。
それでも。…どうせ受け取っても受け取らなくても針のむしろなのはわかってたから、僕はできるだけぎこちなくないように笑顔を作って、先輩の殺気に倒れそうなのを押し隠して、その可愛らしい箱を受け取った。
「後で、覚えとけよ…?」
僕にだけ聞こえるように囁かれた先輩の小さな小さな警告に背筋を凍らせながら。
「帰ろう!カカシ!…あのね?他にも色々作ってみたんだ!」
そんなことイルカさんにはにかみながら言われたら、先輩が逆らえるはずもなくて、その場ではなんとか制裁(と貰った義理チョコの略奪)は逃れられたんだけど…。
案の定その後…ずたぼろになるまで修行させられた後、美しいテーブルマナーとかいうのを仕込まれたっけ…。
なんとかイルカさんからもらったチョコだけは死守したし、凄く美味しかったからいいんだけどね…。
それに、いつもよりはマシだったし。
なぜって、先輩はよっぽどイルカさんから色々してもらったらしくて、機嫌がすっごく良かったからね。
そう、今日だって。
「もー!イルカったらすっごくかわいいのよ!あ、そこの。…だからって俺のイルカにちょっかいかけたら消すよ…?でね?ホワイトデー何がいーいって聞いたら、側にいてなんていうの!もう最高でしょ!絶対に喜ばせたいって思うでしょ!」
一応Aランク任務だっていうのに、ずーっとこの調子でイルカさんへのノロケを吐き続けている。
イルカさんらしいそのセリフは、きっと先輩にとって一番嬉しい言葉だったんだろう。
僕も分かる。大切な人に…誰よりも大切に思われてるって実感は、きっと先輩をもっともっと今よりも強くしてくれるんだろうって。
でも、今は任務中で、さっきからあんまりにも明後日なことを熱く語りながら容赦なく敵を倒してるから、敵の殺気もうなぎのぼりだ。…仲間の疲労も。
それに、僕は…こうして暢気に敵で遊んでるより、先輩にはするべきことがあると思ってしまったんだ。
「なににしようかなー?もういっそイルカのためだけにお菓子の家だって建てちゃいたい!」
イルカさんなら先輩から何を貰っても喜ぶだろうし…それになにより。
「そうやってプレゼントを喜んでくれてて、しかも奥さんのために悩んで考えてくれてるって知ったら、なにより喜ぶとは思うんですけど」
ぼそっと呟いたソレを、先輩は気に流してくれなかった。
さすが先輩だ!で、でも…敵に向けるよりも強い殺気は辞めてください…!
「なによ?テンゾウのくせに生意気にも俺に意見でも…?」
酷く低い声と殺気に、敵も動けなくなっている。
でも、僕は…!
「先輩が無事に帰ってきてくれることが一番だと思います。それで…できるだけ側にいて欲しいっていうのが本音だと…!」
殺気に気圧されながら、でもなんとかそれだけはいうコトが出来た。
だって、イルカさんならお菓子の家だって手作りのケーキだって喜ぶと思うけど、そんなものより絶対に一緒にいる時間が長い方がイイに決まってる。
寂しがり屋で…でもそれをわがままだと思って言えないでいる優しい人だから。
「…そう、ね…」
先輩の殺気がぴたりと止んだ。
代わりに辺りを圧倒するほどの桃色のチャクラが…!
「そうだよねぇ!イルカなら…きっと健気に今だって俺のこと待っててくれてる…!そうとなったら…さっさと片付けるよ!」
「は、はい!」
浮かれ気味とはいえ、僕がついていくのがやっとの速度で敵を倒していた先輩が、さらに速度を上げて倒した敵を山にしていく。
…これで、よかったんだよね…?
嬉しいのにどこかで胸が軋む音がして…自分でも訳が分からない。
ただ一つだけいえるのは、これできっとイルカさんが喜んでくれるってことと、それが僕にとっても凄く嬉しいことだってことだ。
並居る敵をなぎ払いながら、僕もソレを手助けしたいと思った。
*****
戦闘が終わるころには、僕も他の仲間も結構ガタガタになっていた。
なにせ先輩は張り切ってるし、そんな先輩に敵だって暢気に構えてられる訳がなくて、本気の本気でとんでもない術まで持ち出してきたからだ。
…まあ本気の先輩に敵うわけなんてなかったんだけど。
幸い先輩は無傷だし、僕もまあ殆ど怪我はない。仲間に余計なこと言いやがってっていうオーラをぶつけられはしたけどね…。
でもきっと…イルカさんは喜んでくれるはずだ。
そう思って自分を慰めてみたんだけど。
「イルカ…きっと待ってるよね…!感動の対面ってやつ?もうどうしよう!愛されてるよね!俺!…プレゼントもなぁ?いっそ俺がプレゼントなんてベタでいいかも!」
…邪魔する敵がいなくなったってことは、先輩のノロケを止めるものもいなくなったってことを僕は忘れていた。
里に帰りつくまでずーっとノロケの嵐を聞かされて、家に帰ってもどこからか聞こえてきそうなソレに悩まされるコトになるなんて想像できなかったんだ…。

先輩…ソレでも僕は…先輩のその愛の深さがうらやましいと思います。
なぜかずっと痛む胸が不思議でしょうがなかったけど…。


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幼馴染で夫夫扱いになってる(イルカはおそらく良く分かってない。)カカイルと、 少年なテンゾウ(チョイ馬鹿)の続きでございます…。
ラブラブバカップルとその被害者ってことで!当日はきっとまた恐ろしい目に合うといいよ!←鬼。
えー…ご意見ご感想など、お気軽にどうぞ…。

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